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スポーツライター平野貴也の『千字一景』 by 平野貴也

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「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第4回:逆境を好む男(柏日体高:藤岡優也)
by 平野貴也

 特別な、そして負けられない一戦で、1本のロングパスが均衡を破った。中盤に位置する柏日体高の10番、藤岡優也の右足から勢いよく放たれたボールは、右のハイサイドへ一直線。ダッシュで駆け上がったウイングバックの飯田蒼史にピタリと合った。飯田のシュートはGKに防がれたが、最後はこぼれ球をFW武井夏彦がゴールへねじ込んだ。迫力のある攻撃に、ピッチを囲むフェンスをさらに取り囲んだ制服姿の高校生が、どよめいた。

 高円宮杯U-18サッカーリーグの千葉県1部第8節。柏日体は、このゴールを皮切りに3点を奪い、柏レイソルU-18Bを下した。レイソルU-18の多くの選手が練習場から近い柏日体に通っているため、校内の人工芝グラウンドは、中も外も柏日体の生徒だらけという特殊な状況だった。レイソルBは下級生が中心のため、柏日体にとっては、上級生の意地もかかる。藤岡は「相手は上手いけど、絶対に負けたくなかった。無失点で、できるだけ大差で勝ちたかった」とテスト勉強で寝不足の体に鞭を打って臨んだ試合の勝利を喜んだ。

 柏日体は、今季から正式にレイソルと提携を結んだ。派遣された永井俊太ヘッドコーチの下、レイソルの持ち味であるパスサッカーを導入している。藤岡はFWだが、速さと強さ、そしてキックの精度とパワーを買われて中盤で起用されるようになった。チャンスメークからフィニッシュまで攻撃のすべてに関わる新境地で、チームの浮沈の鍵を握る。プレーの幅を広げて狙うのは、千葉の2強崩しだ。

 藤岡は、熊本から「強いチームで勝っても面白くない。自分の力を試したい。県内で3番手くらいのチームが良いと思っていた」とプレミアリーグに所属する強豪校の誘いを断り、市立船橋高や流通経済大柏といった強敵が存在する千葉での勝負を選んだ変わり種だ。過去には、地元の強豪であるルーテル学院中の誘いを断り、進学した長嶺中で全国中学校サッカー大会に出場した経験もある。勝ちたいだけではない、強い者に挑みたい。その思いをぶつけることを考えれば、千葉県は格好の舞台だ。

 チームは5月末の関東大会を経て、高校総体の予選に臨む。勝ち進めば、全国大会の出場権がかかる準決勝で市立船橋と対戦する可能性が高い。藤岡は「倒しますよ。全国に出れば進路の幅も広がる。将来のことは、総体が終わってから考える」と言い切った。新たな風が吹く柏日体を改革初年度で勢いに乗せられるか。逆境を好む男が燃えている。

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