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SEVENDAYS FOOTBALLDAY by 土屋雅史

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[SEVENDAYS FOOTBALLDAY]:勝利のラインダンス、再び(水戸ユース)
by 土屋雅史

「ラララ~ ララララララ 水戸!」。最初は綺麗に列を作っていた勝利のラインダンスも、先制ゴールの瀧田隆希が先陣を切ってからは、それに1人、また1人と次々に続き、前へ出てきて思い思いに踊り出す。それを見たピッチの中にも、ピッチの外にも大輪の笑顔の花々が。アウェーで強豪を倒したのだ。これくらいは弾けても構わないだろう。東京ヴェルディユースの初戦を突破した水戸ホーリーホックユースの歓喜の歌声が、10月のよみうりランドにこだました。

 2016 Jユースカップ 第24回Jリーグユース選手権大会1回戦。東京Vと対峙した水戸にとっては、「今日は本当にハマりましたね」と樹森大介監督も口にするような会心の勝利だった。開始早々から相手にボールを持たれるものの、「元から回されることは覚悟の上で試合に臨みました」と10番を背負う中川洋介が話した通り、慌てずにきっちり中央を固めて相手のアタックに対応。キャプテンの金井亮太も「怖い場面は少なくて、みんなで集中してやれたんじゃないかなと思います」と振り返る前半の45分間を無失点で切り抜けると、後半12分には前述の瀧田が強烈なミドルをゴールネットへ突き刺して見事に先制。さらに、後半35分には左SBの村山璃空が見せた果敢なパスカットを起点に、蕎麥田龍也の極上スルーパスへ抜け出したのは、何と右SBの出口宙呂。「あんなシーンは自分にあまりないんですけど、自分でもビックリしています」という出口は、GKとの1対1も冷静に制して追加点を叩き出し、終わってみれば2-0の完封勝利。「僕らは一応勝つ気で戦っていて、今日なんて本当に2点目が決まった時にはさらにパワーが出ましたし、嬉しかったですね。でも、本当に選手がやってくれているだけなので、選手に感謝したいです」と樹森監督。両者の歴史や立ち位置を考えれば“ジャイアントキリング”とも言えそうな勝利を収めた試合終了直後、保護者だと思われる方々が涙ぐみながらお互いに喜んでいる姿が印象的だった。

 樹森監督も指揮官に就任した当時を「正直に言ってプロになろうとしている集団ではなかった」と振り返る水戸ユースは、地道な強化を続けていく中で2013年にプリンスリーグ関東を経験。今年の3年生は「ちょうど3年前にプリンスに所属していた時に獲った子たちで、結構プリンスで戦っているウチを見ている子たちなので、良い子が入ってくれた」(樹森監督)学年であり、昨年のチームも彼らが主体となって戦っていたとのこと。「選手の質は年々高くなっています」という樹森監督の言葉も確かにピッチを見れば頷けるが、「普段から仲良くやれていますし、言いたいことは何でも言える感じです」と瀧田が明かしたように、試合中も試合後もとにかく雰囲気の良さが際立っていた。改めてメンバー表の“前所属チーム”の欄を見ると、群馬や栃木、千葉など県外チームの名前が大半を占める。在籍34人のほぼ半数に当たる選手は、トップチームの選手と同じ選手寮で共同生活を送っているという。

 例えば「高校も考えたんですけど、自分のチームのコーチが『絶対ユースに行った方が可能性が開ける』と熱い気持ちで推してくれたので、自分としては寮生活を通して、人としてまず自立できるようになりたいなと思って、寮のあるホーリーホックを選びました」という瀧田は栃木のウイングス鹿沼SC出身。生活面や“筋トレ”の器具など設備面の充実に加え、グラウンドが寮から近いこともあって、毎週月曜日のオフもシュート練習などの自主練に励んでいるとのこと。「1週間サッカー漬けだね」と水を向けると、「そのために水戸に来たので充実しています」ときっぱり。この日のゴールが『オフの自主練』の成果であることは間違いなさそうだ。

 例えば「元々は高校サッカーに行こうと思っていたんですけど、やっぱり自分の夢はプロサッカー選手になることだったので、水戸から声が掛かった段階で『プロになる』という優先順位を考えて水戸に来ました」という中川は千葉県のVIVAIO船橋出身。1年時から2種登録選手としてトップチームの活動に参加してきた彼は、寮生活について「トップの見本になる選手がたくさんいますし、コミュニケーションも取れるので、いろいろ聞こうと思えば自分で聞いたり、そういう部分も非常に良いなと思いました」という感想を口にする。そんな中川には1人の目標とすべき“先輩”がいる。今シーズンの途中からトップチームのレギュラーに定着し、この日も視察に訪れていた西ヶ谷隆之監督も高い評価を与えている白井永地。柏レイソルU-18から加入して3年目となる白井は、中川をはじめとした3年生にとって寮生活の“同期”に当たり、「1、2年目は全然試合に出られない時が続いていたんですけど、凄く献身的な姿も見ていた」と明かした中川は、「ユースの樹森監督も『アイツは絶対にどこかで花が咲く』と言っていたぐらい一生懸命だったので、僕も『そこを目標にしたいな』と思っていたら、やっぱり今年はレギュラーで点も取っていて、本当に凄いなと思います」と言葉を続ける。これこそがユースとトップの選手が同居する寮生活最大の長所であり、魅力なのだろう。

 ただ、8人が寮生活を送る3年生の中で、4人の“通い組”には1つの悩みがある。今は3年生でただ1人、ジュニアユースからの昇格組となる金塚海は冗談交じりにこう話す。「寮生はみんな仲が良いので、“通い組”は寮生活でやっている面白いこととかで話に入れない時もあるんです(笑) 『そんな話聞いたことないな』みたいな。話が噛み合わないんです」。聞いた瞬間に思わず爆笑してしまったが、自らをフォローするかのように「普段からもみんなでゴハンを食べに行ったり、文句も言ったりするんですけど、チームとして自分たちは言い合えるので、それが強みかなと思います」とも語った金塚。そう言えばこの日の先制ゴールに関する各選手の感想も振るっていた。「浮かすと思って、『そこ、打たないで』と思ったんですけど、決めてくれたので嬉しかったです」(金塚)「『ふかすかな』と思ったんですけど、あんな良いシュートを打ってくれたので良かったです」(中川)「『あそこから打つのか』と思ったんですけど、うまく決めてくれましたね。普段から結構打つんですけど、あんなうまく入ることはそんなにないので(笑)」(出口)。なかなか辛辣なコメントが並ぶ中、樹森監督まで「アレは本当に入ると思っていなかったので。ベンチから見ていて、『ああ、もうムリだ』と思っていたんです」と笑ってみせる。この監督の言葉を「たぶんアイツの良いゴールを認めたくないんですよ(笑)」と解説してくれたのは金井。散々な言われようだが、冒頭のラインダンスで披露した瀧田のパフォーマンスを見れば、彼のチームの中での立ち位置は容易に推測できる。これもチームの良い雰囲気を示す1つの材料ということにしておこう。

 2回戦の相手はサンフレッチェ広島ユース。プレミアリーグWESTで首位争いを繰り広げている国内最高峰の実力を有した難敵だ。昨年のこの大会でも初戦で三菱養和SCユースを下す“金星”を挙げたものの、そこで満足感が出てしまったことで、2回戦のコンサドーレ札幌U-18戦に同じ雰囲気を持ち込めず、結果的に負けてしまったことがチーム全体の反省材料となっている。「去年養和に勝った時は、嬉し過ぎて泣いている選手もいましたし、札幌戦は飛行機移動も初めてで、色々環境が違う中でやっぱり興奮していた部分もあるかもしれないので、今日も終わった瞬間はみんな喜んでいたんですけど、『落ち着け。まだあるぞ。ここから切り替えてもう1回だぞ』ということを伝えました。そういう所も含めて2週間しっかり準備していきたいと思います」とキャプテンの金井は力強く前を向いた。「ラララ~ ララララララ 水戸!」。勝利のラインダンス、再び。10月の吉田サッカー公園に歓喜の歌声を響かせるべく、水戸ユースの彼らはおそらく今日もサッカー漬けの1日を送っている。

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