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[特別インタビュー]スターダムを一気に駆け上がったF東京MF武藤(前編)「“負けず嫌い”が自分の支え」

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 今季、FC東京に加入したMF武藤嘉紀は開幕スタメンを飾ると徐々に頭角を現し始める。そして、リーグ戦で得点を積み重ねて日本代表デビューを果たすと、全国にその名を知らしめることとなった。激動のようなルーキーイヤーを、武藤自身はどのように感じていたのだろうか――。

――ルーキーイヤーの今季は自身にとって大きな変化のあった1年だったと思います。振り返ってみて、どういうシーズンでしたか。
「本当に1年前、FC東京に加入したばかりのときには想像していなかったような状況になっています。その中で、これだけプレーできたのは自分の想像以上だったと思うし、それ以上に充実していたなと思います」

――1年前に想像していたシーズンは、どういうシーズンだったのでしょう。
「まずはFC東京でレギュラーを取ろうとしていました。1年目だから、し烈なレギュラー争いはありますが、まずはそこで勝ちたいという気持ちでした。そういう目標を持っていましたが、開幕スタメンで出場させて頂いて、次はレギュラーに定着できるようにしようと目標が変わり、一つひとつ目標をクリアしていくことで段々、大きな目標を掲げられるようになったと感じています。Jリーグで結果を残すことによって、日本代表という大きな目標が見えてきましたからね。それが一番、今年掲げた目標の中では大きなものでした」

――サッカー選手である以上、日本代表は目標になると思いますが、1年前に現実的に日本代表になると考えられましたか。
「全然、思ってもいませんでしたし、ルーキーイヤーで入れるわけがないと思っていました。もちろん、やるからには日本代表を目指さないといけないと思いますが、どう考えたって1年目に『日本代表になれる?』と聞かれたら、『なれる』とははっきり答えられないですよ。Jリーグで実績を残して、何年後かにそう聞かれたら話は変わりますが、今年、日本代表になれる自信もありませんでしたし、1年前に『日本代表になる』という大きな目標は掲げていませんでした」

――しかし、ハビエル・アギーレ監督の初陣に見事、初招集されました。日本代表まで辿り着いた一番の要因を、自分ではどういう部分だと感じます?
「自分が掲げた目標をクリアしていくごとに自信がついていきましたし、『本当にうまくなりたい』と思い続けた結果だと思います。どれだけ結果が出ても決して満足することがなかったのが、これだけ一気に環境が変わった要因だと感じています」

――劇的に環境が変化したと思いますが、どういうときにそれを実感しますか。
「街で歩いているときに声を掛けて頂いたり、『見ているから頑張ってね。応援しているよ』と言葉を掛けてもらえたりするときに感じます。地元だったら、知り合いとか、地元の人だから声を掛けてもらえるというのがあると思いますが、どこに行っても声を掛けて頂けるようになったので。そうしてもらえるのはサッカー選手としてもうれしいですし、大きく変わったんだなと実感できるときですね」

――プライベートの時間があまりなさそうですね。
「プライベートの時間を取るのは難しくなりましたけど(笑)、サッカー選手でも、活躍できた選手のみがそういう経験ができると思うので、非常にありがたく思っています」

――それだけの人に知られて、「結果を残さないといけない」というプレッシャーもあると思います。
「それは感じています。…本当に、プレッシャーを感じています。プレッシャーが大きくなるにつれて、体のコンディションなどが悪くなってきた時期もありました。でも、そこで『プレッシャーに負けた』と言われたくなかったし、『武藤は期待に応えられない選手だ』と思われるのも嫌だったので、自分の見栄というのを全部捨ててガムシャラに練習に取り組み、プレーするようにしていました」

――いつごろ、プレッシャーを一番感じていましたか。
「代表に呼ばれる前だったり、代表の試合後ですかね。特に代表招集前には、1点取れないだけで記事になっていましたもんね(笑)。もちろん、毎試合ゴールを取れるのがベストですけど、今までは点が取れなくても記事にならなかったのに、1試合取れないだけで見出しになることもありました。ただ、それは注目を浴びているということだから、プレッシャーに負けないで『絶対に結果を出す』という反骨心みたいなものが生まれましたし、そこでプレッシャーに押しつぶされることもありませんでした」

――武藤選手の印象にはありませんでしたが、相当な負けず嫌いですよね。
「だいぶ、負けず嫌いですよ。普段、人には見せませんが、かなりの、負けず嫌い中の負けず嫌いじゃないかなと思います。皆からも言われるので、人にはあまり見せないようにしているんです。相手に気付かれないうちに、陰からスッと勝っちゃうのが自分の良さでもあるんじゃないかなと思いますし、負けず嫌いの心が何とか自分を支えてくれていると思います」

――プレッシャーに押しつぶされることなく、日本代表にも選出されて定着しました。代表を経験して通用した部分、逆に課題に感じた部分を教えてください。
「世界各国の相手と試合をして、すべてのレベルを一段階、二段階上げないといけないと感じました。ドリブルやスピードの面は通用する相手もいましたが、ジャマイカ相手には通用しませんでした。対戦相手によって、通用する部分や通用しない部分があるので、何か一つのレベルを上げるだけではなく、サッカー選手としてのすべての能力を上げないと活躍はできないと感じました。自分は、ただ代表でプレーすることを求めているわけではなく、代表で活躍できるような選手になりたいと思っています。チームの勝利に貢献するのはもちろんですが、個人としても、誰よりも良いパフォーマンスをして、チーム内で大きな存在になれたらと思っているので、すべてのスキルを上げていきたいです」

――かつては憧れの存在だった日本代表は、現在はどういう場所になりましたか。
「もう、憧れとは言ってられない状況になっていますし、先輩後輩は関係なく、日本代表として日の丸を背負っている限り、『ぬるい』プレーなど絶対にできないし、日本を勝利に導くプレーをしないといけません。とにかくチームが勝つために、自分がゴールに絡むプレーを見せることがベストだと思います」

――11月18日のオーストラリア戦前にアギーレ監督は「ベストの11人を使う」と話し、武藤選手は先発出場を果たしました。
「オーストラリア戦ではそうだったかもしれませんが、1試合の出来によってベストの11人は変わってくると思うし、毎試合毎試合がアピール勝負になるはずです。とにかく、レギュラーでいられる保証はどこにもありません。自分は、監督の求めているプレーはこれだ、と言ってもらえるような、期待どおりのプレーを見せた上で、結果を残していくだけです」

――ザッケローニ体制の選手がスタメンの多くを占める中、アギーレ体制で初招集された選手がスタメンに入ることは、希望の星になると思います。
「そうやって期待されることは非常にうれしいですね。それだけ注目されている中、逆に期待に応えられなかったときに恥ずかしい思いをするのは自分なので、プレッシャーを力に変えて、その期待に応えられるような選手にならないといけません」

――1月のアジア杯を戦う日本代表メンバーにも選出されました。アジアの国を相手にどれだけできるか、良いチャレンジの場になると思います。
「日本国民の思いを背負っているので、結果がすべてだと思います。内容も良くしなければいけないと言われるかもしれませんが、とにかく勝つことで得られるものが大きいはずです。何が何でも優勝して、自分が胸を張って『優勝に貢献できた』と言って終われるようにしたいと思っています」

(取材・文 折戸岳彦)

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