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愛情ある言葉で谷澤を送り出したF東京・ポポヴィッチ監督

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 FC東京は13日にMF谷澤達也ジェフユナイテッド千葉へ完全移籍することを発表した。F東京での最後の1日となった14日の練習を前に、谷澤はチームメイトたちに挨拶をし、集まった約400人ものファンと別れを惜しんだ。

 その後も取材では、谷澤自身も目に涙を浮かべ、言葉に詰まりながらも「僕がいたときに(千葉は)J2に降格して、上がれなかった。落とすだけ落としたというのが心のどこかで引っかかっていたこともありました。もう一度(千葉を)J1に上げたいという気持ちは強いですし、今年、上がらないとダメだと思います」と千葉へ『復帰』する理由を語っている。

 F東京を離れるという決断を下した谷澤に対し、ランコ・ポポヴィッチ監督は、ユーモアを交えつつ、温かい言葉で送り出した。練習では厳しい声を掛けながらも、多くの試合でスタメン出場させていた指揮官は、今回の移籍についてこう語っている。

「現在のサッカー界では、より人間関係、義理人情が薄くなっている気がします。しかし今回、クラブが下した決断は、彼のことを思っての決断だったと思います。彼の意思を尊重した決断でした。谷澤自身が下した決断なので、その決断に対して私は『グッドラック』と言うしかありませんでした。今のチーム状態で彼の力は必要です。クラブが、彼に対してのオファーを蹴ることもできた。オファーがあったことを伝えないこともできたでしょう。しかし、ここにいた1年半で、彼はクラブに貢献して、ピッチ内外で自分の力を出し続けてくれました。その功績を認めていたからこそ、クラブもオファーがあることを伝え、彼の決断を尊重しました」

 移籍に悩む谷澤に対して、ポポヴィッチ監督は「ここはお前の家だし、試合にも出続けている。しっかりと考えてほしい」と話したという。それでも谷澤は自分自身で千葉へ移籍する道を選んだ。

「その決断を私が覆すことはできたかもしれません。しかし、周囲に説得されて残ったところで、彼は幸せなのか。プレーに集中できるのかどうか。私は100%を選手に要求しています。少しでも不安やサッカーと違う部分で問題を抱えていれば、100%は出せないでしょう」

 選手、スタッフに別れの挨拶をする際、谷澤は一発芸を求められたという。その一発芸について聞かれると、ポポヴィッチ監督は笑いながら「ヨワイ」と日本語で一刀両断した。

「弱かったですね。柏戦の最後のシュートと同じくらい、弱かった (笑)。だから移籍を了解しました。良いパフォーマンスをしていたら、『やっぱり行かないでくれ!!』と言うつもりだったんですが、ちょっと弱かったですね」と冗談を飛ばした。さらに「谷澤には(幸野)志有人も町田へ期限付き移籍して、おまえまでいなくなったら、オレが怒鳴る選手がいなくなるじゃないかと言ったんです。そうしたら、谷澤は『(田邉)草民でお願いします』と言っていたので、明日からは草民を怒鳴らないといけませんね」と続けた。

 この日、報道陣に対してポポヴィッチ監督は、じっくりと40分近く話をしてくれた。そこにはチームのムードメーカーがいなくなる寂しさもあったのかもしれない。「彼の新天地での活躍を願っています。私たちは、若い選手もたくさんいますから。そういう選手を育て、クラブの質、クオリティを上げて成長していくことをやっていくと思います」と、結んだ。自分たちのやるべきことをやっていれば、いつかピッチでまた会える。ポポヴィッチ監督は、そう思っているはずだ。

(取材・文 河合拓)

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