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「ボールは丸い」~慶大ソッカー部マネージャー戦記 by 呉田幸子

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もしサッカー部が全員、楽器を演奏しているとしたら
by 呉田幸子

 最近、何が勝利や結果につながっているかというのを考えています。答えはなかなか見つかりません。

 私は小中学校で吹奏楽をやっていました。全国大会出場2回、東日本大会優勝1回という素晴らしい経験をさせていただきました。

 小学校は東京でも有名な吹奏楽団で小学4年生から6年生まで50人以上が所属していました。
 カッコいいサックスという楽器がどうしてもやりたくて、男の先輩ばかりで怖かったサックスパートに申し出をしたのが始まりです。

 中学は、小学校の隣にあったので、吹奏楽団から続ける生徒が半数以上、他の小学校から入って楽器を始める生徒もいました。

 あ、すみません。サッカーとまるで関係ない話に、どーしたどーしたとお思いでしょうが、これが私の原点なのです。良い組織を作るためにどうすれば良いかというのを考えたのは、吹奏楽からでした。

 中学校の時の話をさせていただきます。
 私達の目標はコンクールで金賞を獲ることでした。コンクールには部員のほぼ全員が出場することができます。50人で1つの音楽を演奏するということは、1人たりとも変な音を出してはいけないということです。楽器を持ってそこに座る以上、サボることはむろん、「できない」という状況が許されません。練習においてサボっていたことが、本番ではゼロとなるのではなく、目に見える形でチームにマイナスになるのです。

 クラリネットは超人気パートで、8人程いました。その中でのレベルは様々で、小学校から初めて6年目の子もいれば、数か月前に初めて触った子もいました。
コンクールの曲は、クラリネットだけのメロディーで始まります。超重要なパートです。しかし、8人が全員完璧には吹けませんでした。先生は、「もう4人だけしか音出さなくていいよ。」と言いました。

 組織にいながら存在がないものと認識されたということです。組織にいるということはそれなりの責任を伴うことだと、中学生ながらにみんなが感じたでしょうか。

 1人ひとりが楽器を持っている限り、音楽全体の為になる美しい音を出してほしい。その為には、毎日の熱心な練習と、チームの一体感が必要だと中学3年生の私は考えていました。
 部長だった私は、校則を破ってスカートを超短く履いていた打楽器担当のギャルに、泣きながら「スカートを長くしてくれ」と訴えた記憶もあります。

 そんな努力の末、コンクールで最後に響いた和音が今でも忘れられません。50人の音が本当に1つに重なり、会場に響き、沢山の人の心を捉えたあの瞬間が、本当に心地よく、嬉しいものでした。

 ちなみに、スローガンは「協奏魂」でした。運命的にも慶大ソッカー部が掲げている「KYOSO」と似ています。
 チームにいる以上、やらねばならない。汚い音を鳴らしてはならないし、違ったタイミングで音を出してはならないのです。

 音楽とは「時間の芸術」だと吹奏楽部の先生はよく言っていました。時間は常に流れていくもので、過ぎ去った時間に取り返しは出来ない。絵画のように書き直しはできません。

 ソッカー部は、このコラムを書き始めたときには予想もしていなかった、“負けたら終わり”(1部残留が絶望的になってしまう)という状況です。
「時間の芸術」と似通った点があると思います。そこで一歩足を出さなかったら、そこでもう少し走らなかったら終わり。90分間だけの話ではありません。練習で手を抜いたら、シュート練せずに帰ったら、靴で乱れた玄関を素通りしたら終わり、過ぎ去った時間はもう返ってきません。

 心苦しい状況ながら、コラムを書かせていただきました。何が結果につながるのかというのは私が言えることではないのは承知です。

 しかし、週末の試合で、一糸乱れぬ美しい和音を響かせるために、また前向きに頑張っていきたいと思います。

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