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スポーツライター平野貴也の『千字一景』 by 平野貴也

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「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第17回:金星狙うボトムアップ集団(堀越高)
by 平野貴也

 ベンチから「前に蹴っておけば良いだろ!」と言ってもらえたら、楽だったかもしれない。試合の後半、2点リードの堀越高は、相手に試合のペースを奪われて苦しんでいた。前半は巧みなパスワークで相手を揺さぶり、中央の連係とサイド攻撃を使い分けて3得点。ミスから1失点を喫したが、上々の内容だった。
 
 しかし、この一戦は、東京都2部リーグ(T2リーグ)の残留争い直接対決。相手の東京朝鮮高は死に物狂いで攻めて来た。時間が経つにつれて堀越イレブンの足は止まり、防戦一方となった。どうすれば……。主将の富樫草太は快足FW北田大祐の投入を生かしてカウンターで押し返そうと考えていたが、実際には最終ラインからショートパスをつなごうといで押し戻そうとする選手もいた。

 混乱の中での意思統一は容易でなかった。それでも佐藤実監督は「相手は前から来ているぞ。どうすればいいと思う?」とヒントを与えるだけだった。1つの解決策を提示して徹底すれば、ひとまず落ち着くことはできる。しかし、その解決策を選手が自ら導き出して共有することこそが、4年前から「ボトムアップ」と呼ばれる選手育成法を導入した堀越のやり方だ。

 先発メンバーも練習内容も、当然、試合の中での対応もすべて選手が決める。主将の富樫は「任せてもらうことが多く、サッカーに真面目に向き合えるし、知識も増える。でも、メンバー選考とかで不満を持つ選手も出てしまう」と楽しさと難しさが共存する現実を明かした。

 シーズン序盤は成績が伴わずに苦労した。前年から出場経験のあるDF東岡信幸が、このままではいけないと感じて「ちゃんと問題と向き合っているのか」と指摘したときには、悩んでいた富樫が「やっているよ。そんなことを言うならもっと協力してくれ」と返し、言い合いになった。だが、真剣なぶつかり合いがチームを育てた。衝突を機に理解は深まり、富樫はB、Cチームの試合も可能な限り見に行くようにするなど、理解を得る努力をしてきた。

 本気で向き合う集団になることが、解決に向かうルートとなる。10月18日には、集大成となる高校選手権の東京都Aブロック予選準々決勝に臨む。相手は、夏の全国4強の関東一高。強敵だ。課題にどれだけ多くの選手がどれだけ本気で向き合えるか。富樫は「相手のことは考えていない。自分たちのすべてを出せるように準備するだけ。自分たちを信じて戦いたい」とブレない姿勢を示した。苦労を重ねて一枚岩となった力をぶつけるのみだ。

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