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POINT OF SOCCER by 長谷川望

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シンガポールサッカーとその進化
by 長谷川望

 今月14日、日本代表とブラジル代表の一戦が行われたシンガポール。人口約540万人、東京23区ほどの国土のこの国で、サッカーは最も人気があるスポーツの一つです。東南アジアサッカー選手権(スズキカップ)で4回優勝を飾り最多優勝数を記録するなど、東南アジアの中では強豪国として知られています。シンガポールが東南アジアで結果を残しているのには、どのような理由があるのでしょうか。

 シンガポールで初めてプロサッカー選手になった日本人がいます。斉藤泰一郎氏(39歳)は早稲田大学ア式蹴球部卒業後、1999年から6年間シンガポールでプロ選手として活躍しました。斉藤氏は小学3年から中学2年までシンガポールで暮らしていた事もあり、第二の故郷とも言える地で未来を切り開いていく事を決めました。2006年以降はガーナ、オーストラリアと世界を渡り歩き、2008年に現役を引退。現在はシンガポールで「サムライプライベートリミテッド」「グローバルフットボールアカデミーソリヤ(GFA Soriya)」などサッカー事業の会社を経営されています。

 斉藤氏にシンガポールのサッカーについて伺いました。「シンガポールには民族が中華系、インド系、マレー系などがあり、その中でもサッカー人口が多いのがマレー系。このマレー系民族は独特の身体能力を持っている。Sリーグのほとんどのチームにマレー系の選手が在籍している」と言うように、結果を残しているのには多民族国家というシンガポールならではの背景があったのです。

 さらに国内リーグのSリーグにも珍しい特徴がありました。「Sリーグの現状は非常にユニークな構成になっている。現地のチームと日本から『アルビレックス新潟シンガポール』が1チーム、ブルネイから1チーム、後はマレーシアから1チームが入っている」とSリーグの特殊な形態について説明して下さいました。中でも「アルビレックス新潟シンガポール」はパスを繋ぐスタイルやチームの組織作り、準備の仕方など日本サッカーの良さをシンガポールサッカーに浸透させているそうですよ。

 Sリーグの中には、「ヤング・ライオンズ」という23歳以下の選手で構成されているチームが2003年から参加しているのも特徴の一つで、シンガポールサッカー協会が次世代の代表強化を目的として立ち上げました。「『ヤング・ライオンズ』を協会でバックアップし、環境を整えたりメディアで取り上げたりと、注目度は以前よりも増した。『ヤング・ライオンズ』は今年のリーグ成績こそ厳しいが、その前の年代の育成から強化していけば、より良い結果を出す事が出来る。ただ今までなかった新しい風をここ数年で吹き込んだのは事実」。

 スズキカップ、東南アジア版オリンピックのシーゲームズ(SEA Games)で結果を残し、東南アジアでの確固たる地位を確立すると共に、W杯予選を勝ち抜くという目標を掲げているシンガポールサッカー。「ヤング・ライオンズ」がシンガポールサッカー界に新しい風を吹き込んだように、若手の育成が多民族国家である強さを開花させていくのではないでしょうか。

[写真]シンガポール初の日本人プロサッカー選手である斉藤泰一郎氏(後列1番右)

◆著者プロフィール◆長谷川望(はせがわ・のぞみ)
1987年生まれ。福島県出身。ロンドン五輪で女子レスリング金メダリスト伊調馨を取材。2020年東京五輪を見据え、サッカーを中心にスポーツの育成年代を精力的に取材している。フジテレビ『とくダネ!』、TBS元旦スポーツ祭り『2013年にかけるアスリートたち』、WOWOW『金曜カーソル』などテレビ番組でも活躍中。
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