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[Fリーグ]二兎を追った木暮監督が選んだ「パワープレー」という戦術

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 11月中旬、練習中にシュライカー大阪木暮賢一郎監督は選手たちを集めた。リーグ戦では、7連覇中の名古屋オーシャンズが着々と勝ち点を積み重ねており、大阪が1位でレギュラーシーズンを終えてプレーオフ・ファイナルに直接進むことは、現実的ではなくなっていた。

 木暮監督は10月にサテライトから昇格させたFP加藤未渚実をトップチームで起用するなど、少しずつチームの世代交代に踏み切っていた。加えて、主力にケガ人や出場停止の選手が出たことで、チームの得点力は低下していた。16節の名古屋戦から21節のすみだ戦までの計6試合で挙げたゴール数は14。点を取り合った19節の神戸戦(6-4)を除けば、5試合でわずか8ゴールだ。この状況を変えるために、木暮監督は試合の流れの中でパワープレーを導入することを決める。

 多くの場合、パワープレーは試合終盤にリードされているチームが一発逆転を狙い、FPにGKのユニフォームを着せて5人で攻める戦術だ。2012年のW杯で日本代表がこの戦術を用いて、ポルトガル代表と引き分けた試合を覚えている人も多いだろう。しかし、木暮監督は、試合の流れの中で足元の技術に長けたGK宮竹晴紀を攻撃に参加させるパワープレーを取り入れることにした。

「パワープレーっていうのは、最後(で使うとき)もそうだけど、(守っている側は)集中が切れやすいうえに、油断したらやられるから意外と疲れる。相手は一度切れた集中力、たとえば、『またディフェンスか』『またパワープレーか』となり、自分たちのスピーディーな攻撃ができなくなる。一度切れた集中を、1試合の40分の中で立て直すことはすごく難しい。それは試合中にミスをして、そのゲームの中で気持ちを切り替えるのと同じようなもの。その一方で、こちらは自分たちから仕掛けているから、リズムをつくりやすい」と、木暮監督はパワープレーをするメリットを挙げた。

 経験の浅い若手は、なかなかゲームを組み立てられない。一度、相手につかまれた試合の流れを、パワープレーという戦術を用いることで補う狙いがあった。ただし、これを選手たちに実行させるには、動機づけが必要だとも感じていた。上記のようにパワープレーのメリットを話した木暮監督は、同時に「決してモチベーションが上がるような戦術ではない」ことも認めている。

 ここで用いようとしたパワープレーは、アグレッシブにゴールを目指す積極的な攻撃というよりも、相手の出方をうかがった慎重な攻撃であり、流れを引き戻すことを主眼に置いているからだ。「選手がそれを受け入れてやるためには、動機がないといけない。理由がないと選手はやらない。なんのためにやるかを、しっかり説明しないといけない。そうじゃないとチームは壊れる」。そこで11月中旬の練習中に、木暮監督は選手を集めて「プレーオフ・ファイナルの2連戦で名古屋に勝つためにパワープレーを取り入れる」と説明した。

 Fリーグのプレーオフは、独特の方法で行われる。リーグ戦を首位で終えたチームは、上位5チームが勝ち進むプレーオフの決勝戦に進む。そして、残りの4チームによるトーナメントを制したチームと、プレーオフ・ファイナルを戦うのだ。しかも、その際には1勝のアドバンテージが与えられており、レギュラーリーグを2位から5位で終えたチームは、プレーオフ・ファイナルで2連勝しなければならない。昨シーズンは、バサジィ大分がプレーオフ・ファイナルに勝ち進み、第1戦では名古屋を7-6で破った。しかし、初戦にすべてを出し切った大分は、第2戦で0-7と大敗を喫している。リーグ唯一のプロクラブであり、他のクラブより遥かに恵まれている環境でチームづくりを進める名古屋と、真っ向勝負を挑んでリーグタイトルを獲得するのは、現実的でないと表現しても過言ではない。

 直近の試合における勝利を目指すためだけではなく、リーグ優勝を争う一戦での不可欠な武器とするためのトレーニングを兼ねる。2つの目的があったパワープレーに、選手たちは真摯に取り組んだ。外部から「時間稼ぎの戦術」「エンターテインメント性を損ねる」といった批判を浴びても、チームはブレることなく、木暮監督の選んだ道を突き進んだ。

 木暮監督が、これだけ勝利にこだわるのには理由がある。若くして日本代表に選ばれ続け、日本代表のエースとなり、スペインリーグでプロとしても活躍した木暮は、厳しい舞台に立ってこそ、選手たちの成長につながると確信している。

「いくら面白いフットサルをしたとしても、プレーオフに出る、出ないでは、選手たちが得られる経験値が違う。最終節の町田戦やプレーオフには、シーズンの序盤に出ていなかった若い選手が5人くらいメンバーに入っている。彼らがプレーオフの舞台に立つか、立たないかでは、今後が全然違ってくる。かっこよく言うと、オレは両方を取りに行った。若手の育成と勝利。その両方を取りに行った。その中で、どのやり方が一番取りに行けるか。現実的な采配を考えたときが、このやり方だった。優勝を諦めて、若手を育てるっていうのは、オレはまったく意味がないと思っている」

 この取り組みは、ここまでのところ最高の成果を収めたといえるだろう。21日に行われたFリーグ2014/2015プレーオフ2回戦で大阪は浦安を2-1で下して、プレーオフ・ファイナルに勝ち進んだ。先制点を決めたのは、1月から起用していたFP田村友貴であり、決勝点をアシストしたのは加藤だった。

 若手が成長を見せ、2位以内を決めた大阪だが、シーズン最後の決戦に向けて、選手たちのモチベーションは高い。キャプテンのFP佐藤亮は「1年間、ここを見据えてやってきた。パワープレー対策も、いろいろな相手と対戦して、どういう形で守られてもできるという手応えを感じています」と、自信をみなぎらせる。

 プレーオフ・ファイナル進出を決めた試合後の会見、秘策の有無を問われた木暮監督は、最初に笑いながら「今から考えます」と言ったが、本音は最後に漏らした「あったとしても、今は言えません」だろう。綿密な計画を立てながらシーズンを戦ってきたルーキー指揮官が、どのようなプランを持っていたかは、28日の14時にキックオフを迎えるゲームで明らかになる。

(取材・文 河合拓)


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