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ヤング魂 by 長谷川望

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[特別編]藤川孝幸(元ヴェルディ川崎GK)「ファン・ハールから学んだ5つのこと」
by 長谷川望

 ヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)の黄金期。それは1993年にJリーグが開幕してすぐのことだった。ヤマザキナビスコカップ初代王座に輝き3年間その座を守り、2年連続Jリーグ年間優勝、ゼロックススーパーカップ2年連続優勝など日本サッカーでの不動の地位を築きあげた。

 ゴールキーパーとしてヴェルディ川崎の全盛期を支えてきた藤川孝幸氏。1980年に読売サッカークラブ(のちのヴェルディ川崎)に所属し、15年間選手として活躍した。引退した翌年の1996年からヴェルディ川崎のGKコーチとなり、その後はさまざまなクラブで指導者の道を歩み、現在はその経験をいかし、子供向けスポーツスクールで日本屈指の実績を誇るリーフラス株式会社の取締役事業推進室長を務めている。

リベルタサッカースクール
 日本全国に展開されているリベルタサッカースクール。今年から藤川氏がメソッドを見直した。「全国でばらつきが出ないように、一か月かけて北海道から鹿児島県まで全部の支社を回り、指導者講習会、指導者実習をやりました。練習をやりながら子供たちに考えさせるという練習方法や、楽しみながら考えるというメソッドをつくりました」。

 今年、東京ヴェルディとも提携し、一部を除く東京都のスクールを「リベルタ・ヴェルディサッカースクール」として活動することになり、今後はJリーグクラブとのかけ橋としても期待されている。

GKに求められる能力
「日本では4-4-2、4-3-3と言います。しかしオランダでは必ず1-4-4-2、1-4-3-3と、GKもフィールドの一人というのが、呼び方から定着しています。パスも攻撃の第一歩。なるべくラインを高く保ってGKがカバーし、そこからゲームをコーディネートするなど、これからはただ手が使えるだけのフィールドプレーヤーという感覚になると思います。今後は両足も器用に蹴れるGKが求められます」。

 各ポジションで求められる能力が増えている現代サッカーでは、育成の段階からGKも攻撃につながる重要な役割になるのではないだろうか。

ルイス・ファン・ハールとの出会い
――マンチェスター・ユナイテッドのファン・ハール監督とも交流があるんですよね?
「1996年から3年連続で、GKコーチの勉強をしに行ったのがバルセロナで、そこで監督をしていたのがファン・ハールでした」

――最初の出会いはバルセロナだったんですね。
「次に僕がS級ライセンスを取るときに、ファン・ハールとメールでやり取りをしてオランダに行くことを伝えました。そのときファン・ハールはオランダのリーグのAZというクラブで監督をしていて、監督室にあるファン・ハールの机の横に僕の机が用意してありました。みんなから『世界中からファン・ハールのもとに勉強したいという人が来るけど、こんな人は見たことない、横に他の人の机を置いたのはお前だけだ』と(笑)。それくらい良くしてもらいました」

――なかなかそこまで受け入れられるのは難しいですよね。
「ただ僕はがむしゃらで、(ファン・ハールは)雲の上の存在でした。たぶんファン・ハールに学びたいという人はプライドも持っているでしょうし、少し偉そうなところがあったのかもしれないですけど、僕の場合は『なんでもしますよ、24時間365日なんでもしますよ! 』という感じだったわけです(笑)。96年のときに『お前みたいなやつ見たことない』とファン・ハールに言われました。『日本人はみんなそうなのか』と言われ、『基本そうです』と答えました。練習が朝9時からだったら、日本人の心構えとして8時くらいに行くじゃないですか。練習の1時間前に立っていたりとか、そういうのが好感をもたれたのかもしれないですね」

――世界的な指導者であるファン・ハール監督に教わった最も印象的なことは、どんなことですか?
「『監督、指導者として一番大事な要素を5つ書いてあげる』と、ファン・ハールの直筆、サイン入りで書いてもらいました。自分にとって今でも宝物で額に入れてあります。
①philosophy(哲学)
②communication(コミュニケーション)
③discipline(規律)
④honesty(誠実)
⑤conclusion(結論)
『この5つだけしっかり守りなさい。これさえ守れば、指導者として、そしてサッカーをやめて企業家、事業家になっても絶対成功する』と言われました」

――貴重なお話ありがとうございます!!

 ファン・ハール監督の教えを直接継承された藤川氏。そんな経験を持つ日本人はおそらく一人だけと言っても過言ではない。そんなファン・ハール哲学を持つ藤川氏が今年から介入したリベルタサッカースクールの発展がますます楽しみだ。取材日は、リベルタ・ヴェルディスペシャルクラスのセレクションが行われ、50名を超える子供たちが集まっていた。ここから未来のJリーガーが誕生する日を心待ちにしたい。


◆著者プロフィール◆長谷川望(はせがわ・のぞみ)
1987年生まれ。福島県出身。ロンドン五輪で女子レスリング金メダリスト伊調馨を取材。2020年東京五輪を見据え、サッカーを中心にスポーツの育成年代を精力的に取材している。フジテレビ『とくダネ!』、TBS元旦スポーツ祭り『2013年にかけるアスリートたち』、WOWOW『金曜カーソル』などテレビ番組でも活躍中。
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