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スポーツライター平野貴也の『千字一景』 by 平野貴也

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「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第11回:夏の前橋、14歳が響かせた金属音(徳島ユースFW藤原志龍)
by 平野貴也

「高校生のトップクラスが相手でも、オレはやれるぞ」という声が聞こえてきそうなプレーだった。

 後半15分、徳島ヴォルティスユースのFW藤原志龍は、利き足ではない左足で思い切ってミドルシュートを放った。ふわっと上がったボールは緩やかに伸び、鹿島アントラーズユースのGK木戸裕貴が伸ばした手を超えて、クロスバーをたたいた。残念ながら落下したボールはゴールに入らなかったが、昨季の全国大会王者である鹿島ユースをひやりとさせる、中学3年生のワンプレーだった。

 利き足は右だが、幼い頃から左もある程度は蹴れたという。「相手のGKがちょっと出ていたので上にチップシュート気味に打った。結構、左のシュートが決まることが多い。フィジカルとかは差があったけど、足下ではもっと崩せるんじゃないかと思った」と手ごたえを話した藤原は、一方で「もっと練習して、このレベルで得点したい」と悔しさものぞかせた。

 3学年上の選手を相手に堂々とプレーするところは、頼もしい。中学生が高校生の試合に出ることは時々あるが、多くの場合は「期待値込み」の起用だ。しかし、藤原は猛暑の前橋で行われた日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会のグループステージ3試合すべてで先発。今季からユースの指揮を執っている羽地登志晃監督は「彼は実力で試合に出ている。当て勘が良くて、左足とか浮き球でもしっかりと足を振れる選手。本当は体力面の差があるので出場時間を制限したいが、あれだけやれるので、ほぼフルに近い形で起用した」と期待値ではなく、戦力として起用したことを認めた。

 ブラジル代表のネイマールに憧れる藤原の持ち味は、ドリブル。小学生の頃、公園の周囲を散歩する父親に付き添いながら我流で磨いた武器だ。コーンなどの障害物を使うのではなく、自分のイメージやタイミングでボールを動かし続けたという。ドリブラーの中には、決め打ちのフェイントで速さを武器とするタイプがいるが、藤原がリズムの変化で抜き去るタイプであるのは、少年時代の練習によるのだろう。

 ユースの全国大会で得た自信は、これから少しずつ膨らむはずだ。大会は、1勝1分1敗で敗退が決まったが、藤原は8月3日から北海道で開催される同選手権のU-15大会にも、ジュニアユースの一員として参加する。「全国大会で活躍して、高校2年ぐらいからでもプロに行きたい」と思いを馳せる14歳の刺激あふれる夏は、まだ終わらない。

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