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都並敏史のコロンビア戦分析「もっとできたはずなのに…悔しい惨敗」

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 決勝トーナメント進出に、可能性を残していた日本代表。しかし、グループリーグの最終戦で16年ぶりの本大会出場を果たしたコロンビアに1-4で敗れ、1勝も挙げられないまま、ブラジルから帰国することになった。コロンビア戦の敗因は、どこにあるのか。そして、4年後に向けて日本は何をしていくべきなのか。現地で取材した元日本代表DF都並敏史氏に聞いた。

 コロンビア戦は、『攻撃は最大の防御』という形にしないといけないゲームでした。しかし、アルベルト・ザッケローニ監督は日本の2列目の選手たちに対する評価が高かったのでしょう。しかし、コロンビア戦ではそこにボールをつなぐことのできる選手が足りませんでした。結局、先発8人を入れ替えたBチームに完敗しています。攻撃が中途半端になったことが、その要因でしょう。日本は敵陣深くで攻撃できずに、ビルドアップの途中でボールが引っ掛かり、ショートカウンターに持ち込まれました。試合前に『2列目からの飛び出しに警戒が必要』と言っていたのですが、それ以前に1列目にやられて、PKを与えてしまいましたね。DF今野泰幸があのPKを与えた場面、普通はDFのボールに足が届く位置です。でも、南米の選手は、わざとボールとの間に足を入れてくる。そういう技術を南米の選手たちは持っています。

 前回のギリシャ戦では、終盤にパワープレーに出て腑に落ちない部分がありましたが、今回は先発メンバーから驚かされました。まさか、ここでMF青山敏弘を先発させるとは。もちろん、青山は良い選手ですし、僕も大好きです。でも、このタイミングで青山という選択は、僕には考えられませんでした。ここまで一度もW杯で起用していなかった選手は、やっぱりメンタル面、環境面で、まったく慣れていません。青山にとっても可哀想でした。実際、この日の出来は最悪で、前半18分までに縦パスはほとんどミスになり、PKを与えた場面も彼の軽いタックルがかわされています。

 とにかく良い攻めをして、相手の深い位置まで攻め込む。それが今の日本が、コロンビアの強力な攻撃を抑える唯一の方法だったと思いますし、そのためには、やっぱりMF遠藤保仁を先発で使うべきでした。百歩譲っても、MF山口蛍を先発にして遠藤を途中から起用する。遠藤ならやってくれたと思うんですよ。結局、監督が思っている『自分たちのサッカー』と、選手たちと我々が思っている『自分たちのサッカー』に、ズレがあったのかな。そんな感じがする一戦でした。

 ザッケローニ監督は、スクデットを獲ったり、大舞台の経験もある人です。ですから、僕は信頼している部分がありました。でも、代表チームの指揮が初めてで、W杯も初めてだと、やはり舞い上がってしまう部分があったのかもしれません。これまでも、そんなに素晴らしい采配というのはありませんでしたけど、これだけ『おいおい』と思わせる采配もない人でしたから。コロンビア戦でも選手交代を巡って、コーチ陣とベンチで言い合っていましたが、あんなことは今大会までは、一度もありませんでしたからね。

 MF岡崎慎司の同点ゴールの場面は、素晴らしかったですね。日本のストロングポイントである2列目が輝けば、良いチャンスができるという象徴的な場面でした。2列目の選手たちが、一度、二度、ポジションチェンジをしたタイミングでしっかりとパスが出てくれば、絶対にチャンスになる。つまり、2列目にパスを出すボランチ、サイドバックといった3列目、4列目のクオリティの問題になります。

 日本は1列目のFWに決定力という課題があり、2列目はまあまあ面白い。そして3列目、4列目が、まだまだ足りていません。この4年間の日本の取り組みは、決して間違っていなかったと思いますが、さらに上に行くためには、この部分の強化が必要というのが今回のW杯で僕が感じたことです。そのためには、育成年代で2列目では使えないけど、可能性があるうまい選手を、早めにDFラインやボランチにコンバートさせて、経験を積ませること。そうして必要な守備面やパスをさばく技術を植え付けさせていくことが、不可欠です。

 また、日本人が南米のサッカーと触れる機会が減っていることの弊害も感じました。欧州のサッカーは見るけれど、南米のサッカーは見ないという人が、今はとても多いと思います。その結果、日本では欧州のパスサッカーを模範にして、パススピードとか、間合いに入るとか、そういう要求ばかりが増えています。それによって、ドリブルを良いタイミングでできる選手がいなくなり、引いた相手を崩せなくなってしまいました。これは、はっきりとした課題で早急に取り組まないといけません。コロンビアの2点目の場面、SBのアリアスは右サイドから斜めにドリブルを仕掛けて、日本の守備を引き付けました。あれが一番、効果的なプレーです。状況に応じて、誰もがああいうプレーをやれることが理想でしょう。

 見ることというのは、非常に大事です。ブラジルに来て、草サッカーを見ていても、その辺でボールを蹴っているオッサンたちは、みんな引いた相手を崩す攻撃のイメージを持っています。それは、普段からそういうプレーを見ているからできるわけです。もちろん、欧州のサッカーも素晴らしいですよ。素晴らしいけど、日本には南米のエッセンスのようなものも必要。以前は持っていたものが、ちょっと消えつつあるから、そこは足していかないといけません。南米のサッカーを見ることもそうですし、南米のチームと対戦することも大事です。試合中に彼らが何を狙っているのか、体の当て方、ファウルの取り方、時間稼ぎの仕方、そういうことも本当に上手です。南米サッカーの神髄を、日本のサッカーはもう少し知るべきだと強く感じました。

 4年後に向けて、日本は選手層を厚くしないといけません。今大会は、直前までケガをしていた選手たちを使わなければいけませんでした。コロンビアのように2チーム分つくれるようなバックアップメンバーの充実は、必要でしょう。FWもエースのラダメル・ファルカオがいなくても、あれだけ点を取れる選手がいるわけですから。最後の最後に、代表に招集したFW大久保嘉人をあれだけ多く使ったことを不思議に感じる部分もありますが、逆にそういう選手がいるというのは、ある程度の選手層があるという証拠です。今後はバックアップメンバーも、しっかりと準備することをしないといけません。

 監督に頼らずに、選手たちが自分たちで判断する力も求められます。試合中、当初用意していたプランAがうまくいかなかったとき、すぐにプランB、プランCに切り替える。それは監督が準備することも当然ですが、選手同士でも準備する必要があります。サッカーは相手があってのことですから、「自分たちのサッカー」ができないことなんて当たり前です。そのときに、相手の戦略・戦術を理解して、自分のプレーを変えていく。そういう世界にどんどん入っていかないと。まだまだ、個々の引き出しが足りていません。

 また06年大会でも話題になりましたが、コンディション調整もうまくいきませんでした。3試合を通して、選手たちは走れていなかった。いくら暑いといっても、日本はボールを動かすサッカーをするんだから、もう少し走れて、キレがないと、さすがにキツイ。コロンビア戦もPKを与えた前半18分の時点で、3人もヒザに手を当てている選手がいましたからね。『どういうことなの?』って思ってしまいました。指宿合宿でハードに追い込み過ぎたこともあったのかもしれませんし、キャンプ地の選定も課題だった可能性もあるので、しっかり検証したいと思います。キャンプ地のイトゥは非常に涼しかったのですが、コロンビア戦のあったクイアバは立っているだけで汗が噴き出るほど暑かった。監督時代に僕も5月に東京から福岡に行っただけで選手が走れなくなるという経験をしていますが、全然違いますからね。やや厳しい環境でキャンプをして、試合のときはラクになる。そういうコンディションの調整がいいのかもしれません。

 次期監督に関しては、僕は日本人にやってもらいたい。ザッケローニは4年間で良いチームづくりをしたと思いますが、やっぱり日本人の規律に縛られがちであったり、監督がメッセージを一つ発進したら、十をこなそうと縛られてしまうほど監督のメッセージに縛られるようなメンタリティを今一つ分かっていない気がしました。もちろん、イタリア人のDFの細かい指導方法など、日本人指導者にできないこともあると思います。でも、それは外国人スタッフやアドバイザーを入れれば、補うことができるものです。これまで多くの外国人監督がやってきましたが、結局は帯には短し襷には長しという感じで、過去最高の結果を出しているのも日本人の岡ちゃん(岡田武史)です。それなら、岡ちゃんにサポートを付けてあげればいい。もちろん、ホセ・ペケルマン監督は素晴らしい監督ですけど、アルゼンチン人はアルゼンチン人の問題が出てくるでしょうから、僕は日本人監督でやって、足らないところにお金を払って、他の人材を現場に付ければいいと思いますよ。

 W杯がこのような結果になり、課題ばかりを挙げてきましたが、この4年間で日本は大きく成長しています。欧州遠征では分析されていなかったとはいえ、オランダ、ベルギーと互いの良さを出し合い、互角に戦うこともできました。あれだけの強豪を相手に、良い部分が出せたことは、今後も自信にできるでしょう。その状態を保つためにも、先ほど挙げた、プランB、プランCが必要です。やってきたことは間違っていないですし、だからこそ、僕は今大会を前に夢を持っていました。このグループなら、そこそこ行けると思っていましたし、その点では自分も含めて少し認識が甘かった。あらためてW杯の戦いは厳しい、そんなに甘くねーぞと、痛感させられました。

 個人で言えば、DF吉田麻也の成長は今後のために明るい材料でした。コートジボワール戦でクロスからやられた失点と最後にハメス・ロドリゲスにかわされたシーンはありましたが、それ以外はほとんどノーミスでした。昨年のコンフェデレーションズ杯でミスして、叩かれて、悔しい思いをして、ケガもして、そこからすごく成長した。最後の試合で4失点していますし、他に褒める人もいないと思いますが、僕はDFとして、攻撃がうまくいかずにDFに負担が来ていた中で、すごく良くやったと思います。

 次の大会に向けて、当然、選手は変わっていくでしょうが、DF内田篤人の代表引退宣言は、詳しい理由は分かりませんが、コメントを聞く限りは考え直してほしいですね。内田のプレーに思いを込めて応援してくれる人、内田のプレーに生きがいを感じる人もいるわけです。次の大会を目指せとは言いませんが、今回の悔しさをさらに自身の成長につなげて、もう一回り大きくなって、それを日本に還元していくことは義務だと思います。現在32歳とかならともかく、まだまだサイドバックとしての絶頂期はこれから来るわけですから。そのプレーを日本に還元していくのは、後進の成長にもつながるわけですから、このタイミングでの代表引退は本当にやめてくださいという感じですね。大会に出た選手、それぞれが日本サッカー界にできることは、たくさんあるわけですから。

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