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[MOM971]富山一DF竹澤昂樹(3年)_大観衆の視線を釘付けにした163cmの名手

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[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[1.13 全国高校選手権決勝 富山一3-2(延長)星稜 国立]

 試合終盤、ボールを持つたびに国立の大観衆の視線が富山一の背番号3に釘付けになっていた。「アイツが何かするぞ!」という期待感。ドリブルで仕掛ければDFの網を破り、前を塞がれてもDFを引きつけて巧みにギャップへ落とすパスで決定機をもたらす。そして左サイドから再三放たれる質の高いクロスボール。0-2の残り3分から同点に追いつき、逆転勝ちした富山一の立て役者は間違いなく左SB竹澤昂樹(3年)だった。

 後半42分には左オープンスペースへの絶妙なフィードで追撃ゴールの起点となると、その後ベンチの指示もあって左SBからポジションを中盤へ上げ、攻撃参加する回数を増やす。チームはこの「突破口」を頼って左サイドへボールを集めていた。

 ただ、慌ててクロスを放り込んだり、強引な突破を仕掛けることはしない。重圧を楽しむかのようにゆっくりとボールをコントロール。対峙したDFに対し、上体のフェイントを入れたり、ボールをDFにさらして飛び込んできたところをかわそうとしたり、しっかりとマークを外してから同点機を作りだそうとした。

 そして後半アディショナルタイムだ。右サイドでチームメートたちがボールをつなげると、中央のMF川縁大雅(3年)にボールが入った瞬間、大声でボールを要求する。シュートの選択肢もあった川縁だが、「タケ(竹澤)めっちゃ声だしていたんで、彼に託しました」と竹澤の前方へのラストパスを選択。これに鋭く走りこんだ竹澤は「縦へ抜けようと思った。正直記憶がないんですけど、コケたという感じで、笛を吹いてもらった」とDFに足をかけられてPKを獲得し、チームに起死回生の同点ゴールをもたらした。

 スタンドから集められていた視線、声援について竹澤は「(後から)ベンチのヤツに言われたんですけど、耳に入ってこなくて全然聞こえなかった」と集中していた。この日は準々決勝で負傷した腰の痛みを抱えながらのプレーだったが、その負傷が逆に自分自身を奮い立たせていた。「自分がやってやろうと思っていました。腰を痛めて準決勝で後半途中交代してチームに迷惑をかけて悔しかった。きょうは自分がやってやろうという気持ちで、逆サイドにも(自分のところへ)パス出せと言っていた」。その気迫が逆転劇の活力となった。

 石川県出身の竹澤にとって石川県代表の星稜との対戦は複雑な思いがあった。ただ「富山でサッカーをやっている限りは、富山県民のために身体を張ってやろうと。こういう形で終われたので自分の選んだ道が間違っていないと思いました」と笑顔。両チーム合わせて最も小柄な163cm、59kg、石川県出身の小さな名手が、最終章の国立で最高の輝きを放った。 

(取材・文 吉田太郎)

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