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セルジオ越後の越後録 by セルジオ越後

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現在の高校サッカー界から「怪物」は出てこない
by セルジオ越後

 全国高校サッカー選手権は広島皆実高校が初優勝した。組織的なサッカーで勝った広島皆実だが、決勝で彼らが上手く見えたのは、完勝したように見えたのは鹿児島城西の守りを考えると当然かなと思う。相手の守備力が低すぎたからね。
 さて、今大会は昨年に比べて得点数が多くて盛り上がった印象だけど、大味な試合が多かった。國學院久我山が2試合連続で7点(7-1松山北、7-1那覇西)取った後に前橋育英に完封負け(0-1)したように、レベルの高い大会でもなかったと思う。言い方は悪いけど、優勝した広島皆実にしてもJリーグにいく選手はひとりもいない。サンフレッチェのジュニアユースからユースチームに上がれなかった選手たちが中心のチームだった。
 そんな彼らが高校で成長して日本一を獲得したことは認める。だけど、彼らより「個」の能力が上と認められて昇格した広島ユースの子たちが選手権に出ていない。だから選手権は高校サッカー部のナンバー1を決める大会ではあるかもしれないが、高校年代のナンバー1を決める大会ではない。広島皆実が優勝したことで、クラブユースの子たちが選手権に出られるような改革をすることの必要性を改めて感じたね。

 鹿児島城西の大迫(勇也)クンにしてもそう。10得点を取って1大会の最多得点記録を更新したが、Jリーグのクラブユースにいい選手たちが流れてしまっている現在と5年前、10年前の記録を比較することはできないよ。大迫クンは確かに「今大会の怪物」ではあった。だけど「年間を通しての怪物」ではないということも確認しておいてほしい。全国総体では得点王にはなったけど4得点(4試合)は特別ではない。そして全日本ユースでは優勝した浦和ユースに完封負けしている。このことを踏まえて考えると、大会の活躍だけで高い評価をすることはできない。
 昨秋アジアユースで韓国に完敗したU-19日本代表にも入れなかった選手だ。だから今回の活躍は「高校チームで争われた1大会の活躍」だと分析すべき。鹿島で1年目から試合に出て、マルキーニョスや興梠(慎三)らとのポジション争いに勝って、初めて「怪物」と言えるんじゃないかな。
 
 高校サッカーから大物選手が育たなくなっているのは、問題視すべきだ。僕はJリーグのクラブユースができたことによる選手の分散化、そしてプリンスリーグが出来たことによる弊害が出てきたのではないかと考えている。最近、鹿実(鹿児島実)や国見に「選手が集まらなくなったから弱くなった」という声を聞く。昔は福岡出身の子が長崎県の国見や鹿児島県の鹿実に行って、層の厚い選手の中で鍛えられて「怪物」と呼ばれるくらいに成長していた。でも今は一番いい選手は地元のJリーグのクラブユースに行って、高校の強豪校へ行くのは2番手、3番手の子。上手い子が減った強豪校のチーム内の競争も激しくなくなった。「怪物」どころかJリーガーが育つ環境でもなくなってきている。
 また、03年に関東や関西、東海と各地域でプリンスリーグがスタートしたことも大きな影響を与えている。たとえば関西だとG大阪ユースと滝川二、野洲とか地域のトップ数チームが公式戦を行っているけど、逆に全国的な強豪的同士が戦う機会が減ってしまったと思う。昔ならば、各地で年中高校サッカーフェスティバルが行われていた。そこに国見がバスで駆けつけてきたり大学生が混じったりして、レベルの高い大会が各地で何回も行われていた。全国トップレベルのチーム同士が試合を繰り返すことで選手たちは鍛えられていた。でも現在はどうだろう。プリンスリーグ開催中は地域の中の強豪としか戦うことができない。

 また、日本サッカー協会のライセンス制度で、指導者は同じ“教育”を受けてきた。だから全国北から南までどのチームも同じような練習。その結果、どのチームも同じようなスタイルのサッカーをするようになってしまった。徹底的にボールをつなぐ井田さん(静岡学園)や、攻めて攻めて選手を鍛える城さん(四日市中央工)が作ったような個性あるチームも少なくなったと思う。これでは飛び抜けた選手は出にくいんじゃないかな。
 そして強豪の多くは人工芝の練習場を与えられて不自由のない、規制の少ない寮生活。サッカーをするのに不自由のない環境を与えられるようになって突出した才能を持った選手が出なくなってきていると思う。与えられてばかりでは、絶対にハングリーさは出てこない。芸を覚える前の動物にえさを与えても芸は上達しない。それと同じ。今の高校サッカー界から本当に日本サッカーにインパクトを与えるような「怪物」は出てこないよ。

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