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[MOM1187]加茂暁星GK佐田快斗(3年)_味方を4km走に追い込んだ恐怖の守護神がPKストップ

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[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[11.3 全国高校選手権新潟県予選準々決勝 新潟明訓高 0-0(PK3-4)加茂暁星高 聖籠スポーツセンターFグラウンド]

 大型低気圧の影響を受け、試合会場の聖籠スポーツセンターは強い風にさらされていた。前半32分、押し気味に試合を進める新潟明訓の右DFが放った鋭いミドルシュートは、追い風に乗ってぐんと伸びた。入ったかと思われたが、加茂暁星はGK佐田快斗がタイミングよくボールの軌道に跳んで難を逃れた。その後も攻められ続ける苦しい展開となったが、「風のことは、しっかりと意識してプレーしていた。来たボールは全部止めるつもりだった」と話した佐田は、惜しみなく体を張るディフェンスラインとともにゴールを死守した。80分を守り切り、延長戦も耐え抜いた。しかし、試合はトーナメント戦だ。PK戦で勝たなければ、次には進めない。再び見せ場がやってきた。

 相手が3本目をポストに当てるミスを犯して1点リードとなった4本目、佐田はコースを読み切って左に跳び、まさに跳んだ先にやってきたボールを左手でかき出すように止めた。相手は左利き。佐田は「自分が信じたコースに跳ぶだけ。(予測が)当たって良かったという気持ちが強い。今日は、相手が利き足の威力が出やすい方に振り抜いて来ていた」と振り返った。2点差となり、勝利をほぼ手中に収めた。ところが、味方のキッカーは4本目、5本目と連続でミス。まさかのサドンデス突入を迎えた。

 ピッチには、一度つかんだチャンスを逃したツケが回ってきそうな、嫌な空気が漂っていた。新潟明訓サイドは生き返ったかのように勢いを取り戻そうとしていた。しかし、佐田は再び左に跳んでセーブ。相手の気持ちをへし折るようなシュートストップで「もう1回流れを引き戻せればと思った」という言葉を現実の物にした。佐田は味方のキッカーがペナルティスポットに向かう時、必ずボールを渡しに行って声をかける。3回戦の新潟産業大附高との試合でPK戦になったときから自然と行うようになったという。後攻の加茂暁星は、1年生キッカーの村岡志信が決めれば勝利が決まる。「みんな、もう疲労していたと思う。でも、ただ一蹴りにすべてを込めて蹴ってくれと思いを込めた。『この一蹴りにかけてくれ、頼んだぞ』と声をかけた」という佐田の願掛けを受けた村岡が見事にシュートを決め、10年ぶりとなる4強進出に導いた。

 倉茂俊介監督も「3本止めた、いや止めたのは2本でしたか。でも、GKで勝ったという試合でしょう」と手放しで称えるほどの活躍を見せた佐田には、そのセーブ力を物語る面白いエピソードがある。夏合宿の際、失敗したキッカーが宿舎までの約4kmを走って帰らなければならないというルールのPK戦が行われた。当然、本来はバスに乗って帰る道であり、練習後の4km走など誰にとっても受け容れ難い。しかし、1年生MF豊田大河は「20人くらいが蹴って、5人は走ったんじゃないですかね。結構、みんな止められていましたよ」と苦笑いで証言した。かつて味方を容赦なく4キロ走に駆り立てた恐怖の守護神は、誰よりも頼れる存在として仲間を後押ししている。「今日は、相手に押されることは分かっていた。守り切りたいと思っていた。昨季の選手権予選と、今季の総体予選で明訓に0-1で負けていたから、リベンジしたかった。できて良かった」と話した佐田が後ろにいる限り、加茂暁星に怖いものはない。

(取材・文 平野貴也)
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