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「ボールは丸い」~慶大ソッカー部マネージャー戦記 by 呉田幸子

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「ボールは丸い」特別編 ~福幸を願うフラッグ~
by 呉田幸子

 東日本大震災から3年。部活に追われていたというのも言い訳で、恥ずかしながら震災後一度も被災地に足を運んだことがありませんでした。3年経つと人の関心も徐々に薄れ、切り取られた一部分だけが、テレビに流れる時代です。実際に自分の目で見て、人の話を聞きたいと思い、宮城・南三陸町で行われているプログラムに参加することにしました。これは大学生活でやり残したことでした。

 そこで出会った、「ボールは丸い」ストーリーを1つ紹介したいと思います。

 東日本大震災の大津波によって60%を超える住宅が被災した南三陸町の歌津地区にある、伊里前福幸商店街を訪れました。仮設のお店が10件ほど並ぶ小さな商店街です。商店街は物資、情報、人が集まるという機能を果たします。今まで以上に活気ある地域にしたいと、店主さんたちが私財をなげうって開いた商店街だそうです。

 そこに、Jリーグなどのチームの旗がいくつも掲げられていたのです。

 恥ずかしながらこの商店街のこともその旗のことも知らなかった私は、商店街の方に詳しい話を聞かせてもらおうと思い、お店に入りました。「あれは何ですか」と尋ねると快くお話しして下さいました。

 漁業が盛んなこの歌津地区。船や家と一緒に大切な大漁旗が大津波によって流されてしまいました。

 最初は、他のところから借りてきて掲げていたそうですが、それも結局返さなければならない時期がきました。そこで、何か代わりのものがないかとTwitterなどで呼びかけてみたそうです。

 するとJリーグクラブのサポーターの方が、サッカーフラッグはどうかと言って、持ってきたり送ってくれました。大漁旗のように名前が明記されるだけでなく、復興を願うメッセージ入りです。

 以来、その活動は広がり、全国のチーム、また海外のチームからもフラッグが集まりました。ついにはJリーグ全チームの旗を揃えました。もちろんJリーグの旗だけでなく海外クラブもあるし、通常の大漁旗、野球チームの旗などもあります。

 それが今、伊里前商店街の空を彩っていました。全国から沢山の人の思いが集められたのです。子供たちもそれに大喜びし、この地域の希望の象徴になっているようです。

 Jリーグの力、サッカーの力、それに関わる人達のものすごい力を感じ、圧倒され、空を見上げて立ち尽くす自分がいました。建物が流され、広がってしまった大地と空に、誇らしげになびいていたその旗たちを見て、心が震えました。同時に困難に負けないで生きていく現地の人たちのパワーにも圧倒されました。

 このような力があれば、今回のような災害、更には戦争や民族問題、歴史問題のような人類が抱える問題にも打ち勝っていけるのではないかと、そんな大きなことまで感じました。

 人種差別問題が取り沙汰されている時期でしたから、「サポーターの力は捨てたもんじゃないな」と(偉そうな言い方ですが)、思いました。横断幕やフラッグには良いメッセージも悪いメッセージも込めることができる――たった1枚の布の影響力は図りしれませんね。

 お店も家も被害に遭われ、現在は商店街でスポーツショップをやっていらっしゃるお母さんに、1つ質問をしました。

「生きていくのに必死な状況下で、スポーツや娯楽って本当に必要なのでしょうか。」

 スポーツで人に幸せを、という志を持つ私は、被災地に立ってそのような問いを抱いたからです。
「うん、必要だと思う。」柔らかい東北なまりで、力強く答えて下さったお母さんの言葉は、私の背中をぐっと押しました。
「みんなで一緒にやって笑って、やっぱり心が和むもんね。」

 サッカー少年を息子に持つお母さんが、涙を浮かべながら話してくださったお話は、忘れられません。

 確かに、生きていくのに必要な生活ができるように、行政が動いたり、企業がサポートすることが何より大切です。被災時の状況、3年間に行われてきたこと、現在の問題などを現地で見たり聞いたりして、そう学び実感しました。
 その一方で、ちっぽけな私は、私のできる方法で、こういう人たちを笑顔にできるようになりたいと思いました。そんな強い決意をお土産に商店街を去りました。

 自分にできることからでいい、という言葉を聞き、被災地をあとにしました。少しでも知って下さる人が増えればと思いこの記事を書くことにしました。伊里前復幸商店街のHPなどで詳しい様子を見たり、更には実際に現地に行っていただければ嬉しいです。
風化させずに関心を持って、沢山の人が力を出し合うことが大事だと、情けないことですが3年経った今、思いました。

 東北での出会いに感謝し、私も負けじと頑張っていきたいです。

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