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ユース世代でも増してきたフィジカルフィットネスの重要度、クラセン王者・横浜FMユースも活用する「miCoach SPEED_CELL TM」

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 現在、多くのユースチーム、強豪校が導入し始めているパフォーマンス計測デバイス「miCoach SPEED_CELL TM」。9gの専用チップをアディダス社製の対応スパイクの専用ポケットに搭載するだけで練習や試合で自分自身のデータを計測、ワイヤレスでiPhoneやPCに送信し、パフォーマンスをすぐにチェックすることができる。言わば、“頭脳を持ったスパイク”とも言える存在がサッカーの進化を後押ししている。

「miCoach SPEED_CELL TM」が計測できるのは運動中の距離、高強度距離、スピード、最高スピード、スピード別割合、時間別/スピード別総距離などのデータ。そのデータを確認することで客観的に自分のランニングフィットネスや体力面での長所を知り、弱点を確認することができるのだ。フィジカル、体力面重視への傾倒はサッカー界全体で始まっている。高いフィジカルをベースにテクニック、戦術を組み合わせたバイエルン・ミュンヘン(ドイツ)が、近年のサッカー界を席巻したパススタイルをUEFAチャンピオンズリーグで打ち破ったことで生まれた新たなムーブメント。フィジカルフィットネスの重要度が増しているのは、欧州やJリーグなどトップレベルだけではない。ユース世代にも徐々に浸透し始め、パフォーマンスデータを手軽に計測することができる「miCoach SPEED_CELL TM」を活用しているチームが増えてきている。

 そのひとつが今夏のadidas CUP 2013日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会で優勝した横浜F・マリノスユース(以下、横浜FMユース)だ。横浜FMユースはいち早く、昨夏に「miCoach SPEED_CELL TM」を導入。高橋一隆育成フィジカルコーチは「今までのフィジカルテストでは特別な機械を用意して、30mスプリントをさせたり、ジャンプさせたりして数値を測っていました。ただし、これはサッカーをさせた中での数値ではなかった。でも『miCoach SPEED_CELL TM』だとサッカーのプレー中のその選手のフィジカル的な要素を抽出できる。これは、『miCoach SPEED_CELL TM』の良さかなと思います。実際にデータを計測してフィードバックしていく中で、選手自身がパフォーマンスに手ごたえを感じている試合で実際にいい数値が出ていると、それを基準にして自分でも評価することができる。スプリントの本数なのか、高強度の割合なのか、それはこちらからもフィードバックしますが、選手たちは自分なりの基準を持ってきている。単純にランニングフィットネスだったり、体力的な部分でちょっと動けていなかったりとかコンディションを振り返るひとつのきっかけになるかもしれないです」と説明する。前例のない中で、手探りで「miCoach SPEED_CELL TM」の活用法を考えてきた横浜FMユースでは現在、算出されたデータと実際の試合映像を元にコーチから選手へのフィードバックを主に行っている。

 adidas CUPにおいて、横浜FMユースは、チーム全体が「どこよりも走れている」と感じるほどのフィジカルフィットネスを披露した。特に昨年の決勝で敗れた柏レイソルU-18とのラウンド16では大会7試合中最多の平均11,918kmの走行距離を記録。MF早坂翔主将は「柏戦では相手がポゼッションするチームだったので、自分たちが多く走って相手に思うようなサッカーをさせないようにということでやっていた。その試合はみんなよく走れていました」と振り返っていたが、これは欧州CL決勝でバイエルンのMFトーマス・ミュラーが記録した11,199kmをも上回るものだった。またこの柏U-18戦では7試合で最も多い平均87本のスプリント。そして延長戦へもつれ込む大熱戦となった広島ユースとの決勝では早坂やU-18日本代表候補MF汰木康也が14km近い距離を走り抜いたのをはじめ、チーム全体でも平均11,584kmと走り負けなかった。特に勝負どころの後半終盤から延長戦にかけてギアを上げ、汰木やMF長倉楓、DF福田圭佑、DF尾身俊哉がその時間帯に最多、もしくは最多タイとなるスプリント数を記録。苦しい時間帯でも走ることができる走力、それを活かす個々、チームの戦術が全国制覇をもたらした。

 ただ、ひとつ言えることは、データがその選手の武器や課題全てを表している訳ではないということ。単純に走行距離やスプリントの本数が多ければいいという訳でもない。松橋力蔵監督は「必ずしもこの数値だけが彼ら(選手個々)のパフォーマンスをすべて表しているという訳ではありません。数字だけ見て距離が少ないから走ろうということではなくて、どういうふうな傾向でそういう距離になっているのかを見なければならない。またデータが、ゲーム中の課題と必ずしもリンクしているとは限りません。数値は走る能力だけの問題であって、タイミングだとかスキルの問題は出てこないので、それをちゃんとくっつけないといけない。データだけをベースにするのではなく、サッカー自体の内容も踏まえて伝えていかないといけない」と言う。横浜FMユースでは各試合のデータを高橋フィジカルコーチが管理。松橋監督は算出されたデータを見るだけでなく、試合の映像とデータを必ず見比べて選手にフィードバックするようにしている。重要なのはサッカーの中でのプレーの質。映像と見比べなければ動きの本質は見えてこない。頭に残っている試合中の絵と映像、そしてデータを見比べることでFWがボールの出る瞬間にスプリントできていなかったり、最後のところで力を使えなかったりという反省点が見えてくる。その上で選手たちにデータをフィードバックし、トレーニングで本数を増やすなどして強化へつなげている。また、実際に競争相手同士の『miCoach SPEED_CELL TM』データを見せ合うことでそれぞれのモチベーションを向上させたりもしている。
 
 早坂は「今年は走ることを意識してきた。確実に前よりはみんな走れている。クラブユースではみんな走れていました」と振り返る。『miCoach SPEED_CELL TM』がフィジカルフィットネスの向上に役立っていることは間違いない。ただ、何のために走るのか、何のためにハードワークするかが重要。キーワードは「ビジョン&ハードワーク」だ。松橋監督は「『ハードワークするためにはビジョンを持たなければならない』とIPS細胞を研究された山中伸弥京都大学教授がおっしゃった記事を見た時に、まさしくそうだなと。これまで特定の言葉がキーワードとして取り上げられると、それがひとり歩き。ハードワークに、タフに、……。いくらハードワークしてもビジョンを持っていなかったら無駄になってしまう。そういうビジョンを持つことが、大会であれば優勝したい、その次はどうなりたい、最終的にはプロになりたい。多分そういうところにつながっていくと思うんですよ。この試合勝ちたい。優勝するためには勝っていかなければならない。こういう内容のサッカーをして勝っていきたい。そのビジョンがあるから毎試合力を振り絞ってハードワークしていく」。個人個人がビジョンを持ち、それに向けてハードワークを結集することがチームの勝利につながる。U-18日本代表GK田口潤人は「日本一になった後の目標を考えていなかったんですけど、終わった後、チームのなかでJユースとプリンス(リーグ)を取って3冠取ろうという意識が出てきている。まず目の前の試合からadidas cupくらいのテンションで、力を発揮できるようにする」と語り、早坂は「自分たちの目標は3冠なので、継続して練習に取り組めたらいいと思います」と誓った。立ち止まることなく、自分たちの武器を伸ばし、課題を克服すること。フィジカルフィットネスの向上を支える『miCoach SPEED_CELL TM』の存在がビジョンを達成するための大きな後押しとなる。

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(取材・文 吉田太郎)

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