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スポーツライター平野貴也の『千字一景』 by 平野貴也

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「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第46回:雨に放たれた苦言(市立船橋高)
by 平野貴也

 試合後、雨の中のミーティングは、30分をゆうに超えていた。鉄は、熱いうちに打て。大敗を喫した選手の心に、指揮官は熱っぽく言葉を打ち続けた。

「今の君たちは、色々な要素がうまくはまらないと勝てない。劣勢に立たされたときに勝てる力はない。でも、試合では必ず、劣勢になることがある。(選手やポジションの)組み合わせを変えれば、もっとできるかもしれない。でも、それは、自分の力じゃない。劣勢になったときに何ができるのかというのが、大事なんだ」

 3月下旬の交流大会「船橋招待」の初日、法典公園会場の大トリは、ともにプレミアリーグに所属する市立船橋高東福岡高の超強豪校対決だった。実力伯仲の好ゲームが期待されたが、蓋を開けてみれば4-1で東福岡の圧勝だった。市立船橋は、サイドを崩され、FKを決められ、ミドルシュートのこぼれ球を押し込まれ、前半35分で3失点。主力と見られる選手を増やして臨んだ後半も先に失点。意地の1点は返したが、反省点の多いゲームとなった。

 公式戦の開幕前であり、戦術や選手起用を試している段階だ。海外遠征から帰ったばかりでもある。急に守備システムを変えた影響もあった。元々、相手は強い。苦戦や敗戦の要因が見当たらないわけではない。朝岡監督は「不具合が起きている状況でやっている」と話し、苦戦を強いられることや負ける可能性があることは、覚悟していたことを明かした。それでも、グラウンドを去るときには「落ち込むなあ……」とつぶやいた。悔しさを感じているのは「(選手が底力を)試されているところで、こちらがワクワクする選手がいない。難しい試合になったときに、グッとレベルを上げる選手が少ない」と話していた部分だ。苦境を予想した中で、指揮官の想定を覆すプレーが見たかったのだ。苦しい流れに飲み込まれず、立ち向かい、状況を変える強い力を持つ選手とチームの姿だ。

 3月中旬に行われたサニックス杯国際ユースサッカーでは優勝しており、年代別日本代表の経験者も多い。個々のスキルは高く、連係が取れればトップレベルで十分に戦える。しかし、選手には、大人が与える戦術や知識ではなく、自力で難局を乗り越える強さを求めている。指揮官は「今年は、時間がかかると思う。でも、最後は、やれると思っている」とも話した。自身の後輩にもあたる教え子への苦言は、期待であり、エールである。1-4の大敗後、雨の中で放たれた言葉は彼らに響くだろうか。

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