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Jを目指せ! by 木次成夫

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272回 天皇杯1回戦 アルテ高崎対Y.S.C.C.(横浜スポーツ&カルチャー・クラブ)
by 木次成夫

天皇杯の魅力のひとつはJ1対J2、あるいはJリーグ対JFL以下など、天皇杯ならではの対戦があることです。つまり、他カテゴリーとの実力差を“ある程度”イメージできる貴重な機会。例えば、「J2で低迷しているが、JFLとは格が違う」とか「地域リーグとJFLの差は小さい」とか。一発勝負のカップ戦ゆえに“ある程度”ですが、対戦しないよりは“はるかに”サッカーの楽しみは広がります。

そういう観点では、J2の半数以上が『初戦はJ2どうし』というのは、面白味に欠けると思います。来季以降はJ2全チームが『初戦は都道府県代表と対戦』とした方が、ファン(サポーター)の観戦モチベーションが高まるのではないでしょうか?

そんなことも考えて、去る9月3日と4日に行われた1回戦は、アルテ高崎(群馬県代表、JFL所属)対Y.S.C.C(神奈川県代表、関東1部所属)を見に行きました。JFL入替“前哨”戦という位置づけもできるカード。台風の影響を懸念していたのですが、幸いにも「曇り一時雨」でした。

≪JFL下位4チームの順位≫
15位:横河武蔵野(勝ち点14)
16位:アルテ高崎(12)
17位:ジェフリザーブズ(12)
18位:ソニー仙台(3)
*リーグ成績は9月3日時点、以下同。

≪JFL⇔地域リーグ≫
地域決勝(全国地域リーグ決勝大会)上位2チームはJFL自動昇格。


Jリーグ参入が0チームの場合、JFL16位が地域決勝3位と入替戦。
J参入が1チームの場合、JFL17位が地域決勝3位と入替戦。
J参入が2チームの場合、JFL18位が地域決勝3位と入替戦。

≪Y.S.C.C.≫
関東1部1位(9勝1分け1敗。残り3試合のうち1勝すれば3連覇が決まる状況)。地域決勝は過去2年連続で決勝ラウンド4位。

●9月4日 天皇杯1回戦
アルテ高崎 2-0 Y.S.C.C.


[得点経過]
3分 1-0(得点:DF山田裕也、27歳、前・群馬大学)
*FK→ヘディング

30分 2-0(得点:FW伊藤和基、24歳、前・東海大学)
*DF田中舜(23歳=写真=今季加入、前・立教大学)のクロス→左足ダイレクト

[試合総括]
アルテが格上の貫禄を見せつけました。序盤に先制した上に、「相手(Y.S.C.C.)のリズムが良い時に追加点が取れました」(アルテの後藤義一監督)。対するY.S.C.Cは随所で健闘したものの、「先制点が勝敗を分けたと思います」(鈴木陽平選手兼監督)。格下が最もしてはいけないことは序盤の失点。その上、2失点共“寄せ”の甘さが要因。鈴木監督が悔やむのは無理もありません。

≪シュート本数≫
アルテ13 本(前半8本、後半5本)
Y.S.C.C.7本(前半6本、後半1本)

後半のシュート本数は、この日のY.S.C.C.を象徴しています。持ち前のパスワークで試合を優勢に進めながらも、決定的な状況までは至らず。例えば、サイドで1対1の勝負に持ち込んで、その後、切り込めなかったり、クロスが大雑把だったり。つまり、パスを回しているようで、(アルテに)回させられてしまったことは否めません

≪スタメン平均年齢≫
アルテ=24、1歳
Y.S.C.C.=23、4歳

共に完全アマチュア・チームで、多くの選手が大学サッカー経験者です。では、両チーム
の差は? Y.S.C.C.の鈴木監督いわく「JFLで厳しい戦いを経験しているチームと(関東1
部)の差」。実際、危機を事前に予測した対応、出来ることと出来ないことの判断と実践な
ど、アルテは試合巧者でした。リーグ成績は2勝6分け10敗ながらも、うち7敗は1点差。
JFLでの『粘り』が、格下相手に『勝負強さ』として活きたとも言えるでしょう。

[Y.S.C.C.の今後]
敗れたとはいえ、この試合はY.S.C.C.にとっても有意義でした。JFL下位との差を体感できた上に、試合運びの未熟さなど“克服可能な”課題が見つかったのですから。今後、「仕事とサッカーの両立」などアマチュアの限界を考慮すると、全社(全国社会人選手権)を含めて、残る公式戦を全勝狙いで臨むことが最も現実的な強化策だと思います。

例えば昨季、四国リーグを制したカマタマーレ讃岐は“必ずしも勝つ必要がない”全社でも優勝を果たし、高いモチベーションを維持したまま地域決勝1位。同様に全社準優勝の長野パルセイロは地域決勝2位。大事なのは地域決勝時点での勢いと自信。もちろん、実際に戦って昇格を逃したY.S.C.C.は熟知していることですが……。

[天皇杯2回戦展望]
後藤監督がアルテを率いて3シーズン目。過去2年連続で鹿島アントラーズと対戦し、09年は守備重視で自陣に引く「ベタ引き」(後藤監督)で0-1、昨年は「ガチンコ勝負」(後藤監督)で0-6。共に敗れています。今大会2回戦(10月8日~12日)の相手は川崎フロンターレ。後藤監督いわく、

「抱負は、ありません。スカウティングして、どうのこうのというチームじゃないから。(選手には)J1と戦う喜びを感じて、やってほしい。どこまで通用するかを含めて、選手が楽しみにしている大会だから、良い準備をして臨みたい」。

もちろんアルテ戦以外にも、格下クラブが『どこまで通用するか』という観点で注目カードは多々あります。

例えば、『ジャイキリ』実績があるという点では、
「昨年、東京Vを破った」町田ゼルビア対甲府
「08年に湘南、09年に浦和を破った」松本山雅対横浜FC
「09年にC大阪を破った」福島ユナイテッド(東北1部所属)対磐田
ソニー仙台対ベガルタ仙台(昨年は同カードでソニーが勝利)

初出場という点では、
鈴鹿ランポーレ(三重県代表、東海1部所属)対名古屋
FC KAGOSHIMA(鹿児島県代表、九州リーグ所属)対FC東京


近隣対決という点では、
ブラウブリッツ秋田対山形

など――。残念ながら、仙台「対決」と山雅戦以外は格上ホーム。地域密着文化の意義をアピールするなら、せめて福島U戦だけでも『震災復興支援特例』として、東北開催に変更してほしいところです。

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