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[特別座談会]就職活動時期が変わる…体育会学生の在り方を考える(前編)

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 大学生の就職活動の時期が来年度から大きく変わる。16年卒業生を対象に、従来は4月から選考活動が開始されていたものが8月に、企業の広告活動が12月から3月へと変更となる。これまで、サッカーシーズンがオフとなる12月から1月の間に就職活動ができたが、オフの期間に動きをとりづらくなる上、4年生の体育活動繁忙期と就職活動繁忙期が重なるため、より就職活動に時間が割くことが難しくなる状況が予想される。部活を3年生で引退する選手も出てきている中、体育会学生はどのように部活動および就職活動と向き合えばいいのだろうか――。大学体育会学生の在り方を話し合う前編をお届けする。

【座談会参加メンバー】
山田卓也:1974年8月24日生まれ。駒澤大卒業後の97年にV川崎(現東京V)加入。C大阪、横浜FC、鳥栖を経て、10年からアメリカのタンパベイ・ラウディーズでプレー

横山知伸:1985年3月18日生まれ。早稲田大卒業後の08年に川崎F加入。C大阪を経て、14年から大宮でプレー。大学時代には就職活動も行い、証券会社から内定を得る

神田義輝:元Jリーグキャリアサポートセンター。現(株)山愛 スポーツ事業部部長 アスリート・キャリア・デザイナー

丸山和大:(株)Criacao 代表取締役社長。東京都社会人サッカー1部・Criacaoの運営はじめ、大学生・アスリート等のキャリア支援事業等に従事

丸山「就職活動の時期が大きく変わることで体育会学生の部活動に影響が出ることが予想されるます。これまでも部活動と就職活動の両立は難しかったと思いますが、山田さんと横山さんは大学時代に就職とどう向き合っていましたか」

山田「僕は桐蔭学園高からサッカー推薦で駒大に入ったということもあり、サッカーをするのが仕事というわけではありませんが、サッカーを辞めたら大学も辞める状況でした。高校を卒業するときに大学に行くか、プロに行くかという話になっていましたしたが、桐蔭の先輩や同世代の名波(浩)さんや藤田(俊哉)さんなど、有名選手のほとんどが大学へ進学していたんです。時代が今とは違いますが、大学に行くことがプロへの近道という考えもあり、大学へ進学しましたし、一度大学に入ったら4年間はきっちりそこで続けようという思いでした。大学在学中もJクラブから『ウチに来ないか』という誘いがあったので、プロサッカー選手以外の選択肢はあまり考えていませんでしたね」

神田「90年代の代表選手は大卒選手が多かったですよね。相馬直樹さんや齊藤俊秀さん、望月重良さんに大岩剛さん。大学はトップレベルに行くための登竜門でもありました。横山さんは、どういった活動をされていたのでしょうか」

横山「自分は浪人して早稲田大に入ったのですが、当時は『サッカーでは無理だ』と感じていて、『良い企業に就職したい』というのが本音でした。だから、大学3年の夏には就活サイトに登録して、就活をしていました」

山田「一般企業に入りたかったの?」

横山「はい。ただ、入るためには会社のことをあまりに知りませんでした。どういう会社か分からないと就活も始まらないので、まずは情報収集をして、そこから興味のある会社にいる大学OBから話を伺い、その中で自分の考え方を固めて方向性を見つけていましたね。12月や1月は大学サッカーもシーズンオフになって時間が結構あったので、その期間に会社の説明会にも行っていました」

神田「その間、プロサッカー選手というのは、どういう位置付けとして考えていたのですか」

横山「先ほど『サッカーでは無理だと感じていた』と言いましたが、プロサッカー選手になりたい気持ちはもちろんありました。でも、なりたいからといって簡単になれるものではなく、スカウトされなければプロにはなれません。試合でアピールしようという思いはありましたが、サッカーで将来どうするという気持ちはあまりなかったですし、とりあえず就活を頑張っていました。それでも、矛盾しますが、面接で『もし、プロへの道が開けたら(内定や選考を)辞退させて頂きます』という話もしていたんですよ(笑)」

神田「僕は04年に早稲田大を卒業しましたが、『本気でプロを目指しているなら、就活している時点で負けだ』みたいなことを言われていました。横山さんのときに、そういう話はありませんでしたか」

横山「『就活をしていたら、プロは無理だろう』という雰囲気はありましたが、自分は浪人して大学に入ったので、就職浪人はしたくなかったんですよ(笑)。ですから、両方やるしかないと思いましたし、頑張って両立させるしかなかったですね。本気でプロを目指している人は就活はしていませんでしたが、結局スカウトされないこともありました」

神田「就活で練習を抜けることもあったと思いますが、サッカーに影響はありましたか」

横山「練習は全部出ていて、空いた時間を使って就活をしていました。自分は5社ほど受けましたが、今は数十社受ける人もいるみたいなので、部活と就活を両立する難しさもあるかもしれませんね」

山田「すごく多いね。俺は大学のときは就職を考えていなかったけど、今この年齢になって何社も受けるという話を聞くと、当時、就活をしていたら物事の見方がいろいろ変ったかなと思います。いろいろな会社のことを知った上でプロサッカー選手になっていたら、このスポンサーさんにはこういう理念があって、サッカーにも協力してくれているんだという感覚になると思う。スポンサーさんの中の一企業と思うのとでは、捉え方が全然変わりますよね」

神田「サッカー以外の世界をシャットダウンした方が選手としてより高みに近付けるのか、それともいろいろな人の価値観や情報を吸収した方が上に行けるのでしょうか」

山田「サッカーをやり続けて上に行く人がいれば、そうしなくても上に行ける人がいると思います。ただ、長い人生を考えたとき、サッカーだけではないんですよね。その瞬間は『サッカーだけ』と感じるかもしれませんが、サッカー以外のこともできた方がいいし、感じた方がいいと思います」

横山「その人の価値観ですけど、ストイックな姿勢でやり続けられる人はなかなかいないと思います。余力というか、サッカー以外のことにアンテナを張ることも大事だと自分は感じますね」

山田「バランスが大事だよね。『サッカーだけ』と思っていてもイレギュラーなことは起こるし、人間的な幅は狭くなると思うから」

神田「部活動やサッカーから得る学びはビジネスや他の世界でも使えるもので、逆もしかりだと思います。サッカーのピッチ上のことだけを突き詰めるだけではなく、他の世界の一流にも積極的に触れることで、トップレベルに近付ける気がしますよね」

丸山「就職活動の時期が後ろ倒しになることで、不安に感じている学生がいるのも事実ですが、そんな中でも選択肢を持つことが大事で、盲目的に就活だけやる学生や、プロになると決めつけて部活だけをやるのはちょっともったいない気がしますね」

山田「俺は就活をしたことがないので、それがいかに大変かは分からないけど、両立してほしいと思う。不安になるのも分かりますが、大学時代は部活をやりながら、遊びも恋愛もしているはずだから、部活と就活の両立もできると思うし、人材を取る会社側からしても就活のためにサッカーを辞めた学生より、就活もあるけど4年まで部活を続けた選手を採用すると感じます」

横山「自分が4年生のときは6月に教育実習に行って、10月には卒論を書いていたので、その時期に就活が重なっていたら、サッカーとの両立は難しいと感じたかもしれませんが、今、自分が何をすべきかを冷静に考える力を養うのが大事かもしれませんね」

神田「岐路に立たされたときに自信を持って決断できるくらいの自分の軸、価値観を作っていくことが大事ということですね。本気でプロになりたいなら、なおの事、そういう軸が大事になるでしょうね」

山田「サッカーをしているときも常に判断しないといけないけど、判断しないと何も進みません。それは普段の生活の中にもあると思うんですよ。悩むことも多いでしょうが、判断しないといけないスポーツをずっとやってきているのだから、何が正しいのかを就活でも判断していけばいいと思う。『皆がやるから就活をする』という考えなら、サッカーの練習をした方がいいし、たとえ就活で数十社受けたとしても本気で入りたい企業は数社しかないわけですよね。大事な試合と面接が重なったときには、自分でどちらに行くべきかを判断しないといけないと思うので、その瞬間、瞬間で最適な判断を下してほしいと思います」

※後編は1月22日(木)に掲載予定

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