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スポーツライター平野貴也の『千字一景』 by 平野貴也

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「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第55回:町クラブからJへ、育成改革の旗手(ロアッソ熊本ユース:中山貴夫監督)
by 平野貴也

 改革アピールの第一歩だ。第41回日本クラブユース選手権(U-18)に出場したロアッソ熊本ユースは、グループステージを1分2敗で敗退したが、初の勝ち点を持ち帰った。

 下級生主体で、手応えは得た。2戦目を終えた後、中山貴夫監督は「九州にいると(全国レベルを)言葉や映像では知っていても、体感する時間は少ない。本気の相手と戦えるのは、良い勉強、経験になる。ここから(成績等で)変化を見せられるのは、早いと思う。そこから(プレーの)クオリティーを含めて、熊本の子どもの憧れにならないといけない」と今後の躍進を宣言した。

 ロアッソのユースは、変わる。地域の子どもが憧れ、集い、競うチームになる。レベルを上げ、ステージを高め、トップチームの戦力となる選手を送り出す――そのために、大きな決断を下した。中山監督は、昨年11月までブレイズ熊本の代表を務めていた。Jクラブが、町クラブの代表者を抜擢するのは異例だ。自分が立ち上げたクラブからの移籍は、容易には決断できない。しかし、昨季のユース監督を務めた菅澤大我ユースダイレクターが何度も足を運んで勧誘したことで、衝撃的な人事は実現した。

「心苦しさはあったけど、みんなの目標を作るには今しかないと話をして、勇気を持って(ブレイズを)出て来た。元々、地元の町クラブの指導者間の話で、育てた選手を送り込みたいと思えるクラブユースがあれば……という話があった。熊本では、まだロアッソの認知度が、特に育成年代では高くない。高校の部活動や県外のクラブに中学生の目が向いてしまう状況。でも、本気の話をもらって、選手の県外への流出を防ぎ、地域の活性化につなげることができると思った」(中山監督)

 地元で育成手腕の定評を得ている上、客観的に状況を把握している新監督の存在は、大きい。希望進路を高校チームからロアッソに変えた1年生FW小島圭巽は「貴夫さんのサッカーは、面白い。身体能力がなくても勝てるし、今日みたいにプレミアリーグの上位(鹿島ユース)が相手でも決定機が作れる。2年後はプレミアで戦いたいし、全国大会でも予選を突破したい」と息巻いた。高い目標を持つ選手が、信頼して集まり始めている。4月には寮が完成。5月には1年生DF片桐羽馬人がアカデミーで初めて年代別代表に選出された。全国大会の勝ち点獲得もまた初めてだ。改革のキーマンは「これからを、楽しみにしておいてほしい」と言葉を残して大会を後にした。

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