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アジアカップに出場する北朝鮮代表の秘密に迫る 独占インタビュー(1):代表戦は楽しむ場ではない

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独占でインタビュー

 2015年1月、オーストラリアで開催されるアジアカップには、予選を勝ち上がった朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)代表が出場する。

 12年11月、北朝鮮はワールドカップ(W杯)・アジア3次予選で敗れた後、1年以上沈黙を続けた。13年のA代表マッチ数は0試合。ところが14年に入り中東遠征、東アジア選手権予選と立て続けに試合を行っている。また、14年、アジア大会では男子が準優勝、来年の年代別W杯予選を兼ねるU-19アジア選手権では2位、U-17アジア選手権で優勝するなど、北朝鮮の若年層の台頭は著しい。

 謎の多い国家と同じく、秘密めいた代表チームは現在どうなっているのか。代表チームに同行する、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)サッカー協会外交担当副書記長として、東アジア地域の各協会との外交を担当している李康弘(リ・ガンホン)氏に話を聞いた。

―アジアカップの目標は?
「ベスト8です。グループステージは厳しい組(グループB:ウズベキスタン・サウジアラビア・中国)に入ったと思います。でもW杯やオリンピックに出ようと思ったら、いずれは強いチームと当たりるわけですから気にしていません」

―対戦相手について、それぞれどんな印象ですか? まずウズベキスタンは?
「ウズベキスタンとは11年のW杯アジア3次予選で対戦していて、強いことは知っていますが、悲観していません。11年はアウェイでの対戦の際に気候の問題でピリピリしたり、日本戦が次に控えていて意識がそちらにばかり向かってしまったという問題がありました。ですが、自分たちの力が劣っているとは思いませんでした。ウズベキスタンは体が大きな選手が多いのですが、対処法は持っています」

―2戦目はサウジアラビアが相手です。
「中近東のチームを警戒しています。と言うのも、中近東のチームはどこもリズムの遅い試合展開を好みます。それが自分たちとはあまり相性が良くありません。ですから、この大会の最初のヤマは、このサウジアラビア戦になるでしょう」

―グループリーグ3戦目は中国ですね。
「中国は13億人も国民がいる大国ですけれど、負けるという気はしていません。なめる気はないのですが、やることをきちんとできれば、ちゃんと勝てると思っています。中国も身長が大きいですし、ちょっと荒っぽいけれど、荒いのには負けませんよ。ただ、少し朝鮮チームはきれいすぎる。プレーにアクがないんです。時間を稼ぐために倒れて起きない、なんてことができない。道徳教育がきつすぎるのかもしれません。『痛くもないのに倒れているのは道徳に反する』という考えなんです。だからファインプレー賞はよくもらいます。イエローカードをもらうな、ファウルをしたら謝って自分のポジションに帰れ、ということが徹底されているから」

―対戦相手の情報はどこで仕入れるのですか?
「インターネットで見ています。共和国では、国外のインターネットに原則として接続できません。資本主義文化の進入を防いでいますから。ですが、サッカー界はFIFAへの申請や登録などにインターネットを使うので、サッカー協会だけはインターネットで海外の情報が見られます。それに世界各国に大使館があるので、テレビ中継などを録画して送ってもらっています。情報戦については、最低限のことはやっていると思っています」

―このアジアカップを楽しめそうですか?
「楽しむということは、僕たちにとってはタブーです。日本選手がピッチに出るときに『サッカーを楽しみます』と言うのを聞いたことがありますが、僕は個人的にどういう意味か理解できない。『楽しむ』という感情は同好会とか個人的な場で得られるものであって、国の代表となってピッチに出る限りは、自分の置かれている立場を考えなければいけないと思います」

―国のために戦うということですね。
「ユニフォームの胸についている旗は国の象徴です。国のためにすべての代表選手が一つになるという精神状態で試合に臨みますし、共和国はその精神力が強いと思いますね。私たちには『一家族・一国家・全家族」』という言葉があります。自分が人民のために、同胞のために戦おうという考え方です。日本で育った在日の選手にも、そんな気持ちがあると思います。自分のプレーが後輩に大きな影響を与えると思いながらプレーしているでしょう。うまさでは日本や韓国にはかなわないかもしれないけれど、それよりもチームで勝利を目指すのです」

―国を挙げてスポーツに力を入れているということですか。
「スポーツの強化は国家プロジェクトなのです。英才教育を国でやる。日本人が考えると全体主義的に思えるかもしれませんが、芸術などのいろいろな面で、子どもを国の宝と考えて、トップクラスの子どもをそのまま国のトップに育成する責任を国が持つのです」

―簡単ではないプロジェクトだと思いますが。
「難しいのですが、くじけられないんです。共和国の底力には自信があります。1945年の解放(太平洋戦争終戦)と53年の(朝鮮戦争)休戦で国土は焼け野原になりましたが、その更地から始まった国は強いと思いますよ。今でも気を抜けない中で生きていかなければならない。位置的にも日本、韓国、中国がすぐ隣にいて、ロシアも近いですから。意固地に思えるかもしれないけれど、我慢ができるという特長は国民性としてありますし、それはスポーツにもつながっていくと思います」

―その中で選手はどんな生活をしているのですか?
「簡単に言えばプロ選手のような生活ですよ。ただ、共和国にはプロという概念はありません。社会主義の中ではスポーツマスター、僕たちの言葉では専門体育人と言います。共和国では17歳でみんな進路を決めます。大学に行ったり、軍に入る人もいれば、スポーツで選ばれた選手はスカウトされて『平壌市体育団』や『4・25体育団』というチームに入っていきます。でもそれでお金が支給されるわけではないので、プロの生活はしていてもプロではありません」

―それは準々決勝に進出した66年のイングランドW杯当時と同じですか?
「そうですね。それに、66年W杯の時は『4・25体育団』に良い選手が集まっていたので、代表チームがずっと合宿しているようなものでした」

―代表チームの招集に関してはどうしているのですか?  海外でプレーしている選手もいます。
「共和国内のチームには『無条件代表』という条件があります。代表チームについてはサッカー協会が全権を持っているのです。例えば、サッカー協会が2か月合宿をするといえば、各チームは2か月間、選手を代表チームに出さなければいけません。合宿はだいたい1か月ぐらいですが。選手が海外でプレーすることになったときには、『代表招集を優先する』という項目を契約書の中に入れています。もし、それで年俸が下がったとしても、選手には納得してもらっています」
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