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山本昌邦のビッグデータ・フットボール by 山本昌邦

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第9回「世界モードの戦いを見せたU-23日本代表」(後編)
by 山本昌邦

96年のアトランタ大会以降6大会連続となる五輪出場権を獲得した、手倉森誠監督率いるU-23(23歳以下)日本代表。指導者・解説者の山本昌邦がデータを基に、遠藤航(浦和)ら若きサムライたちの“武器”を徹底分析する。2016シーズンのJリーグ開幕から一夜明けた今日は、後編をお送りする。
データ提供:Football LAB
※前編はコチラ

交代選手が武器になるチーム

 リオデジャネイロ五輪アジア最終予選を勝ち抜くU-23日本代表の原動力になったのはコンディショニングの良さだった。どのチームよりも日本のコンディションは良かった。表4は最終予選6試合の前半と後半でどれだけスタッツが変化したかを示すものだが、日本の得点は後半が8点と前半の倍に増えた。シュート数もドリブル数もスルーパスの数も後半の方が増え、成功率も高まっている。後半に数字が改善するのはシュートの決定率以外、延長戦も同様だ。

 尻上がりに調子を上げていったり、上がらないまでも下降を抑えることで、ガス欠を起こす相手に比較優位を保てたのは、選手のコンディションづくりが相当うまくいった証拠だろう。コンディションが勝負の分かれ目になると見て、試合ごとに先発を大幅に入れ替えたターンオーバーもうまくはまった。

 メンバーを固定して中2日で試合を連続すれば、試合の終盤、そして大会の終盤、どうしたって力尽きる選手が出てくる。そういう相手にフレッシュな戦力を逐次投入できたら終盤にドラマを起こせる可能性は高まる。

 表5はアジア最終予選の日本の全試合の得点者とアシスト選手を書き出したものだが、日本の15点中、5点は途中出場選手が挙げた。

 途中出場選手の活躍は世界的な傾向に照らしても頼もしい。表6は2010年のW杯南アフリカ大会と14年のブラジル大会のゴール数とアシスト数を出場状況別に分類したもの(オウンゴールは除く)。これによると南アフリカ大会は交代選手の活躍が少ない大会だったことがわかる。決勝トーナメントに入ると途中出場の選手が決めたゴールはなんとゼロ。アシストもたった2しかなかった。それに対してブラジル大会の決勝トーナメントは途中出場の選手が8ゴールも決めた。決勝トーナメントのゴール総数のおよそ4分の1は途中出場の選手が決めたのである。大会全体を通しても、途中出場選手のゴールの割合は10.5%から19.3%に増えている。

 この違いの背景には大会期間中の気候があったと思っている。南アは冬のW杯だったために選手にそれほどの疲労が蓄積せず、前半と後半で極端に動きが落ちることはなかった。一方、同じ南半球とはいえ、ブラジルのW杯は一部の地域を除いて真夏のW杯だった。暑さは選手からスタミナを奪い、交代選手が活躍する素地を整えたように思う。

 表7はブラジル大会の途中出場選手のゴール数とアシスト数を足して多い順に並べたものだ。7ポイントで1位のオランダは3位決定戦でブラジルに勝ち、6ポイントで2位のドイツは優勝に輝いた。決勝でアルゼンチンとの死闘にケリをつけるゴールを延長で決めたマリオ・ゲッツェも途中出場の選手だった。

OAに求めたいのはユーティリティープレーヤー

 リオ五輪はどうか。決勝が行われるリオもサンパウロ、ベロオリゾンテ、ブラジリア、サルバドルも決して冷涼な場所ではない。アマゾンのマナウスに飛ばされたら釜ゆでにされるだろう。

 おまけに日程にまだ余裕があるW杯と違ってグループリーグは中2日の連続。準々決勝から後は中3日になるが(それでも準決勝から3位決定戦は中2日)、選手登録がW杯より5人も少ない18人だから選手にとっては相当に過酷である。

 日本はアジア最終予選でラスト15分に強い資質を示したが、18人登録だけにアジア最終予選でやったようなターンオーバーをそのまま踏襲はできない。誰かをスーパーサブに固定するのも難しいかもしれない。

 五輪本番は最多で6試合を戦い抜くわけだから、GKを除く16人のフィールドプレーヤーには120分間、戦い抜けるだけのコンディションとメンタリティーを持った選手をそろえる必要がある。そういう選手をうまく使い回していく。

 オーバーエージ(OA)に関しては守備のユーティリティープレーヤーが遠藤航(浦和)くらいしかいないので、もう1枚、そういう選手がほしい。23歳以下でそんな気の利いた選手はなかなかいないから、ロンドン五輪では徳永悠平(FC東京)が招き入れられた。タフな上にサイドバックなら右も左も、CBも、いざとなればボランチもできる、理想的なOAだった。徳永のように後ろで何役もこなせる選手がいると、試合を決める攻撃のタレントをその分、たくさん持てることにもつながる。

 性格もポイントだ。チームのコンセプトを理解して監督のプランに沿って実践できる選手でないと困る。若い選手が気を使わなくてすむような。入ったはいいが、若い選手が萎縮しては意味が無い。

 今のU-23代表はセットプレーで質のいい右足のキッカーがいない。国際大会でセットプレーは非常に貴重な得点チャンスになる。そういう意味で私がOAでひそかに目をつけているのは清武弘嗣(ハノーファー)である。前のユーティリティーとして2列目のワイドでもFWに近いところでもプレーできる。ロンドン五輪を経験してもいる。FKを直接決める力もあり、CKから繰り出されるボールは低迷するハノーファーで数少ない得点機を生み出している。故障明けの選手は心のエネルギーがたまりにたまり、出口を求めて想像以上の爆発力を見せることがある。あらゆる面で一考に値する存在だと思っている。


やまもと・まさくに
1958年4月4日、静岡県生まれ。日本代表コーチとして2002年の日韓W杯を戦いベスト16進出に貢献。五輪には、コーチとしては1996年アトランタと2000年シドニー、監督としては2004年アテネを指揮し、その後は古巣であるジュビロ磐田の監督を務めた。現在は解説者として、書籍も多数刊行するなど精力的に活動を続けている。近著に武智幸徳氏との共著『深読みサッカー論』(日本経済新聞出版社)がある。


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