beacon

[総体]2014夏、注目チーム特集:9年ぶりの夏、伝統校・鹿児島実が『強い鹿実』取り戻す

このエントリーをはてなブックマークに追加

『ゲーゲンプレッシング』。

 これはドイツ・ブンデスリーガで11~12年シーズン、12~13年シーズンと2連覇を成し遂げ、チャンピオンズリーグ準優勝に輝いたドルトムントが取り入れている戦法だ。

 前から積極的に連動したプレスを仕掛け、ボールを奪ったらすぐに攻めるだけでなく、攻めながらもボールを奪われたときのことを想定しながら、ポジショニングをする。そしてボールが奪われた瞬間こそが、このプレスの真骨頂。すぐさまボールホルダーに複数でプレスを仕掛け、再びボールを奪ってショートカウンターを仕掛ける。ドイツの知将、ユルゲン・クロップが編み出したことの戦術を、鹿児島の名門が取り入れ、更なる進化を遂げようとしている。

 鹿児島実高はこれまで城彰二、松井大輔遠藤保仁伊野波雅彦という4人のW杯戦士を輩出し、全国高校選手権優勝2回、同準優勝2回、全国高校総体準優勝1回を誇る伝統校だ。しかし、この鹿実の赤いユニフォームは、しばらくの間、全国の舞台から遠ざかっていた。名将・松澤隆司監督がその座を退いてから続いた低迷。3年前に森下和哉監督がコーチから昇格する形で就任してからも、なかなか這い上がることが出来なかった。

「もう一度強い鹿実を復活させるためには、過去と同じことをやっていてはいけない。新しい鹿実になるための『進化』が必要」。森下監督が今年のチームに『進化』として植えつけたのが、ゲーゲンプレッシングだった。

「もともと鹿実は伝統的にフィジカルが強くて、スピードがある。それをより生かすためには、ゲーゲンプレッシングこそふさわしいと考えた。奪われる瞬間から守備が始まっていて、奪う瞬間から攻撃が始まっている。あくまで攻撃は攻撃、守備は守備ではなく、我々の伝家の宝刀である運動量をフルに活かせる戦術として、徹底して植え付けた」。

 この目論みはしっかりとはまった。もともと今年のチームは、昨年からのレギュラーが多数。選手権予選で負けたことによって、結果的に新チームのスタートが早くなり、非常にスムーズに移行することができた。

 内屋椋佑奥村泰地のCBコンビが軸となり、4バックをコントロール。ゲーゲンプレッシングを完成させるためには、4バックのラインコントロールが肝になる。内屋と奥村が攻撃時にいかにラインを高くし、かつ奪いどころを理解して、SBを絞らせたり、下げさせたり、時には積極的に押し上げたりできるか。この判断を誤ると、一気にカウンターを受け、失点のリスクを高めてしまう。このポイントを両CBが理解したことで、全体の距離感が均等に取れるようになり、左の和田鉄男、右の鮫島大の両SBが積極的なオーバーラップを仕掛け、田畑風馬井上黎生人のダブルボランチもSBとCBのバランスを見て、うまくギャップに自分たちのポジションを置く。そして左MFの福島立也、右MFの大迫柊斗は個人技が高く、彼らの個の打開を活かしながらも、彼ら自身も味方との距離感をしっかりと見極めて、そのポジショニングを取る。加えて木村涼前田翔吾の2トップも、スピードと高さというお互いの長所を引き出しながら、組織としての連動性も怠らない。

 まさに森下監督の『鹿実を変えたい』という一心が、情熱となって、ゲーゲンプレッシングを浸透させた。そしてその成果はすぐに表れた。県新人戦で優勝を果たすと、九州新人大会でも復活Vを手にした。そして今回の総体予選では、「県内最大の関門」(森下監督)である鹿児島城西高との準決勝で、ゲーゲンプレッシングは効力を最大限に発揮した。「早い守備から、素早くポゼッションをして、効果的に相手の守備網を崩せた。相手のエースも完全に封じて、相手に全く何もさせなかった」(森下監督)。相手のシュートを1本に封じ込み、1-0の勝利。出水中央高との決勝戦では、一方的な試合展開に持ち込む。1-0の後半ラストプレーのFKで追いつかれるという嫌な流れだったが、延長戦も変わらず押し込み続け、最終的にはPK戦の末に勝利。9年ぶりの全国総体出場権をつかんだ。

「鹿実に入ったのに、全国に一度も出られないのは考えられない。ずっと行きたかった全国。出るからには勝つ」(福島)。「鹿実はたくさんの偉大なOBがいて、多くの人が支えてくれる。目標は恩返しの意味を込めて全国制覇。『強い鹿実』を取り戻したい」(奥村)。

 実に9年ぶりに『赤い鹿実』が全国のひのき舞台に帰って来た。もちろん彼らの目標は帰って来ることだけではない。全国の地で結果を残すこと。まずはこの全国総体で優勝を勝ち取って『強豪・鹿実復活』を全国に印象付けることこそが、今大会の彼らに課せられたタスクだ。

(取材・文 安藤隆人)
▼関連リンク
【特設ページ】高校総体2014

TOP