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東京五輪への推薦状 by 川端暁彦

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「東京五輪への推薦状」第2回:“野洲の一番メッシ”野洲MF村上魁
by 川端暁彦

「この国は、本当にいろいろなところから良い選手が出てくる。それは日本が持つ最大の武器」

 U-15・16日本代表の森山佳郎監督がそんなことを言っていたことがある。確かに歴代の日本代表メンバーを眺めてみても、その経歴は実に多彩だ。「日本代表になるルート」なんてものは存在せず、それぞれが自分で自分の道を切り開いて花開いた。

「現・高校3年生で代表歴のない選手」という枠で考えてみると、個人的に気になる選手が滋賀県にいる。しかも二人いる。その一人は、「セクシーフットボール」の愛称で知られる野洲高のエース、村上魁だ。

「○○のメッシとか言われる選手はいっぱいいますけど、ウチの魁が〝一番メッシ〟なんじゃないですか」

 そう言って笑うのは、野洲高のコーチを務める長谷川敬亮氏。現役時代は乾貴士と共に高校選手権のピッチにも立った熱血コーチは、自チームの看板選手をそんな言葉で評価していた。

 確かに〝メッシっぽさ〟は群を抜いている。ゴツい体には見えないが、接触に際して柳のようにしなって倒れぬ体と、相手DFの間を縫うように割ってしまうドリブルは明らかな異能。何も知らずに今年の春に村上のプレーを見てしまった関東Jクラブのあるスカウトが一目惚れしてしまったという話も聞くが、それもよく分かる。

 昨年末に埼玉県で行われた『Go For 2018杯』では、浦和レッズユースを単騎で切り裂きまくるプレーを見せてこちらの度肝を抜いてくれた。サッカー的にはドリブル偏重に過ぎる傾向もあるのだが、時折見せるパスセンスも非凡なものがあり、そのプレー選択には驚きがある。

 あえて失礼を承知で言えば、心技体の3拍子のうち「心」の部分に不安はある。ただ、すべてにバランスの取れた好選手にはない、怪しいまでの魅力が村上のプレーにあることもまた確かだ。少なくとも「また観に行きたい」と思わせるだけのモノはあって、3年生になって徐々に、しかし着実に変わってきたという「心」の部分でのブレイクスルーを期待したくなる。

 夏の高校総体は悔し涙を流す結果に終わった。ただその悔恨も含めて、冬に向けてこの〝野洲の一番メッシ〟が変わっていくことを密かに期待している。それだけのモノは、ある。

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