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[The New Football]Vol.7:スパイク進化の歴史と未来…自分に最適な一足を

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「すべてはアスリートのために」という理念の下、常に革新的なギアを開発してきたアディダスが打ち出した新たなコンセプトが「The New Football」だ。常に一歩先のフットボールを追求する同社の最先端イノベーションは、スパイクやユニフォームだけにとどまらない。その時代のフットボールの潮流を踏まえ、最新のテクノロジーをあらゆる分野に投入。日本を代表するトッププレイヤーから中高生まで、すべてのフットボーラーが最高のパフォーマンスを発揮するために、アディダスは今後もさらなる革新を追い求めていく。今回はアディダス マーケティング事業本部でスパイク開発を担当する山口智久氏に話を聞いた。

―アディダスが掲げる「The New Football」というコンセプトの下、どのような観点からスパイク開発に力を入れているのでしょうか?
「スパイクに限らず、アディダスブランドとしては『すべてはアスリートのために』という創始者アドルフ・ダスラーの理念の下、製品開発を行っています。その時代を生きているアスリートのために何ができるか。そのためには、現代のフットボールにどんな傾向が見られ、その中でプレーする選手はどんな特徴を持っているのかを常に分析し、同時に選手の声を聞く必要があります。

 現代フットボールの特徴として、あらゆるスキルであったり、フィジカルであったり、さまざまな要素を高いレベルで兼ね備えた選手やチームが求められているということが挙げられます。その集合体としてドイツ代表は2014 FIFAワールドカップ ブラジルで見事優勝を成し遂げました。一つひとつの個性を大事にしながら、チームとしての総合力を高めていく。スパイクに関しても、さまざまな個性を掛け合わせ、総合力を高めてモダンフットボールにつなげていくという意味で、プレイヤーのタイプに合わせた4種類のシューズを展開しています。

 近年はボールスキルが得意な選手、豊富な運動量を特長とした選手、スピードが売りの選手など、個性がより細分化されています。“ノーマルなスパイクを万人に”というより、一人ひとりが持っている武器や個性に合わせ、各選手がパフォーマンスを最大限に発揮できるようなスパイクを提供したいと考えています」

―いつごろから現在の4種類になったのですか?
「1980年代には、現在も続いている『コパ ムンディアル』というシリーズがアディダスを代表するスパイクとして一時代を築いていました。その後、1990 FIFAワールドカップ イタリアにおいて、大会全体でゴール数が少なかったために、FIFAからスポンサーであるアディダスに対し、『もっとゴールが生まれやすいスパイクを開発してほしい』という依頼がありました。それをきっかけに立ち上がったのが『プレデター』シリーズです。コンセプトは『ゴールを奪うためのスパイク』。スパイクの表面にゴム素材を付けるという斬新な発想から生まれました。時代に合わせたシリーズ化という意味では、これが始まりです。

 そして2000年代に入り、選手個々の個性がより注目されるようになったため、常に新しいものを求める選手、自分がこだわって選び抜いたスパイクをどんな環境でも使いたいという選手に向けて、『f50』シリーズを立ち上げました。より強い個性に特化し、どんな環境でもその個性を発揮できる、かつ一番斬新で、近未来的な力を与えるというのが最初のコンセプトでした」

―『f50』と言えば、現在ではスピードや軽量性というイメージが定着していますが、立ち上げ当初のコンセプトは違ったのですね。
「『f50』が最初に発表されたのは2004年ですが、当時はインソールなどさまざまなパーツを自分で組み合わせるカスタマイズが可能ということで、自分の個性を発揮しやすいスパイクというコンセプトでスタートしました。それが2010 FIFAワールドカップ 南アフリカのころからフットボールの高速化が進み、より目立つ個性的な選手はスピードが武器になっていることが多いという傾向を踏まえ、『f50』シリーズのコンセプトをスピードとし、抜本的にリニューアルさせました。今では『f50』イコール軽量モデル、スピードモデルという印象が強いと思いますが、始まりはそこではありませんでした。

 シリーズとして一番新しいのが『ナイトロチャージ』です。これも近年、インテンシティー、激しさ、運動量が注目されるようになってきた中で、そこに着目し、選手が少しでもたくさん走り回れるような、少しでも疲れを感じづらいような、あるいは足に対する外部からの圧力を少しでも緩和できるようなスパイクをという発想で2013年に立ち上げました」

―先ほど話に出た『プレデター』シリーズも当初のコンセプトからは変わっていますね。
「1990年のイタリア大会でゴール数が少なかったという分析を踏まえ、1994 FIFAワールドカップ アメリカに向け、4年間の歳月をかけて『ゴールを奪うためのスパイク』というコンセプトの下、開発されたのが『プレデター』です。『プレデター』とは『略奪者』という意味ですが、当時は『ゴールを奪う』イコール『どれだけすごいシュートを打てるか』という発想から、パワーとカーブに着目したのです。

 そのコンセプトを転換するきっかけとなったのは、2010年の南アフリカ大会でした。スペイン代表が優勝し、ポゼッションやボールスキルという要素がフットボールのトレンドとなり、パワーだけではゴールを奪うのは難しい。いかにボールを支配し、自由自在にボールを操って、攻撃を仕掛けるか。シュート、パワー、カーブに主眼を置いてきた『プレデター』を見直し、『より完璧なボールコントロール』というコンセプトでリスタートしたのが、2012年に発表した『プレデター リーサルゾーン』になります。パワー、カーブという要素も残しながら、正確なトラップ、ショートパスの精度など、あらゆるボールコントロールにこだわって開発しました」

―もう一つのシリーズである『パティーク11プロ』は日本発進・世界基準モデルということですが。
「世界共通のシリーズとして今挙げた『プレデター』『f50』『ナイトロチャージ』の3タイプを展開する一方で、『コパ ムンディアル』のような定番のクラシックシリーズも続いていて、そのニューモデルが『アディピュア』でした。同時に日本では、海外の選手とは微妙に異なる足型など、日本人のためだけを考えた日本人のためのフィッティングモデルとして『パティーク』シリーズを2000年代前半に立ち上げていました。

 とはいえ、選手も次々と海外に出て勝負してゆく時代になる中、日本の中だけにとどまっていては世界と対等に戦えないというのは、スパイクの世界においても同じではないかと。日本のエッセンスや魂を世界に広げる、世界と融合させることをテーマに、グローバルで展開していた『アディピュア』というフィッティングコンセプトのシューズと、日本のフィッティングモデル『パティーク』を融合させ、日本発進・世界基準のプロダクトという発想で2014年にリニューアルしたのが『パティーク11プロ』です」

―今後、スパイクはどんな進化を遂げていくと考えていますか?
「最近の傾向としておもしろいなと思っているのは、プロの選手であっても、一般の中高生であっても、より見た目を気にするようになってきたところですね。スパイクがいかに自分のモチベーションを高め、自分のマインドを満たしてくれるか。パッと見た瞬間に『これを履きたい』と思う気持ち。もちろん、履いたときのフィッティングが大事であることは言うまでもありませんが、『このスパイクを履きたい』というワクワク感が合わさると、より気持ちが高ぶり、生き生きとしたパフォーマンスにつながるのではないでしょうか。

 昔は真っ黒あるいは真っ白なシューズが一般的で、スパイクとしての個性や、選手の心に訴えかける部分はあまり強くありませんでした。そのため、性能であったり、フィッティングだけが重視される傾向にあったのですが、今ではさまざまな色やデザインのスパイクがあふれています。お店に並んだ数あるスパイクの中から『これを履きたい』と思って選ぶ際のワクワク感は、過去と比べると、圧倒的に高まっています。それをいかに満たすことができるかが、未来におけるスパイクの一つの重要なポイントになるのかなと思っています。

 もちろん、いくら格好良くても、いくら好きなデザインであっても、履いたときに性能が追いついていなければ意味がありません。“心”と“足”の両面を満たすことができるスパイク。デザイン的にも、性能的にも、すべてを満たすスパイク。デザインも機能と紐づいたものであるべきですし、機能の面でもよりワクワクさせるというか、『こんな機能だったら履いてみたい』と心に訴えるような要素が必要です。デザインと機能。その融合がカギになると考えています」

―今の中高生がスパイクを選ぶときに、どんなことを大事にしてもらいたいですか?
「まずはデザインやカラーを見て、自分の好きなスパイクを選んでいると思いますが、いくら自分が心躍るスパイクに出会えたとしても、性能やフィッティングが自分にマッチしていなければ、それは決して良いシューズとは言えません。かといって、履きたいシューズがあるのに、性能が合わないために別のシューズを選ばざるを得ないというのも、プレイヤーにとってはストレスになります。

 自分の選んだスパイクが本当に自分のパフォーマンスを高めてくれるのか、そして足をケガから守ってくれるのか。この2つを絶対条件とした中で、自分にとって心躍る一足を選んでほしいと思います。我々がスパイクを開発する際に気を付けているのはこの2点だけです。一人ひとりが持っている武器や個性を最大限に引き出す、そして選手をケガから守る。この2つの目的でスパイクをつくっています。心躍る一足を履いて、ケガのリスクを抑え、さらに自分のパフォーマンスを最大限に発揮することができる。そんな“相棒”を是非見つけてほしいですね」

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