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SEVENDAYS FOOTBALLDAY by 土屋雅史

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[SEVENDAYS FOOTBALLDAY]:向こう側の景色(昌平高・関根浩平)
by 土屋雅史

 入学から既に4度も全国の舞台にレギュラーとして出場し、2度までもベスト4へ進出するなど、この世代でも群を抜いた経験値を有するキャプテンは、それでもその“向こう側”に見える景色を渇望する。「やっぱり一番は選手権ですし、自分たちの代の選手権というのは特別な思い入れがあるので、獲りたいですね」。1年生から昌平高のディフェンスラインを任されてきた関根浩平は、新たな景色の色彩をその目に焼き付けるべく、最後の晴れ舞台を待ち望んでいる。

 その登場は、まさにセンセーショナル。一昨年の全国高校総体。初めて夏の埼玉を制し、広島へと乗り込んできた昌平は2回戦で、その1年前に圧倒的な力を見せ付けて優勝したディフェンディングチャンピオンの東福岡高を相手に、シーソーゲームを3-2とモノにして“金星”を挙げると、前橋商高、静岡学園高と名門校を次々に撃破し、全国4強へと駆け上がる。最後は優勝した市立船橋高に惜敗したものの、1学年上の石井優輝(現・明治大)とコンビを組み、センターバックを託された1年生の関根は、チームの快進撃と共に一躍注目を集める存在になった。

 各ポジションに好素材を配し、大きな期待を背負って立ち上がった昨シーズンの昌平は、新人戦に端を発し、なんと驚異の県内全タイトル制覇となる5冠を達成。当時の関根も「目標は全国優勝です」と話していたように、周囲もチームも明確に日本一を視界の先へ捉えてい
たが、全国総体では初戦で日大藤沢高に、選手権では神村学園高に屈し、どちらもまさかの2回戦敗退。前年ほどの大きなインパクトは残せず、関根たちの代は最高学年を迎えることとなる。

 4月。“新キャプテン”はまだ迷いの中にいた。「中学校の時も全然やっていなかったんですけど、キャプテンをやる感じのヤツがいないので。でも、センターバックというポジションもありますし、1年から出してもらっているので、何となく2年の最後の方は『自分がやるのかな』とは思っていました」と口にした関根は、ピッチで2年間を共有した石井やGKの緑川光希(現・コバルトーレ女川)が、いかに声でディフェンス陣を牽引していたかを痛感する。新人戦に関東大会予選と2つのタイトル獲得を逃したことも重なり、指示の伝達方法にも、チームのまとめ方にも苦心していたこの時期。「まだしっくりこないですね。まとめるのは難しいですし、個性の強いヤツが多いので」と首をひねっていた表情が思い出される。

 それでも、立場は人を創っていく。「正直シーズンが始まったばかりの頃は、『自分が、自分が』という気持ちがあって、監督にも『プレーの質が落ちている』みたいに言われて。ただ、夏前ぐらいから少し慣れてきて、少しずつ自分のプレーも出せるようになりながら、周りも見られるようになってきたと思います」と振り返る関根。総体予選でようやく“1冠目”を手にしたチームは、徐々にらしくなってきたキャプテンを中心に一体感を携えて、三重での全国総体へ挑む。

 初戦の高知中央高戦を6-1で大勝した昌平は、2回戦で優勝候補筆頭の青森山田高と対峙。立ち上がりから互角の攻防が繰り広げられる中、前半11分と14分に連続失点を喫し、2点を追い掛ける展開を強いられたが、「全然やれない雰囲気はなくて、逆に『いつでも点取れるんじゃないか』ぐらいだったので、「点は取られているけど“2年前”と似てるな」みたいに思っていました」と関根。前半アディショナルタイムに木下海斗がゴールをマークし、“2年前”の東福岡戦とまったく同じ、1点のビハインドで後半へ折り返す。

 すると、後半17分に昌平らしいパスワークから、渋屋航平のゴラッソで同点に追い付くと、3分後には1年生の須藤直輝と木下の連係で一気に逆転。アディショナルタイムには森田翔がダメ押し弾を記録し、終わってみれば4-2で難敵を撃破する。試合後。「1年の時もこういう形でジャイアントキリングと言われたんですけど、その時の自分は出ていただけだったので、自分がキャプテンとしてチームの中心となって、格上のチームを倒せたのは凄く嬉しかったですね」と関根も笑顔を浮かべる。高円宮杯プレミアリーグEASTで無敗を続けていた強豪を真正面から倒した逆転劇に、昌平の注目度は一段と跳ね上がった。

 3回戦の札幌大谷高戦も2点差を引っ繰り返し、準々決勝の大津高戦は原田虹輝の2ゴールで競り勝ち、初のファイナルへと王手を懸けた準決勝の桐光学園高戦。0-0で迎えた後半早々。悪夢の時間帯がチームを襲う。5分。7分。10分。わずか5分間で3失点。しかも、すべてのゴールに関根が絡む格好となった。特に2失点目は相手のエース西川潤にぶっちぎられてしまう。「あそこまで簡単にやられるのは今までなかったかもしれないです」と悔し気に語る関根。その後、雷のために4時間近く中断したゲームは、再開後に2点を返したものの、2-3と一歩及ばず。昌平の進撃は2年前と同じ、セミファイナルでの足踏みを余儀なくされた。

「自分たちの攻撃は全国でも十分通用しましたし、『昌平の攻撃力ヤバいな』というのは見せられましたし、どこからでも点が取れる魅力は発揮できたんですけど、全試合失点している事実があって、守備に課題が凄く残ってしまったと思います」と大会全体に言及しつつ、「正直1年生の時も悔しかったんですけど、やっぱり日本一になりたかったので、今回の方がメチャメチャ悔しかったです」と準決勝をことさら強調する。「自分がもうちょっと頑張っていれば勝てたので、情けなかった」敗戦が、一見クールに見える関根の秘めた負けず嫌いのメンタルに、火を付けたことは言うまでもないだろう。

 もともとは栃木SCのジュニアユース出身。高校年代の進路を決めるに当たり、ユースへの昇格が第一志望だったが、森田ともう1人のチームメイトに誘われ、「じゃあ行ってみるか」という気持ちで参加した練習会が運命を変える。偶然にも選手権での試合をテレビで見たことがあり、そのパスサッカーは印象に残っていたものの、実際に針谷岳晃(現・ジュビロ磐田)をはじめとした「メチャクチャ上手い先輩たち」を目の前で体感し、「ここだったら自分も上手くなれるんじゃないかなという想い」が強くなった。最終的に昌平でのプレーを決断すると、入学から半年も経たずに定位置を掴み、そのまま全国ベスト4の景色を知ってしまうのだから、人生はわからない。

 現在は電車通学。50分近く宇都宮線に揺られ、毎朝登校している。往復のトータルで考えれば3時間近くを費やしているが、「もう慣れちゃいました」とのこと。とはいえ、すっかり通い慣れた道のりを辿る生活にも、確実に“終わり”が見え始めている。「今の練習だったりが凄く楽しいですし、充実しているので、やっぱり長くやりたいなという気持ちはありますね」。少しでも長くこの日々を続けるために、必要なことも重々承知している。ボールを蹴る3年生たちを見ながら、「コイツら全然言うこと聞かないので。何か言っても全然動かないんですよ」と笑った姿に、チームへの強い愛着が透けて見えた気がした。

 ピッチ外ではこんなこともあった。選手権県2次予選の開会式。出場校の選手が集まり、「大きなホールで」開催されたそのイベントで、総体予選優勝校のキャプテンは選手宣誓の大役に指名される。「そういうの、苦手なんですよ」と明かす関根に対して、チームメイトからも「オマエ大丈夫か?」と心配の声が上がっていたそうだ。会場へと向かうバスの中では終始原稿とにらめっこ。やたらとのどが渇き、何度も何度も水を飲む。本番はつつがなく成功して事なきを得たが、「あんなに緊張したことはなかったです。アレ以上の緊張はもうないと思うので、これからは何があっても大丈夫だと思います(笑)」とのこと。サッカーではあれほどプレーで雄弁にメッセージを発するキャプテンも、ピッチ外で四苦八苦していた姿を思い浮かべると、何とも微笑ましい。

 その最後となる選手権が目前に迫っている。前述してきたように。夏は全国4強を2度も経験したものの、冬に目を向けると一昨年は県の準決勝で敗れ、昨年は全国の2回戦で敗退。関根自身もチームも大きな結果はまだ手にしていない。もちろん今年の夏で得た手応えは、否が応でもさらにその先への期待を煽るが、それゆえに今はまず足元を見つめている。

「厳しい戦いになるのは自分たちも十分わかっていますし、全国の高校よりも埼玉の高校の方が自分たちのことを研究していると思うので、勝ち抜くのは大変だと思うんですけど、自分たちはインターハイで自信を付けてきましたし、初戦の入りから大事にして、1つずつ勝っていくことが大事だと思います」「正直まだ日本一は全然考えてなくて、まず県予選を勝たないことには全国に行けないので、埼玉を勝ち抜くために、もっと強度を増して、チームとして強くなりたいというのはありますね」。

 日頃のトレーニングにも確かな手応えを感じている。「個人個人のレベルも上がってきていますし、試合に出ていなかった選手も今は出てきて活躍してくれているので、一人一人の成長があって、良い形かなと。チームのレベル自体も底上げできていると思います」。個人的には今シーズンの序盤はサイドバックにコンバートされ、最近になってフォワードに戻った伊藤雄教との“1対1”が楽しいそうだ。「ユタカとか敵意剥き出しで来るので、練習でマッチアップとかになったら、絶対負けたくないんです」と笑顔を見せつつ、「サブのメンバーもトップの選手に負けたくないと、練習からガツガツ来てくれますし、去年も一昨年もサブの選手のクオリティはメチャクチャ高くて、そこは昌平の良い伝統でもあると思うので継続していきたいです」と続けた言葉は、集団をまとめるキャプテンとしての自覚に満ちていた。

 昌平の近年における目覚ましい躍進が一段と加速したのが、2年前の全国総体だったことは間違いのない所。そこからのチームの喜怒哀楽を、すべてピッチの上で実感してきた関根が、今まで見たことのないステージへ到達できるか否かは、昌平としてのそれと過不足なく一致する。ベスト4の“向こう側”へ。その景色の色彩を伝統の新たな1ページに刻み込むべく、関根と頼もしい仲間たちによる最後の挑戦が幕を開ける。

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