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スポーツライター平野貴也の『千字一景』 by 平野貴也

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「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第23回:35年ぶりの昇格を支えた主将(小林拓矢:明治学院大)
by 平野貴也

 35年ぶりと言われても、ほとんどの大学生はピンと来ない。まだ生まれる前の話だ。しかし、大きな喜びはOBも現役も変わらない。21日、今季の東京大学リーグ王者である明治学院大がプレーオフを制して関東大学リーグ昇格を決めた。試合後は、ユニフォームやスーツや私服がごった返し、喜びを分かち合った。歓喜の輪の中心にいたのは、飛躍を支えた4年生のGK小林拓矢だ。同期の仲間が就職活動などで部活動から距離を置いた時期も一人だけチームに帯同。主将としてチームをけん引し続けた。

 夏には、総理大臣杯の関東予選で大活躍。関東1部の強豪、慶應義塾大戦では試合中に1本、PK戦で3本と合計4本のPKを止める驚異的な働きでアップセットを起こした。昇格決定戦も、苦しい試合だった。開始早々に先制したが、追いつかれてからは劣勢を強いられた。それでも後半の選手交代で流れを引き寄せ、終了間際に途中出場の1年生MF鳥谷部嵩也が決勝点を奪った。小林は「無失点に抑えたかったけど、下級生を伸び伸びとプレーさせたかったので、ポジティブな声をかけ続けた。自分が1年生のときも、プレーオフで早々に先制して、追いつかれた。その試合は負けたけど、経験が生きた」と失点後も悔しさを隠して冷静に対応。下級生主体のチームの力をうまく引き出していた。

 シーズン前の3月、八千代高との練習試合を行う2時間前のグラウンドには、他の部活生しかいない状況の中、ただ一人、黙々とランニングを行い、念入りにウォーミングアップとストレッチを行う小林の姿があった。周りの雰囲気に流されない、強い自我を持つストイックな男だ。1年生の鳥谷部も「試合が終わった後でも筋トレをしているのを見たことがあって、自分もやらなければと思わされた」と証言する。

 小林は今季、就職活動をせずにプロ契約を目指し、湘南ベルマーレの練習に参加。現在も各クラブの編成が終わるまでチャンスを待つつもりでいる。「やっと、ここまで来た。1年でも早く昇格していたら、進路に関する状況も違ったかもと思うことはある」と話したように、都リーグの活躍では十分なアピールとは言い難く、わずかな可能性にかけるしかない。しかし、一方で「でも、今季は公式戦で2回しか負けなかった。多分、史上最強。自分の代でそういうチームになったことは嬉しい」と笑顔は絶やさなかった。35年ぶりの快挙。その裏には、置かれた立場、状況で全力を尽くせる男の存在があった。

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