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山本昌邦のビッグデータ・フットボール by 山本昌邦

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第1回「“左利き”のチームを補正する本田のポジショニング」(前編)
by 山本昌邦

指導者・解説者の山本昌邦が、データを基にサッカーを徹底分析するコラムがついにスタート! その名も「山本昌邦のビッグデータ・フットボール」。記念すべき第1回は、「“左利き”のチームを補正する本田のポジショニング」を前後編にわたってお贈りする。日本代表コーチや五輪代表監督として、世界を丸裸にしてきたその分析力で、ザックジャパンに鋭いメスを入れる。

 セルビア、ベラルーシに無得点の2連敗に終わった10月の日本代表の東欧遠征。ベラルーシに0-1で敗れた後、MF本田圭佑(CSKA)は「新しいことにトライしている」「そのために前に良かったところが出せなくなるチクハグさはあったかもしれない」と語ったそうだ。その「新しいトライ」の中身について本田は明言を避けているが、私には幾つかのデータがその中身を十分に物語っているように思える。

 日本が“左利き”のチームであることは既に知られたことだろう。左サイドにはDFラインにDF長友佑都(インテル)、2列目にFW香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)という攻撃力を備えたタレントがいて、ダブルボランチの左側に入るMF遠藤保仁(G大阪)というコントローラーもいる。その左サイドの輪の中にキープ力のあるトップ下の本田も加わると第3、第4の動きまで促して攻撃はより複雑になる。相手は止めるのが難しくなる。そうやって左から崩して中央へ流し込んだボールを右サイドから急襲するFW岡崎慎司(マインツ)が仕留めるのはザックジャパンの主たる得点パターンである。

 相手も当然そこを封じにかかるが、W杯アジア予選では個の力で上回り、事なきを得た。W杯本大会となるとどうか。精鋭ぞろいの相手に真剣に左サイドをつぶしにかかられたらどうなるのか。そのリスクを具体的に突きつけられたのが今回の東欧遠征だったように思う。

 10月11日のセルビア戦。相手は香川に右サイドバックのDFアントニオ・ルカビナ(バジャドリード)を付けるだけでなく、長友にもMFドゥシャン・バスタ(ウディネーゼ)を対峙させて思う存分引っ張り合いをさせた。右サイド(日本の左サイド)から鋭い攻撃を仕掛けて、攻撃に上がらせるとうるさい長友を抑制する。そうすればおのずと香川も孤立する、という策。図1のセルビア戦のスルーパスの軌跡を見てもらえれば分かるが、セルビアのゴール方向への崩しのパスのほとんどはピッチの右半分からリリースされたものだった。

 そういうセルビアに日本も素早くリアクションしたと思う。この試合、右サイドバックのDF内田篤人(シャルケ)は果敢な攻撃参加を見せた。21分にはDF吉田麻也(サウサンプトン)のロングパスを受けてPA内に侵入、あわやPKという場面を作り出した。これなど内田なりに閉塞感を打破しようと試みたのだろう。チーム全体として見ても日本の崩しのパスは右サイドから中央にかけてリリースされたものが圧倒的に多い。

 しかし、それらが有効打になったかというとそうでもなかった。最近では一番出来が良かったガーナ戦(3-1、9月10日)と比べるとその差は歴然としている。ガーナ戦ではバイタルエリアまで潜り込み、通ればチャンスというようなスルーパスをボックス内に何本も通せていた。

 おそらく、11月にベルギーで予定されるオランダ(16日)、ベルギー(19日)とのフレンドリーマッチでも相手は日本の左サイドの攻めを十分にケアしてくるだろう。来年のW杯本大会をにらめば、左利きの日本を両利きにすることは一番の課題かもしれない。

(後編は、日本対オランダ戦直前の11月16日14時頃公開予定です)


やまもと・まさくに
1958年4月4日、静岡県生まれ。日本代表コーチとして2002年の日韓W杯を戦いベスト16進出に貢献。五輪には、コーチとしては1996年アトランタと2000年シドニー、監督としては2004年アテネを指揮し、その後は古巣であるジュビロ磐田の監督を務めた。現在は解説者として、書籍も多数刊行するなど精力的に活動を続けている。

協力:Football LAB

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