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東京五輪への推薦状 by 川端暁彦

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「東京五輪への推薦状」第10回:大化け間近!東京最強のストロングヘッダー・駒澤大高CB佐藤瑶大の可能性
by 川端暁彦

 サッカーの世界に「もしも○○が出ていたなら……」なんて発想は禁物である。代わりに出てくる選手も含めて「チーム力」。ましてやそれで勝敗が覆ったかもしれないなどと妄想することほど虚しいものはない。ただ、純粋な興味としては残ることはある。

 たとえば先の高校サッカー選手権。駒沢陸上競技場での準々決勝はそんな感情を刺激されるゲームだった。優勝を飾った東福岡高と激戦を演じたのは、駒澤大高。大会最強のフィジカルモンスターFW餅山大輝を迎撃する役割は本来、背番号3を背負う長身CB佐藤瑶大の役目だった。だが、前試合で首を傷めて欠場。代わってCBへ緊急コンバートされた主将のFW深見侑生が感動的なパフォーマンスを見せて息詰まる1点差の接戦に持ち込んだのが、それとはまるで別の話として、佐藤が大会最強の“赤い彗星”攻撃陣にどう立ち向かうのかは純粋に観てみたかった。

 もちろん、そう思いたくなるプレーを、3回戦までの試合で佐藤が見せていたからである。準々決勝欠場ながら大会優秀選手に名を連ねたことからも、彼の評価が大会を通じて向上していたことがうかがえる。ヘディングという分かりやすい、絶対的な個性で輝いた大会だった。

 そのヘディングは、かつて実践学園高で活躍し、現在はJFL・横河武蔵野FCでプレーする3歳年長の兄・佐藤稜大直伝のもの。「いまもアドバイスをくれるし、僕より兄のほうが(ヘッドが)強いと思います」と言う、あこがれの兄のプレーを盗みながら、成長させてきた武器だ。いまではCBでパートナーを組んでいた1年生の西田直也が、「中学のチーム(横浜FMジュニアユース追浜)ではへディングの練習はほとんどなかったので、得意ではなかった。だから(佐藤のヘディングは)本当に参考になります」と言うように、逆に盗まれる立場になった。

 そもそも佐藤兄弟はヘディングや競り合いに長けた選手が育ってくるFC多摩ジュニアユースの出身。FC多摩の一つ上の代には流通経済大柏高で活躍した本村武揚というお手本もいた。「そんなに体が大きくなかったのに本当にヘディングが強くて、すごい存在だった」という先輩にも学んで武器を磨いてきた。

 ただ、試合の中では単なる“へディンガー”ではない片鱗も見せている。「(駒大高は)つなぐチームじゃないけれど、本当は(ボールを)持ちたい選手なんですよ」と笑うように、意図のある縦パスからチームにスイッチが入るシーンもあった。似ていると評されることもあるというドイツ代表のフンメルスも、ヘディングの強さに加えてビルドアップの能力でワールドクラスと評される選手。本人が参考にしていると語る広島のDF千葉和彦も、ボールを持ち出して攻撃の起点になるプレーに長けたJリーグ屈指のリベロだ。

 結果を出した次の年は難しいと言われる。駒大高は下級生の主力が多く残り、期待感が強いからこそ簡単ではないこともあるはず。ただそのプレッシャーもまた選手を育てる要素となり得る。先輩たちが結果を出したゆえに残った空気の中で、東京最強のストロングヘッダーがもう“ひと化け”を起こしてくれることを期待している。

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