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SEVENDAYS FOOTBALLDAY by 土屋雅史

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[SEVENDAYS FOOTBALLDAY]:ゼブラ軍団の“心臓”(成立学園高・菅原克海)
by 土屋雅史

「彼は言ったことを必ず実践しますから」。成立学園高を率いる宮内聡監督は厚い信頼を口にする。「ずっと公式戦に出ていることもそうですし、たまに監督と1対1で話したりもするんですけど、そういう時に信頼を感じます。『もう自分が中心になってやれ』みたいな感じで言ってくれるので、自分に自信を持ってできますね」。今シーズンからトップチームに定着した小柄なボランチ。指揮官やチームメイトからも一目置かれている菅原克海は、東鷲宮のゼブラ軍団の中で日に日に存在感を高めている。

 総体予選一次トーナメントHブロック決勝。勝てば10チームで争われる二次トーナメントへの進出権を得られる一戦で、成立学園は難敵の駒場高と対峙する。「入りは悪くなくて、ずっと自分たちのペースでやっていた」と菅原も振り返ったように、ゲームリズムを掴んでいた中で、前半30分にセットプレーのこぼれ球を蹴り込まれて先制を許す。

「前半はまんまとやられましたね」と語った宮内監督は、ハーフタイムにチームを一喝した。「クロスを上げても点を取る気があるヤツが一人もいないじゃないか」「クロスボールに泥臭く突っ込んでいくみたいなことは誰もやらないじゃないか」。その言葉は「自分も前半は『中に入れていないな』と思っていた」菅原の心に突き刺さる。

「絶対にしっかり自分が中に入って、枚数を増やしていこうと考えて」迎えた後半。開始3分にその狙いを体現する瞬間が訪れた。ドイスボランチの相方でもある鈴木皓が右からクロスを上げると、ボールが流れたファーサイドへ3列目から走り込んできた菅原が猛然と姿を現す。

「良いボールが上がって来たんですけど、トラップがちょっとおぼつかなくて、自分のスネあたりに当たって、相手に当たって、自分に当たって、みたいな感じでした」と正確に状況を言葉へ置き換えるあたりに真面目な性格が滲む。ハーフタイムの檄を受けてマークした貴重な同点弾。菅原の『相手に当たって、自分に当たった』トップチームにおける公式戦初ゴールで嫌なムードを払拭した成立学園は、その5分後に逆転弾も叩き込み、終わってみれば3-1で勝利。3年ぶりとなる全国へまた一歩近付く結果を手に入れた。

 Jクラブのジュニアユース。有名な街クラブ。実質上の下部組織に当たる成立ゼブラFC。前所属チームの欄に錚々たるチーム名が並んでいる成立学園のメンバーリストを見ると、一際目を引くのは菅原克海という名前の横に並んでいる“北中野中学校”という文字。今大会で出場機会を得ている選手を見ていくと、菅原は唯一の中体連出身である。

 ただ、その理由は明確だ。「もともと知り合いだった中学の監督と良い関係を築いていて、かなりしっかり教えてくれる方だったので、中学校でやろうと思いました」。自らの望んだ環境で実力を伸ばしていった彼は、都内でも屈指の強豪として知られる成立学園の門を叩く。

「入学した最初はちょっと弱気というか、『うわ~、みんな有名な所から来てるなあ』と思いました」と当時を振り返る菅原。そんな中で徐々に自らの考え方も変化していく。「やっていく内に『ああ、全然できるじゃん』みたいな感じで、『あまり差はないんだな』と思いました」。

 技術では他のチームメイトに敵わない部分もある。それならば、自分の特徴を最大限に生かしていけばいい。競り負けない。走り負けない。そして気持ちでも絶対に負けない。泥臭いプレーを前面に押し出すことで、チームの中での立ち位置を確立していく。よく中体連出身だということは聞かれるというが、「『前のチームはあまり関係ないかな』と思っていて、もう今は高校ですし、みんなフラットな状態から始めたので、あまり気にしてはいないですね」と言い切る言葉が頼もしい。

 それでも、もちろん中学のサッカー部への思い入れがない訳ではない。一次トーナメントの出場チームには、中学のチームメイトの姿もあったという。「彼らも結構見に来てくれたりもしますし、お互いに応援したりしていますね」。菅原にとって二次トーナメントは“北中野中学校”を代表して戦う舞台とも言えそうだ。

 成立学園が最後に夏の東京を制したのは3年前。選手権ではもう10年以上も東京制覇から遠ざかっており、入学後に全国を経験している選手は1人もいない。そんなチームにおいて「真ん中は結構大事な所だと思うので、どんどん怖がらずにボールを受けて、自信を持ってやろうということはいつも思っていますし、守備の所は自分が周りを動かしてという所で、球際とか自分が負けないようにしてセカンドボールを拾って、マイボールにするというのを意識しています」と話す菅原の存在が必要不可欠であることは、彼らのゲームを見れば一目瞭然だ。

 これからの目標を「まずはインターハイで絶対に全国に出て、成立学園をみんなに知ってもらって、全国で行ける所まで行きたいですし、全国でもこのままの泥臭いプレーをどんどんやっていきたいです」と語ってくれた菅原。「ウチの心臓部ですね」と宮内監督も認めるドイスボランチの一角を託された、165cmの体躯にタフなエンジンを搭載する彼の出来が、ゼブラ軍団にとって久々となる全国切符の獲得を左右することに疑いの余地はない。

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