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スポーツライター平野貴也の『千字一景』 by 平野貴也

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「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第8回:「湘南スタイル」が育む次世代選手(湘南ユース)
by 平野貴也

「こんな負け方をすると、疲れるだろう」

 惜敗にうなだれる選手の背中に、声が投げかけられた。悔しさを共感する監督の激励が込められた言葉に対し、選手は無理にこしらえた笑顔で頷いた。日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会の関東2次予選、湘南ベルマーレユースは初戦で東京Vユースと対戦し、終了間際に決勝点を奪われて敗れた。その後も柏U-18に0-1、千葉U-18に1-1と上位とは接戦だったが、全国大会出場の可能性が残る3位には、わずかに勝点1差で届かなかった。

 東京V戦は、勝負際で経験の乏しさが出た。失点を喫した前半は、むしろ湘南のペース。後半も同点に追いつくまでは勢いがあった。しかし、終盤に連続して背後を狙われると押し返せなかった。中盤で奮闘したU-17日本代表の齊藤未月は「ボランチが試合をコントロールできずに、相手の攻撃を受けた。それでもDFラインは頑張ってくれていた。僕たち中盤の選手がもっと走ったり、頑張ったりという姿を見せないといけなかった」と悔しがった。やり方次第で勝点獲得の可能性は十分にあったが「湘南として、時間を使って引き分けで良いという感覚はない」と話した時崎悠監督の表情に後悔の色はなかった。積極的な挑戦で得たものは小さくない。力の差がないことも証明できた。

 彼らの勢いの背後には、チョウ・キジェ監督の下で躍進するトップチームの存在がある。小学生の頃から湘南の育成組織で育ち、トップに二種登録されている齊藤は「正直に言えば、中学1年くらいまでは強く意識してトップを見ていたわけじゃない。でも、チョウさんが来てからはスタイルが明確になって、見ていて面白いし、見習わないといけないと思い始めた。それに、オレたちは(上位のプレミアやプリンスではなく)県リーグなのに、チョウさんは試合を見に来てくれるし、アドバイスもくれる。僕は、ゴールは横にはないぞとずっと言われていて、まず縦を狙うように意識している」と話した。

 走り、球際で戦い、どん欲にゴールへ向かう姿勢をプロが見本として示す価値は大きい。ユースを率いる時崎監督は「今は下級生が多いけど、来年になればできるというのではなく、真剣勝負の場でできたこと、できなかったことを感じ取って次に向かわないと意味がない。プロになる選手は、何年生だろうとできる。自分の力を出し切れていない選手がまだいる」とさらなる奮起を促した。トップの背中を追いかける湘南ユースは、足りなかった一歩を今日も走る。

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