beacon

[第18回フットサル全日本選手権]フウガのクライ・ベイビーGK大黒「悔しくて、悔しくて」

このエントリーをはてなブックマークに追加

[3.17 フットサル全日本選手権 決勝 名古屋4-4(PK4-3)フウガすみだ 代々木]

 その涙は、悔し涙だった。PK戦突入の直前、会場のスクリーンには涙を流すフウガすみだのGK大黒章太郎の姿をアップで捉えていた。記者席からは「章太郎!! 早いよ!」という声もあがった。多くの人が、彼の涙は試合終了4秒前に、FP太見寿人が同点ゴールを決めたときに流した、喜びの涙だと思われた。だが、実際は違った。

 この日、フウガすみだは前後半の40分間で、合計54本のシュートを受けていた。身長168センチの小柄なGKは、次々と飛んでくる日本代表やポルトガル代表選手たちの鋭いシュートを、次々と弾き出した。「名古屋のシュートは、想像していた通りでした。想像以上ではなくて、本当に想像通りでした」。

 大黒は、日本代表に選出されていない。それどころか、Fリーグの舞台にも立ったことがない。それでも、名古屋のFP森岡薫やFPリカルジーニョら、世界基準の選手たちのシュートを「想像通り」に止められたのは、なぜか。「ずっと内山コーチが、僕のために練習メニューをつくってくれていましたからね。そのおかげです」と、大黒は言う。

フウガすみだのGKコーチを務める内山慶太郎は、身長171センチ。大黒と同じく小柄なGKだった。フウガすみだの前身であるBOTSWANA時代に活躍し、日本代表候補にも選出されている。その後、BOTSWANAから当時Fリーグに所属していたステラミーゴいわて花巻に移籍し、その後、スペインのクラブでプレーした後に帰国。フウガすみだのGKコーチに就任した。

 前所属クラブのフトゥーロでも全日本で3位に入賞したことのあった大黒は、フウガすみだへ移籍後、内山の指導を受け、メキメキと力を付けて行った。この決勝でも、大黒がいなければ、フウガすみだが常に先手を取って試合を進めることはできなかっただろう。それでも、大黒はリードを守り切れなかった自分が許せなかった。そして、延長前半4分、ついに名古屋のFP吉川智貴に勝ち越しゴールを許すと、悔しさがこみあげたという。

「『これで負けるのか』。そう思うと、悔しくて、悔しくて」。自責の念に駆られた大黒の目に涙がにじんだとき、FP太見寿人のシュートが、名古屋ゴールに入っていた。その瞬間、大黒はピッチに崩れ落ちた。

 試合は4-4のまま、PK戦へ突入した。涙の守護神を見て、須賀雄大監督は、GKの変更を決めたという。「章太郎は、泣いていましたしね」と、大役をGK揚石創に任せた理由を語り、「泣いていなければPKも蹴っていたと思います」と明かした。

「うちは練習のときにPKを決めている確率の高い選手から、順番にPKを蹴ることになっているので。泣いていなければ章太郎も上位だったのですが、強い気持ちが必要だと思ったので、ケガの選手と泣いている選手を外しました。それで、順番を伝えるのに少し時間がかかったんです」と、須賀監督は語っている。大黒も「自分で守りたい気持ちもありましたよ。でも、いつもPK練習のときは揚石が守っていましたし、あとは頼むという気持ちでした」と、納得していた。

 揚石も相手の1本目のPKを止めたが、フウガすみだはPK戦に3-4で敗れ、準優勝に終わった。試合後、フウガすみだのクライ・ベイビーは、目を赤く腫らしながらリベンジを誓った。「次のシーズンはまた名古屋とオーシャンアリーナカップで対戦できますからね。そこでリベンジします。今度は笑顔でミックスゾーンに来ますよ」。再び内山コーチの厳しいトレーニングの下、大具は己を磨く。次は、喜びとともに試合終了のブザーを聞くために。
(取材・文 河合拓)
▼関連リンク
第18回全日本フットサル選手権 特集ページ

TOP