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「後悔したくなかった」 CLよりボランチでの勝負を選んだ細貝の決断

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 日本代表MF細貝萌が新天地に選んだのは、来季からブンデスリーガ1部に復帰するヘルタ・ベルリンだった。ドイツを代表する名門クラブの一つであるレバークーゼンでプレーした今シーズン。前半戦は本職とは異なる左SBで試合出場を重ね、後半戦はベンチを温める時期が続いた。悔しさと同時に再確認したのが、自分自身が目指すべき理想像。UEFAチャンピオンズリーグ(欧州CL)に出場するチャンスを捨ててでも、ボランチでの勝負にこだわった細貝が、決断に至るまでの胸中をゲキサカに語った。

―ブンデスリーガで優勝争い、CL出場権争いを繰り広げたレバークーゼンでの1シーズンは細貝選手にとってどんな1年でしたか?
「最終的にあまり試合にも出られなかったので、周りの人たちには『充実しない1年だったのではないか』と思われているかもしれないですけど、自分としては全然そんなことはなくて、すごく充実した1年でしたし、いろんなことを考えさせられる1年でもありました」

―アウクスブルク時代と比べると、環境面でもまったく異なるビッグクラブですよね。
「大きなクラブなんだなと思うことはたくさんありましたね。施設もそうですし、トレーニング機材の量も質も違います。ロッカールームにはプールやサウナが付いているんですが、サウナも3種類ぐらいあって、プールも自由に深さを変えられるんです。ボタン一つで深さを2mに設定して足が付かないようにできたり。そういう環境にいるからこそ、自分の体のケアをしっかりしている選手も多くて、よりプロフェッショナルだなと感じることは多かったですね」

―レバークーゼンの中盤にはラース・ベンダーシモン・ロルフェスといったドイツ代表クラスの選手もいます。
「ラース・ベンダーに関しては、球際のところや、最後までがんばり切れるところは本当にすごいと思いましたね。ロルフェスは基本的に何でも高いレベルでこなせる。攻撃と守備のバランスをうまく取りながら、基本のレベルが高い。シュテファン・ライナルツは攻撃よりも守備の部分でうまくスペースを消しながら、ボールを保持したときにはどんどん縦パスを入れていく。個人的にはライナルツのプレーとベンダーのプレーが自分に足りないところだと考えさせられました」

―開幕当初はなかなか出場機会がありませんでしたが、DFミハル・カドレツの負傷もあり、第9節から左SBのレギュラーに定着しました。当時はどんなことを考えていましたか?
「試合に出ている時期はすごく充実していましたが、その中でも『自分はここのポジションで勝負したいわけじゃないんだ』というのはずっと思っていました。でも、真ん中で使ってもらえないのは自分の能力が足りないだけですし、自分が成長していかないといけないというのは同時進行で考えていました」

―初先発はバイエルン戦でした。2-1の勝利でバイエルンの開幕からの連勝を止めた試合でしたが、どんな試合でしたか?
「あの試合は自分のサイドからもクロスを上げられることが多かったので、自分としてはうまくいかなかった試合の一つではあります。でも、そういう状況でも気持ちのところで最後まで食らいついていったからこそ、自分のサイドからは失点につながらなかったんだと自分では考えています。最後の最後まで必死に食らいついていくことで、フィリップ・ラームのクロスの精度が少し落ちたり、アリエン・ロッベンが中に流れていったり、トーマス・ミュラーも最初はずっとサイドに張っていたのが徐々に真ん中に流れていくようになったんだと思います」

―終わってみればバイエルンがブンデスリーガで負けたのは、このレバークーゼン戦だけでした。
「自分たちとしては、相手がバイエルンだろうが、(最下位で降格した)G・フュルトだろうが、勝ち点3は一緒なので、それはあまり気にしていません。ただ、やられながらも食らいついていく姿勢を見せられたことはよかったですし、自分の中で『こういうふうにやっていかないといけないんだ』とあらためて気づかせてくれる試合ではありました」

―後半戦は『ボランチで勝負できる』という期待感もあったと思うのですか?
「そう期待していました。(左SBの)チェコ代表のカドレツとポーランド代表のセバスティアンがケガもなく、コンディションが良くなってきた時期で、自分としては真ん中でできるんじゃないかと思っていました。ところが、そうしたら右SBをやることが多くなって……。レアルから来たU-23スペイン代表の選手(ダニエル・カルバハル)がずっと右SBのスタメンで出ていましたが、練習でもう一人の右SBはだれがやるのかとなったときに、自分がそこに流れることが多かったんです。そうなってからですね。この状況では厳しいんじゃないかと思うようになったのは」

―ポジションのことで監督と話をすることはあったんですか?
「(前半戦に)左SBをやることになったときは話しましたし、(ウィンターブレイク中の)キャンプでも話しましたが、右SBをやるということはチームからは言われませんでした」

―それでも後半戦は試合に途中出場すると中盤でプレーしていました。
「練習ではまったくやってなかったですし、練習では常に右SBをやっていたのに、試合になるとボランチで最後の10分に出るという感じでした」

―練習は人数の関係で右SBに回されていただけだと。
「そういうのはあると思いますし、そういう立場にいることが自分の中では一番悔しかった。ここに残るよりも、他のチームに移ったほうがポジティブな面が多いのかなと、そのときに思いましたね。レバークーゼンからも残ってほしいと言われていましたし、CLにも出られる可能性があった。でも、そういうのを捨ててでも、移籍したほうがいいんじゃないかと。後悔だけはしたくなかったので」

―ボランチへのこだわりもより強くなった?
「チーム状況でSBをやることはあると思うんですが、練習でSBをやって試合でもSBならまだしも、練習でも左SBだったり右SBだったりいつもポジションが違ううえに、試合に出るときは練習ではやっていないポジションだったので。試合に出る機会も多少はありましたが、その状況で残るなら、環境を変えて、より高い可能性を選んだほうがいいのかなとは思いました」

―後半戦は毎日、どんなことを考えて練習に取り組んでいたんですか?
「精神的にも厳しかったですが、それで練習の質が落ちてしまうのが一番よくないので。そういう気持ちは練習の中でも自然と出てしまって、練習でもうまくいかないことが増えて、悪循環になりやすいんです。すぐにはどうにもならなくて、そこは精神的に自分が弱い証拠だと思いますが、シーズンの最後のほうは本当に調子もよかったですね」

―精神的に成長できた?
「そこは自分らしいというか、日本代表でも自分の立ち位置というのは、今も厳しい状況です。浦和のときもそういう時期はありました。そういうときこそ、どれだけがんばれるか。いつか状況は変わると思っていますし、浦和でもアウクスブルクでも、そうやって状況を変えてきたので」

―だれかに相談したりはしなかったんですか?
「自分の状況や悔しい気持ちとかを人に話すことはないですね。ただ、何度かチームがオフの日にトレーニングに行っていたら、たまたまコーチ陣と会って、『なんで筋トレをやっているんだ?』と言われたことがありました。『自分は試合に出ていないから、やらないといけないことが多いし、自分のコンディションは自分が一番よく分かっている』とコーチに伝えたら、『それだったら俺に言ってくれれば俺がいろいろやるから』と言ってくれて、オフの日にコンディショニングのコーチと2人だけでフィジカルトレーニングをしたこともありました」

―今後の課題はどこにあると考えていますか?
「守備の部分では、感覚的にやれるなと思うことは増えてきていますが、ボールを保持しているときのポゼッションや、攻撃に参加していくことは自分の課題ですし、自分に最も足りないところだと思っているので、そこは意識してやっていきたいですね」

―守備的なボランチの選手にもパスをさばいたり、縦パスを入れたり、攻撃の起点となることも求められています。
「日本代表でヤットさん(遠藤保仁)を見ていても、ボールを供給するところとか、ボールを保持してから落ち着いて決定的なパスを出すというのは、自分に一番足りない部分だと思います。オフェンスのときもとにかく簡単にさばいて、数多くボールに触っていくことを意識してやっていきたいと思っています」

―細貝選手にとっての理想のボランチとはどんな選手ですか?
「ボランチで守備がメインの役割と思われている選手が、いつの間にか点を取っていたり、攻撃の起点になっていたりというのが理想ですね。周りからは『あの選手は守備の選手だよね』と言われているのに、いろんなデータを見てみたら、意外と高い位置に顔を出している回数が多くて、結果、意外に点も取っているという。周りのイメージは『守備の選手』でいいんです。地味だけど、目に見えないところで実は攻撃の起点になっていたとか、そういう選手でいたいですね」

―それでは最後にヘルタでの来シーズンの抱負を聞かせてください。
「数多くの試合に絡んでいきたいですね。試合に出る、出ないは監督が決めることで、自分がよくなければ出られないのは当然で、そこは自分次第なので。試合に使ってもらえるようにプレーしていきたいですし、自分の力でポジションを確保できるように全力を尽くしたいと思います」

(取材・文 西山紘平)

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