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本田のリーグ戦初ゴールから、カズが感じ取ったこと

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 1994年9月4日、FW三浦知良ジェノアの一員として、サン・シーロスタジアムに立っていた。世界屈指の名門ミランとのリーグ開幕戦に先発出場したカズは、前半28分にイタリアの伝説的リベロDFフランコ・バレージと激突し、鼻骨を骨折。前半までプレーしたが、後半からはピッチを退いた。その後、鼻骨の手術を受け、日本代表活動をはさみ、セリエAの舞台に戻ったのは約2か月後だった。

 開幕戦以来の先発出場となったのが、12月4日、サンプドリアとのダービーマッチだった。ホームゲームの前半13分、後方からのロングボールをPA内で長身FWトマシュ・スクラビーが落とす。これに反応したカズは、飛び出してきたGKの鼻先でチョコンと右足でシュート。このカズのセリエA初ゴールは、同時にセリエAにおけるアジア人初ゴールとなった。

 それから約20年が過ぎた2014年4月7日、ジェノアのホームスタジアムであるルイジ・フェラリスで、再び“初ゴール”が生まれた。ミランの一員としてアウェーゲームに臨んだMF本田圭佑のゴールである。この得点をカズはどう見たのだろうか。

 本田の初ゴールについてコメントを求めると、カズは「本当に良かったと思います。1試合通しては見ていないですけど、ゴールの場面の映像は見ましたよ。相手もジェノアだったしね」と言い、「オレが入れた方と同じ側のゴールだったと思うし、似たような感じだったよね。チョンって、浮かせてね」と、目を細めた。

 得点を挙げられなければ、外国籍選手は批判を受けることが多い。それでも、カズはリーグ戦11試合ゴールのなかった本田について、心配はしていなかったようだ。

「問題は本田選手というよりも、チームに問題が大きかったわけですからね。ああやってチームが良くなれば、必ず本田選手も良くなってくると思っていましたし。結果がすぐに出るときもありますが、時間がかかった方が逆に良い場合もあるし、急ぐ必要もない」

 さらに、そのキャリアで200得点以上を重ねてきたカズは「ゴールだけが、すべてじゃない」と、言葉を続けた。「やっぱりいいプレーを続けること。そのために毎日のトレーニングを続けていくことが一番大事だし、それを怠らずにやっていた結果が勝利だったりするわけですから。ゴールはプレゼントですからね。しっかりした毎日のトレーニングに対する。本当に意識を持ってしっかりやっているということ。それが一番大切なことで、それを続けていたからの初ゴールだと思います」。

 イタリアでは、まるでジェットコースターのように選手の評価が変わっていく。だが、周囲の声に流される必要はないと、カズは説く。「選手が試合をやって、記者は書くことでお金をもらうわけですから。選手が、どんなにパーフェクトな仕事をしても、それがどう書かれるかはわかりません。誰がどんなことを言ったかというのは、そんなに重要なことではない。選手は、プレーすることが一番重要で、そこに全集中を注げばいい」。そしてカズは「自分でコントロールが利かないことは、気にしなくていい」と言って、再び意外な言葉を並べた。

「記事であったり、試合の勝敗であったりとかね」

 第3者である記者の書く記事はともかく、試合の勝敗が「コントロールが利かない」とは、どういう意味なのか。

「自分たちのチームが、いくら良いプレーをしても、相手がそれを上回っていたら、勝てないときもあるわけです。そういうことは、コントロールできない。もちろんプロですから、勝利には、こだわらないといけません。でも、それ以上に大事なことはプロとしてコントロールできることを、毎日続けること。自分がコントロールできることというのは、毎日集中して、高い意識を持ちながらやることだし、試合に勝とうという意欲を持って、貪欲にやること。そういうことは自分でコントロールしてできることなのでね。自分のコントロールできることをしっかりやる。それを本田選手はやっていると思いますから。僕は、それで十分だと思います」

(取材・文 河合拓)

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