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宮本恒靖のW杯分析「アジア勢は縦に速いサッカーに対応できなかった」

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 ブラジルW杯はドイツの24年ぶり4度目の優勝で幕を閉じた。4年前のチャンピオンであるスペインのグループリーグ敗退、コスタリカの躍進、ブラジルの衝撃的な敗戦……。印象的な出来事が続いた大会の決勝では、ドイツが延長戦の末、アルゼンチンに競り勝ち、南米大陸で開催されたW杯としては史上初めて欧州のチームが頂点に立った。今大会から見えた現代サッカーのトレンドとは? W杯を分析する国際サッカー連盟(FIFA)のテクニカル・スタディー・グループに日本人として初めて入った元日本代表DFの宮本恒靖氏に聞いた。


 今大会を通して見られた傾向としては、ちょっと守備に重きを置きつつも、攻撃マインドは持ち続けるというチームが多かった印象があります。世界のサッカーシーンを牽引してきたスペインがここ数年やってきたポゼッションサッカーの攻撃マインドは持ちつつ、そのスタイルではなく、奪ったボールを縦に速く運んで攻めるという傾向が見て取れましたし、そこにスピードとパワーが合わさっている印象がありました。

 今大会のオランダはそういうタイプのチームでしたし、アメリカもボールを奪ったあとの迫力、スピードがかなりのレベルにあるなと感じさせるチームでした。ドイツに善戦したアルジェリアも攻めに転じたときの姿勢が素晴らしかったですね。

 決勝トーナメントに進出したチームの中で3バックを採用しているチームが多かったことも、守ってから縦に速く攻めるという今大会の傾向と関係があったかもしれません。オランダやコスタリカ、メキシコもそうですが、守るときは5バックになってしっかり守り、攻めになったら素早く両サイドが高い位置を取っていました。

 コスタリカは5-2-3で守り、中盤の2枚が相手の守備的MFに積極的にプレスにいく。そうするとバイタルエリアにスペースができてしまうのですが、そこに相手選手が入ってきたらセンターバック3枚のうちのだれかがすぐに捕まえにいくというのがハッキリしていましたし、5人できれいにラインを形成できていたのが印象的でした。ラインを崩してマンマークにいくときと、ラインをしっかりつくってコンパクトな陣形を保つときの使い分けが徹底されていました。

 オランダで言えば、守るときはディルク・カイトやダレイ・ブリントがDFラインに下がって5バックになり、ボールを持ったら上がっていって、瞬間に3-4-3にして攻めていました。今大会のオランダは相手に攻めさせておいて、できたスペースを利用しようという特徴がありました。そのオランダがコスタリカと対戦したときには、コスタリカの巧みな守備によりなかなかスペースが見つけられず、苦労していました。

 自分たちでボールを保持して、積極的にボールを動かして攻めようとするチームが上位にあまりいなかったのは、気候も関係していたかもしれません。ブラジルは場所によってまったく気候が異なり、レシフェ、クイアバなどはかなり蒸し暑かったと聞いていますし、私が担当したフォルタレザのオランダ対メキシコ戦では初めてクーリングブレイク(給水時間)が導入されました。

 積極的にボールを動かしていくよりも、引いて守備ブロックをつくってボールを奪うチャンスを狙いつつ、コンパクトにした中で人に付くというやり方のチームが多かったのは、リスクを恐れていたというよりは暑さを考慮に入れた選択だったのかなと思います。準決勝のオランダ対アルゼンチン戦はやや探り合いの雰囲気が感じられましたが、そのカード以外では攻めのマインドを感じるチームが多かったですね。

 また、この大会ではリオネル・メッシやアリエン・ロッベン、ネイマール、ハメス・ロドリゲス、それにアレクシス・サンチェスなど、個の力が勝敗を決める試合が多かったという事実はありますが、だからといって特定の個に頼ったチームが多かったというわけではないと思います。

 オランダで言えば、ロッベンが守備をしていなかったわけではないですし、全員で戦うまとまりがありました。確かにロッベンの存在感は抜きんでていましたが、チームとしてボールをうまく動かしていました。もっとも、個で打開できる選手がいないと、こういう大会では勝てないという見方はできるかもしれません。

 個人に依存しているという批判を浴びていたアルゼンチンは、ちょっと特殊な存在だったかもしれません。オランダ戦のときはアンヘル・ディ・マリアがいなくなった影響がハッキリ出て、メッシに全然ボールが入らなくなってしまいました。自分にボールが来ないメッシはどんどん下がってボールを受けようとしましたが、そうなると相手ゴールから遠くなって怖さが半減してしまいます。あの試合、メッシがペナルティーエリア内に入った回数は0回だったようです。唯一、入れたのはPK戦のときだけでした。

 ただ、アルゼンチンがメッシ頼りだったという事実があったとしても、アルゼンチンはその戦い方で勝ち進んでいったわけですし、そのやり方はうまくいっていたと言うべきかもしれません。

 ヨーロッパ開催の大会ではヨーロッパ勢が強く、南米開催では南米の国々が結果を出すというのは昔から言われていることですが、今大会でも南米勢が奮闘しました。やはりサポーターの数が違いますし、気候を知っているというアドバンテージは絶対にあると思います。個人的な経験で言えば、自国開催だった2002年のときは普通の感覚でプレーできましたが、2006年大会ではドライな気候や強い日差しにやりにくさを感じましたし、ピッチの違いも感じました。

 アジア勢が結果を出せなかったのは、縦に速いサッカーという今大会の傾向とも関係があったと思います。日本も初戦でコートジボワールのパワーを持った速い攻めに苦しめられましたし、韓国もアルジェリアと対戦したときに苦戦していました。イランはアルゼンチン相手に奮闘していましたが、次のボスニア・ヘルツェゴビナ戦では相手ペナルティーエリアに近づいたとき、あるいは自陣のペナルティーエリアに押し込まれたときの質で足りない部分を感じました。

 速い展開になったとき、数的不利でもなんとかしないといけないという状況での能力が不足していました。今大会はそういうシーンが多かったのですが、アジア勢には全般的にそういうところで戦い切れる力が足りなかったのかなと思います。

 今大会は縦に速い、インテンシティーの高い試合が多かったのですが、この傾向は一昨年のバイエルン対ドルトムントのチャンピオンズリーグ決勝、そして今年のアトレティコ・マドリー対レアル・マドリーのマドリードダービーになった同決勝からも見られました。そういう試合を見たときにワールドカップも縦に速いサッカーになるかなと予測していましたが、やはりワールドカップでもその傾向が表れていたことを考えると、大会を戦うにあたって、しっかりと世界のサッカーのトレンドを押さえておく必要があると思います。

(構成 神谷正明)

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