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東京五輪への推薦状 by 川端暁彦

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「東京五輪への推薦状」第3回:“ドイツへ挑む太陽と天賦のハイブリッド”ハンブルガーSV・FW伊藤達哉
by 川端暁彦

伊藤達哉がレイソルではなくて普通のチームに行っていたら、どんな選手になっていたんですかね?」

 今年の春、富士ゼロックススーパーカップ前の親善試合の最中に、そんな会話をしていたのを思い出す。生まれながらの個性として持っていたのはドリブラーとしての資質だろう。柔軟なボールタッチと俊敏さ。スピードを殺された状態からでも意表を突く加速から局面を打開していく様は確かな異能だ。

 一方で、初めて彼を観る人はそれほどドリブルに特長のある選手だとは思わないことも多いかもしれない。シンプルにボールを離すシーンが絶対的に多く、徹底したポゼッションサッカーでボールロストを嫌う柏レイソルU-18のスタイルとの間にギャップを感じさせることはない。シンプルにボールを離しているからこそ、突然ギアが入った(ように相手は感じる)ドリブルが威力を増す。そういう選手でもあり、「あの選手のところで変化が出ていた」(青森山田高・黒田剛監督)などと対戦各チームの監督から“嫌がられる”存在だった。

「別にウチのサッカーはドリブルを禁止しているわけではない。持ってるものを試合の流れの中で出せる奴は出せばいい」。そんなことを語っていたのは他ならぬ下平隆宏監督だが、伊藤はまさにそのタイプ。生まれながらのドリブラーだった選手が、レイソルのスタイルに出会う中でハイブリッドな個性を体得した選手と言える。パスの美徳を叩き込まれる中で個性が消えてしまう選手もいる中で、伊藤がそうならなかったのは賢い選手である証だろう。それは本人にインタビューしているときにもよく感じたことで、「仕掛ける意識は常に持っています」と言いつつも、「レイソルのサッカー」への愛情も強く示す。その折り合いができていること自体が、確固たる個性に見えた。

 ドイツの名門ハンブルガーSVに見初められたのは、昨年4月の『アルアイン・インターナショナルジュニアチャンピオンシップ』でのこと。グループリーグの2戦目で対戦した上で、伊藤が無条件で国際移籍が可能になる18歳になるのを待ってまで契約したいというオファーが届いたのだから、「惚れ込み具合」の深さが分かる。ちなみにその大会で伊藤は準優勝ながらMVPを獲得している。当時はまだ柏U-18でもレギュラーではなかったがゆえに参加した大会だったわけで、人生は何が切っ掛けで道が変わるか分からないものである。

 U-18Jリーグ選抜には1度入ったものの、これまで日の丸とは縁がなかった。観る人誰もが認めるグッドプレーヤーである一方で、プロのステージで生きていくにはより強い武器が欲しいのも本音である。いまこの時点でドイツ行きの決断が必ず吉と出るかのように礼賛する気はない。ただ、これまで積み上げてきた努力と挑戦心が遥か遠くのサッカー大国で花開くことを切に願いたい。「ドリブル」「レイソル」に「ドイツ」というファクターを消化したとき、伊藤達哉は日の丸をつけるにふさわしい選手になっているに違いない。

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