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素顔のなでしこたち

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 スマートフォン対応の電子サッカー雑誌「ゲキサカプラス」で好評連載中の『素顔のなでしこたち』。日本女子代表(なでしこジャパン)の主力選手のインタビュー記事と撮りおろし写真を掲載したスペシャルコンテンツの一部をゲキサカでも特別公開します。
 女子W杯制覇、ロンドン五輪アジア最終予選突破。国民栄誉賞も受賞し、「なでしこジャパン」が流行語大賞に選ばれるなど、2011年の“顔”となった彼女たちの素顔に迫るロングインタビュー。第3弾は、INAC神戸レオネッサのFW大野忍選手です。
 なお、電子サッカー雑誌「ゲキサカプラス」はiPad、iPhone、iPod touch、ソフトバンク3G携帯、ソフトバンクアンドロイド携帯に対応。アプリ「ビューン」にて閲覧可能です。ゲキサカプラスでしかご覧いただけない写真も多数掲載されていますので、是非そちらでもお楽しみください。


 そのゴール数が示すように、大野は生粋のストライカーだ。1対1では果敢に勝負を仕掛け、DFとの駆け引きから一瞬で裏を取る。そのすべてはゴールを決めるための“手段”。クラブチームはもちろん、なでしこジャパンでもエースとして君臨してきた彼女にとって、2011年は新たなチャレンジの1年でもあった。女子W杯の壮行試合として愛媛で行われた韓国戦で佐々木則夫監督に与えられたポジションは4-4-2の右サイドハーフ。なぜ、自分がFWではないのか……。葛藤と苦悩を抱えたまま、女子W杯が開催されるドイツに乗り込んだ。

―女子W杯の直前に右サイドハーフにコンバートされました。ストライカーとしてのプライドやこだわりもあったと思いますが、どうやって気持ちを整理したんですか?
「やっぱり一番前のポジションがやりたかったですけど、サッカーは団体競技ですし、自分のわがままや意見を通そうという気持ちにはなりませんでした。与えられた仕事をしっかりこなすことが大事だと思いますし、試合に出たくても出られない選手、登録メンバーに入りたくても入れない選手もいます。その中で自分が11人の先発メンバーに入っているのは事実ですし、そんなわがままを言ってないでやったほうがいいのかなと思って、吹っ切ってやりましたね」

―すぐに吹っ切れましたか?
「やっぱり、すぐには吹っ切れなかったです(笑)。宮間(あや)選手とかがふざけて『FWは大野だ』みたいなことを監督の前で普通に言ったりするんですよ。『やめて、やめて!』って言ってたんですが、そういう風に自分に一番前でプレーしてもらいたいと思ってくれている選手もいました。悔しさもありますし、試合を見ていて『自分だったらあそこで背後を取れるのにな』と思うシーンもありましたけど、味方割れをしてもしょうがないですから」

―クラブではFW、代表ではサイドハーフ。役割も変わりますが、切り替えは難しかったですか?
「どこのポジションで出ても、自分の仕事、役割をしっかりこなしたいというのを一番心がけていました。代表でサイドをやるようになって、サイドから見える戦術というのも全然違いました。そういう意味では、自分のプレースタイルの幅がまた広がったのかなと思います」

―サイドを経験することでFWとして生きた部分もあったということですか?
「ポジションによってプレッシャーの質が違うんだなと感じましたね。簡単にボールを奪われないために早くはたこうとか、真ん中で自分のミスが多くなったなと思ったらサイドに逃げて受けようとか、そういう幅は出たと思います」

―代表の右SBは近賀ゆかり選手。右サイドは「INACライン」です。
「冗談抜きで、今度、佐々木監督に会ったら『もうFWはやらせないで』と言いたいですね(笑)。自分も覚悟を持って、右サイドで近賀といいコンビネーションをつくっていきたいと思っていますし、中途半端に『今度はFWで行ってこい』とか言ってほしくないので。右なら右で、勝負させてもらいたいと思ってます」

―今年やってきた中で、右サイドの連係のいかがでしたか?
「楽しかったですよ。左は宮間、鮫島(彩)という強烈なキャラがポンポンといるので(笑)。近ちゃん(近賀)とは『左サイドに勝とうよ』とずっと話しています。日本のサッカーはフィジカルでは劣るので、ビルドアップで苦しくなると、最終的には一発で相手の裏に大きく蹴ることもあるんですが、『右サイドだけは2人で崩していこう』と話しています。自由にやる2人を、右のCBの岩清水(梓)がカバーしてくれるという連係もできているので。試合前はいつも3人で手と手を重ねて気合いを入れてます(笑)」

―女子W杯やその後行われたロンドン五輪アジア最終予選で手応えはつかめましたか?
「W杯で多少できたので、『五輪予選ではもっとやろう』と話していました。予選ではできた部分もできなかった部分もあったので、今度はそれを五輪本大会で生かそうと話しています」

 “なでしこフィーバー”に沸いた2011年。世間の注目度は半年前には想像もつかなかったほど高まり、大野自身、神戸の街を歩けば、気づかれないことの方が少ない。2012年、世界女王として挑むロンドン五輪。日本中が金メダルを期待する中、なでしこジャパンはプレッシャーという新たな“敵”とも戦うことになる。

―あらためて2011年はどんな1年でしたか?
「本当に特別な1年だったと思います。自分たちが一番目指していたのは五輪の金メダルでした。その前に世界一を取っちゃうなんて、だれも予想していませんでした。世界一になったことでこれだけ女子サッカーが注目されるようになって、サッカーをやっている女の子たちに夢を持ってもらえたことがうれしいですし、自分たちももっとがんばらなきゃいけないと思っています」

―これだけ女子サッカーが注目されるようになったことをどう思っていますか?
「信じられないですよね(笑)。INACで次の試合に向けたミーティングをするとき、その前の試合の映像を見るんですけど、W杯前の試合の映像を見ると、スタンドがガラガラなんですよ。自分たちの声がビデオからも丸聞こえで。今ではそんなことは絶対にないですし、そういう映像を見て選手同士で『懐かしいね』とか『こんなだったんだね』って話すんです。本当にすごいことをしてきたんだなと思いますし、たくさんの人に見に来ていただいて、すごくうれしい気持ちを自分だけじゃなくて、選手全員が持っていると思います」

―これからがまた大事になりますか?
「こうやって試合を見に来ていただいた中で、自分たちがもっともっとがんばらないといけないと思います。見に来てくれた人が『女子サッカーも面白いよ』と思ってもらえるようなプレーをしていきたいですし、自分たちももっともっとがんばらないといけないという気持ちになっています」

―戸惑ったことはなかったですか?
「ありすぎます(笑)。普通に歩けないとか、そういうこともあるので。友達にも変に気を使わせちゃったりして。ご飯を食べに行くにも『個室、用意しとくから』って言われたり。自分としては変わりたくないし、『全然いいよ』って言うんですけど……。そういうところで気を使わせてしまっている部分は申し訳ないなと思います」

―2012年はどんな年にしていきたいですか?
「もっと挑戦していきたいですね。自分がどれだけできるのか挑戦していきたいですし、なでしことしても、INACとしても、もっともっと上を目指していきたいです。『あのチームは本当に面白いよ』と言ってもらえるように。『男子なんて見ない方がいいよ』と言わせるぐらいがんばっていきたいと思います」

―ロンドン五輪では結果も大事になりますね。
「そうですね。一番は結果だと思います。INACの星川(敬)監督も『結果を出さないと周りの人たちは見に来なくなるよ』とよく言っているんですが、本当にそのとおりだと思いますし、結果を出して、もっともっと自分たちをいろんな方に知ってもらえるようにしていきたいです」

―ロンドン五輪は、今までのチャレンジャーとして挑んだ五輪とは違う大会になりますか?
「そこも変わらずにいたいですね。選手同士では『自分たちは常にチャレンジャーでいたいね』といつも話しています。自分たちが世界一を取ったからといって、本当に世界で一番だと思っている選手なんて、だれもいないと思います。またあのアメリカの怒涛の攻めをくらうと思うと、今から超怖がってるんですよ(笑)。でも、そういうのも楽しみながら、また金メダルを取りにいきたいと思います」

―個人的にロンドン五輪では何点取りたいですか?
「えー、何点!? 1点でも多く取りたいです。でも、まずはメンバーに選ばれることが一番だと思いますし、(五輪の登録メンバーが)18人という少ない人数なので。そこに選ばれないと意味がないですし、メンバーに選ばれたときに、もう一度『何点取りたいか』という質問をしていただければと思います(笑)」

(取材・文 西山紘平)

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