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[関東大会予選]「まだ目標にはほど遠い」名門・八千代は攻守で良さ出せず、笑顔なき逆転勝利:千葉

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[4.29 関東大会千葉県予選2回戦 柏南高 1-2 八千代高 柏日体高G]

 29日、平成26年度関東高校サッカー大会千葉県予選2回戦が行われ、8強が決まった。全国高校総体優勝の歴史を持つ名門・八千代高と柏南高との一戦は八千代が2-1で逆転勝ちし、八千代松陰高と戦う準々決勝へ進出した。

 健闘空しく1点差に泣いた柏南の選手たちが俯いた隣で、八千代の選手たちは危機感を募らせたかのように表情を曇らせ、唇を噛んだ。春の清水フェステバルでは国見高(長崎)、玉野光南高(岡山)、東海大翔洋高(静岡)に3連勝し、プリンスリーグ関東勢の山梨学院高(山梨)とも1-1でドロー。地元八千代カップでも3位に食い込み、1月の“裏選手権”でも現在プリンスリーグ東海首位の清水桜ヶ丘高(静岡)を撃破して8強入りするなど、全国の強豪相手の試合ではまずまずの結果を出していた。ただこの日は攻守ともに精彩を欠く、非常に厳しい試合内容だった。

 試合後、ベンチの裏側ではユニフォーム姿のままの選手たちを前に豊島隆監督が「ぬるい!」「なあなあでやっているよ!」「どれだけボールを失っている?」「このレベルでオマエらが目指しているところへ行けるのか?」と珍しく厳しい口調で選手たちを叱咤している姿があった。ボールを奪ったあとのDFや中盤のパスミスで何度も柏南に奪い返され、守備面ではスライドを怠り、局面で不用意に突っ込んで相手に簡単にひっくり返されるようなシーンも。豊島監督は「今年は選手たちも上手くないことを自覚してやっています。(それでも)相手が強くなるとコンパクトにやって中盤、前線でボールを奪うことができるんですけど…。もちろん選手たちは一生懸命やっているけれど、上手くないので自分たちがボールを持つとまだまだ苦しくなる。疲れもあるとは思うんですが…」とほとんど良さを出せなかった試合内容に首を振っていた。

 試合の入りは悪くなかった。八千代は前半1分にMF山本康平(3年)が右サイドからドリブルで切れ込み右足シュート。5分にはエースFW大橋祐紀(3年)のスルーパスから右サイドを突いたFW野口純平(3年)のラストパスに山本が反応する。右足の負傷を抱えて本調子ではないものの、前線で存在感を見せる大橋とFW佐藤史将(2年)が起点となってサイドへ叩き、連係での切り崩し。序盤はボールもまずまず動いていたが、徐々にミスが増えて押し込まれ、ボールを奪う位置が低くなると、前線までボールを運べなくなった。

 逆に奪ってから落ち着いてボールを動かした柏南は、10番MF栗村友貴(3年)とMF杉浦雄太郎(2年)を起点に、キレのあるドリブルで局面を打開するFW奥山翼(2年)やFW小林辰徳(3年)の飛び出しで八千代DFにプレッシャーをかける。受け身になってしまっていた相手を勢いで上回り、セカンドボール争いの主導権を自らへ傾けた柏南は、15分には左サイドでの崩しから最後は奥山が決定機を迎えたほか、中盤で再三ボールを拾って2次、3次攻撃を繰り出していく。対する八千代は26分に野口のパスから大橋が縦へ切れ込み右足を振りぬくが、柏南CB新野拓海(3年)が身体を張ってブロック。八千代は34分にも敵陣でのインターセプトから野口がシュートを放ち、38分にはドリブルで2人をかわした野口が右足シュートを打ち込む。そして0-0で突入した後半1分にはPAでDFを外したMF伊東皓平(3年)が左足を振りぬいたが、これもGK長澤祥一(3年)に阻まれてしまう。

 逆に後半2分、前半の40分間十分に対抗していた柏南がスコアを動かした。八千代DFラインのミスからCBを振り切って縦へ切れ込んだ小林がゴール至近距離から右足シュート。この跳ね返りを奥山が押し込んで歓喜をもたらした。ただ、さすがにこれで火の付いた八千代は7分、敵陣へ押し込み、右サイドへ展開すると、野口の折り返しをニアサイドの佐藤が1タッチでゴールへ流し込んで同点。さらに交代出場の左SB伊藤佑太(3年)や佐藤が左足シュートで相手ゴールを脅かすと、13分には再び右サイドへの展開から大橋がPAを横切るように切れ込んでラストパス。これをファーサイドの野口がゴールへ沈めて逆転した。

 ただけが人が多く、どこか乗り切れない八千代は、この後も大橋のスルーパスから交代出場のMF積田隼輔(2年)が決定機を迎えるなどチャンスをつくりながら3点目を奪えず。後半16分に投入されたMF池田慎之輔(3年)や左サイドへポジションを移した栗村を起点に攻める柏南に背後を狙われた。それでも八千代は声でDFを動かして守るGK宮口大海主将(3年)やスピードのあるCB菊池直希(3年)、初出場ながら左SB、右SB、CBもこなしたCB阿部巧(3年)らが反撃を封じて2-1で勝利。だが試合後、選手たちに満足感は全く見られなかった。

 八千代は全国高校総体優勝1回、準優勝1回、全国高校選手権4強2回の名門。ケルンのドイツ2部優勝に貢献したMF長澤和輝は専修大時代の昨年、教育実習で母校・八千代に戻り、練習では現在のメンバーたちとも一緒にボールを蹴ってきた。OBの活躍から受けた刺激もある。名門校として周囲の期待に応えたいという思いも選手たちは十分に持っている。1年時に全国高校選手権の登録メンバー入りしている宮口は「(名門の)プライドというか、関東大会も圧倒的に優勝してと思っていました。みんなその気持ちを持っていると思うんですけど、裏目に出てしまっている。空回りして、自分の状況も、チームの状況もみんな把握できていない。(今季は)こういう状況なので一個ずつやっていくこと」と指摘する。飛び抜けた個や技術がない分、それぞれが声や戦う姿勢、練習の取り組みなどから少しでもチームを良くしていくこと。そして課題をひとつずつクリアしていく。宮口は「目標はインターハイ、選手権全国優勝。みんなで頂点目指してやっている。最終的なところを見据えて、もっともっと技術的にも、精神的にも成長しないといけない。まだその目標にはほど遠い。みんな前向きだし、仲も悪くないし、マジメ。自分が中心となってちょっとずつでも成長して目標としているところへ行きたい」と誓った。不甲斐なかった試合から少しでも変わって次の試合に臨む。

[写真]八千代は
(取材・文 吉田太郎)

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