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“香川狂想曲” 現地で見た急転直下の移籍劇

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 8月31日、MF香川真司ドルトムント復帰が正式決定した。プレシーズンの序盤はマンチェスター・ユナイテッド残留を表明していただけに、急転直下の出来事だった。ドルトムントのハンス・ヨアヒム・バツケCEOが「シンジはどうしても戻ってきたかったんだ」と地元紙『レビア・シュポルト』に話しているのを信じるならば、香川側が望んだ移籍だった。想像に難くない状況だ。

 だが、我々日本人が思うよりも、ドルトムントサポーターは香川の復帰を喜んだ。有名なTwitterのハッシュタグ「#FreeShinji」だけでなく、そこかしこに香川復帰を待ち望むコメントがあふれた。新聞紙上ではMFシャビ・アロンソのバイエルン移籍と比較する記事も散見されたのだから、どれだけの扱いか分かるだろう。

 正直なところ、私はそこまでの扱いにピンとこない(同意する日本人記者は少なくない)。ユナイテッドではチャンピオンズリーグなどの重要な試合で活躍できなかった印象が強い上に、先のブラジルW杯での姿が脳裏に焼き付いてしまっている。だから、なぜこれほどに歓迎されるのか合点がいかないのだが、おそらくはドルトムントがブンデスリーガ2連覇を達成した10-11、11-12シーズンに、香川がちょうどその2シーズンだけ在籍していたことから来るイメージなのだろう。

 急転直下の移籍話には、報道陣も振り回された。8月28、29日ごろから報道は熱を帯びた。ドイツの主要紙のニュースはほぼ間違いがなかっただけに、彼らが確かな情報源を持っていることは想像できた。29日になってドイツ紙『ビルト』が「30日13時に正式発表」の可能性を報じると、日本人記者の多くも現場に出かけた。

 ここで言う現場とは、メディカルチェックを受けるであろう病院やクラブ事務所などのことだ。30、31日は週末で、ブンデスリーガの開催日だったにも関わらず、香川のドルトムント復帰が優先された。数多くいる日本人選手の公式戦を棒に振っても、いるかいないか分からない香川を追うというのが先週末の使命だった。

 ちょっとした異常事態だ。結局、香川本人はそのどちらにも現れず、いわゆる「空振り」に終わったわけだが、多くのドルトムントサポーターがつめかけている現場を目撃することができた。日本人記者は少々首を傾げながらも、感激した。日本人が海外で愛されている姿はうれしいに決まっている。

 かつてドルトムントでドイツ人と目が合うと、ほぼ無条件に香川のチャントを歌われてしまったものだった。こちらが香川のファンだと信じて疑いもしないのだ。最初は物珍しく、なんだかうれしかったが、そのうちドイツ人の大声がうるさく、鬱陶しくもなった。だが、この2年間でそんな回数も格段に減り、それはそれで寂しいものだった。今後またそうした状況が増えるかどうかは、香川の活躍にかかっているのだろう。

(取材・文 了戒美子)

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