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Jを目指せ! by 木次成夫

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266回 松本山雅U-18の日本クラブユース選手権
by 木次成夫

7月23日に始まった日本クラブユースサッカー選手権(U-18)。初出場の松本山雅U-18は一次ラウンド3戦全敗に終わりました。出場24チームのうち22チームはJリーグ・クラブの下部組織で、もう1チームは“ユース・レベルの古豪”三菱養和。山雅U-18は際立って弱かったです。とはいえ、トップチームがJFL所属段階に下部組織が初の『全国』を経験できたことは、今後のクラブ作りという観点で、有意義だったと思います。

7月23日、山雅 0-18 ヴィッセル神戸U-18
7月24日、山雅 0-7 川崎フロンターレU-18 
7月26日、山雅 0-10 横浜FCユース

トーナメント形式の大会であれば、屈辱的な大敗も1試合で終わります。しかし、今大会は最少でも3試合。山雅選手にとっては未だかつて経験したことがない過酷な日々だったでしょう。40分ハーフ3試合合計0得点35失点。山雅はフィジカル能力、戦術理解度など多くの面で劣っていました。ただ、練習環境や選手のレベルを考慮すれば、18失点は多すぎとはいえ、大差の3連敗は想定内。観ていて、痛々しく感じることもありましたが、試合を重ねるごとに、成長を実感することもできました。

初戦は何も出来ずに惨敗したものの、2戦目は粘り強さを随所で披露。そして、3戦目は失点する24分まで、「これこそ集大成。得点も夢じゃない」と感じさせる内容でした。個々のプレーも、チーム全体としての動きも、初戦と比べると、まるで『別のチーム』。つまり、レベルが低いのは事実ですが、それが限界ではなく、成熟には程遠い段階だったということ。結果的に大量失点してしまったものの、最後まで得点への強い意欲も伝わって来ました。

もちろん、傍目に見れば「3戦惨敗」です。とはいえ、クラブやサポーター(ファン)からすれば、山雅でプレーすることを選択した子供たちがいたからこそ経験できたこと。ユース・チームを持っていない『Jリーグを目指すクラブ』では知りえない現実は、大きな夢へ向かってリスタートの“きっかけ”になったのではないでしょうか?

是非、選手たちをトップチームの試合に招待して、大観衆の前で「山雅を選んでくれてありがとう。十分なケアが出来ずに申し訳なかった。今後もクラブの一員として頑張ってほしい」くらいの声を掛けてほしいです。

[チームを選択できる重要性]
山雅にユース以下の下部組織ができたのは、「03年4月のことです。どのカテゴリーのチームという段階ではなく、子供から高校生まで約40人で始めました。今大会のメンバーのうち2人は当時からの生え抜きで、小学校4年生の時から山雅でプレーしています」(山雅U-18の高橋耕司監督)。

北信越リーグ所属の山雅サッカークラブが『Jリーグを目指す』松本山雅FCとして、本格的に活動を始めたのは04年シーズンから。つまり、トップチーム強化よりも下部組織の立ち上げの方が早かったわけです。

高橋監督は現在、山雅のトップチームを運営する(株)山雅の取締役と、下部組織を運営するNPO法人の理事長も務めています。高校時代は全国選手権に出場し、社会人になった後は山雅SCでプレー。山雅SCを母体にJリーグを目指す活動にも当初から関わってきたそうです。

「ユースに関しては、高校のサッカー部を辞めた子供たちの受け皿を作りたいという思いも、ありました」(高橋監督)。

実際、今大会の山雅U-18を見て、最も感じたのは、同監督が言う『受け皿』の重要性でした。「仲間とサッカーを続けたい」、「学校のサッカー部よりもプレースタイルが合う」など理由は様々であっても、学校の部活動以外に、チームを選択できることは幸いです。選手たちが3試合戦いきったことは、その証と言えるでしょう。  

[地域密着した下部組織とは?]
山雅は今季からトップチーム所属のGK山本剛が「日替わりで、U-18、U-15などの指導をしています。人柄も良い選手ですし、評判は良いですよ」(高橋監督)。GKは『専門職』ですから、指導者がいるかいないでは大違い。実際、今大会の正GK横山太紀(17歳、前・松本市山形村朝日村中学校組合立鉢盛中学校)は「素人が見ても明らかなくらい、短期間で急成長しました」(山雅U-18選手の親)とか。

なぜ、もっと早い段階から積極的に現役選手のコーチ兼任(引退選手のコーチ就任)を進めなかったのか疑問も感じますが、トップ選手による指導で好成果が出たことは幸いです。
よりいっそう、トップと下部組織の交流を深めるのが効果的だということですから。まずは、U-18の経験も活かして「完成度では負けない」チーム作りを模索してほしいです。

少子化などの事情も考慮すれば、他競技部門の整備も意義があると思います。当たり前のことですが、単一の学校では選手が揃わなくても、複数の学校から選手が集うクラブなら、様々な競技のチーム編成や、マイナー個人競技(種目)部門の設立が相対的に容易。そもそも、サッカー男子U-18で証明した『受け皿』としての存在意義は、他競技にも通じることです。つまり、民間クラブでプレーするという選択肢があった方が良い――。

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