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「ユース教授」安藤隆人の「高校サッカー新名将列伝」 by 安藤隆人

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“ユース教授”安藤隆人の「高校サッカー新名将列伝」第3回:平岡和徳監督(大津高)
by 安藤隆人

 名将列伝。第3回目は、「変態を育てる」ことで有名な、熊本の名門・大津高を率いる平岡和徳監督に直撃した。「変態」といっても、「他とは違う特徴を持った選手」を指しており、これまで巻誠一郎(熊本)、土肥洋一(東京Vコーチ)、谷口彰悟(川崎F)、植田直通(鹿島)の日本代表選手を始め、多くの特徴的な選手を輩出している。
 昨年はインターハイ準優勝。今年は野田裕喜一美和成のプロ注目の2枚看板を抱え、今夏のインターハイで優勝候補筆頭にも挙げられる大津。毎年のように安定した力を誇り、かつ特徴的な「変態」を育てる要素とは、一体何なのだろうか?


―平岡監督は今年、監督就任23年目を迎えますが、この23年を振り返っていかがでしょうか?
「23年か~。早いもんだな。こうやって振り返ってみると…、ずっと掲げている5つのテーマを最初から変えていないよね」

―その5つのテーマとはなんですか?
「1:諦めない才能を育てるのがスポーツの最大の財産である。2:技術には人間性がストレートに現れる。3:強いチームは良い挨拶が出来る。4:感動する心と感謝の気持ちを常に持とう。5:苦しいときは前進している。だね。今もその理念は変わっていないから、預かる選手の質は確かに上がってきたけど、やるべきことは変わらない」

―その5つのテーマは、23年前に指導者になるに当たっての心構えなんですね。なぜそんな若い頃から、そこまで明確なテーマを持つことが出来たのですか?
「指導者になるにあたって、周りの先生の教えで俺が感じた必要なものを並べたらそうなったんだよ。古沼(貞雄・帝京高を全国屈指の強豪に仕立てた名将。平岡監督の恩師でもある)先生を始め、九州の小嶺(忠敏・元国見高監督、現・長崎総合科学大附高総監督)先生、松澤(隆司・元鹿児島実高監督)先生など、多くの先生の教えでもあるんだ」

―今や大津は九州の一大勢力になりました。かつて平岡監督は熊本から15歳の時に、帝京高校に越境入学し、活躍しました。あれから長い年月を経て、地元・熊本に自らの力で全国に通用するチームを作り上げたことになります。
「15歳の決断は大きく人生を左右させるということは、自分の経験で凄く痛感した。俺は自分が成長出来ると確信して帝京に入った。競争は激しかったけど、俺にとって帝京は『安心出来る場所』だった。『ここにいれば必ず成長出来る』ってね。そこで感じたのは、安心出来る場所で頑張るからこそ、人は成長出来るってことだね。今の子供たちは安心出来る場所が少ないと思う。学校でも、家庭でも。だからこそ、部屋にこもる子供たちが増えているのだと思う。俺は子供たちが安心出来る場所は学校であり、スポーツであると思っている。指導者として、先生として重要なのは、そこの環境を整えることで、それこそが俺の仕事だと思っているよ」

―安心する場所を作るために平岡監督がやっていることは何ですか?
「サッカーを通じて、仲間と切磋琢磨をして、自分を磨ける環境ですね。同じ方向性を見て、団結してやることで、安心感を得られるし、そこにサッカー部員としてのプライドが加わる。それが無いと外に出ても戦えない。その中で常に言っているのが、『24時間をデザインしろ』。1日24時間はみんなにとって『有限』だけど、使い方によっては『無限』になる。サッカーだけでなく、日常生活でも良いリズムや自主性を作る。その中で自分自身のプロデュース力が養われる。それが無いとプレーは変化から進化を生み出さない。人間力を養うのが、指導者の大事な要素だと思っています」

―インターハイ熊本県予選決勝・熊本国府高戦で、大津は全校応援でした。サッカー部員だけではなく、全員が立ち上がって飛び跳ねて歌を歌って、その一体感は凄まじいものだったと聞きました。これも平岡監督が求めていた一体感であり、人間力だと思います。
「あの一体感は素晴らしかったね。ああいうエネルギーを持って成長すれば、社会に出て、どんなカテゴリーの社会に入ってもレギュラーポジションを獲れる。サッカーで獲れなくても、社会に出てから獲れると思う」

―さらに熊本県のインターハイ予選ベスト8のうち、7チーム(熊本農高以外)の監督すべてが平岡監督の教え子でした。それも本当に大きなことですね。
「嬉しいね。こうして教え子たちが自分のチームを持って頑張っていることは。でもね、負けていられないよ。いつ何時も大津が高いところにいないといけない。これは大きなモチベーションになっているね」

―多くのJリーガー、そして指導者。『変態』は着実に育っていますね。
「そうだね(笑)。ストロングポイントを磨くと言う意味で、変態と言う言葉を使っているのだけど、他人と同じではない特徴のある選手を出したいんだよね。大津で育てられたキャラクターがたくさんある。その人材が大津の財産。可能性を少しでも広げられて、子供たちを変えていけるか。谷口や車屋(紳太郎、川崎)、植田など課題発見能力や自主性を磨いたOBたちも、凄く良いお手本になっているから。ただね、谷口はヴィジュアルが先にいってしまって、サッカーの技術的なコメントが少ないのが気になるけどね(笑)」

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