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感謝を胸にドイツへ旅立つFW武藤「この1年半があったからこそ、今の自分がある」

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[6.27 J1第1ステージ第17節 F東京3-2清水 味スタ]

 慣れ親しんだ味の素スタジアムに足を踏み入れたときから、グッとくる思いがあった。FC東京のFW武藤嘉紀は、試合前の様子を振り返る。「スタジアムに入るときから、(試合に向けて)準備しているときも、一つひとつのことをしながら『これが最後なんだな』と考えていました」。選手入場のときには、スタンドに『14』、『MUTO』、そしてF東京のロゴのコレオグラフィーが浮かびあがった。「(コレオグラフィーは)見えました。それに携わってくれた人、スタッフの方々が、これ以上ない雰囲気をつくってくれました」と、感謝する。

 F東京の一員としてのラストマッチ。武藤はゴール、そして勝利を目指し続けた。自然体で試合に臨んだつもりだったが、この試合に賭ける想いが強かったことに、自分の体に起きた『異常』で気付いた。「いつもより力んでいたのかわかりませんが、後半の初めに足をつるっていう、初めての感覚に襲われていました」と試合後に明かした。

 それでも1-1で迎えた後半15分、MF梶山陽平、FW前田遼一とつながったパスを受けると、ドリブルでボールを運んだ。複数のDFを引き付けておき、相手選手の股下を通すパスを送る。これを受けたFW前田遼一が勝ち越しゴールを決めた。

 アシストシーンでは冷静だった。「自分の裏だったりを、(清水は)ケアしていました。あそこで(シュートを)打っても、DFに当たっていたと思います。切り返して、相手が突っ込んで来て股(下のパスコース)が見えました。本当に良い形がつくれたと思います」と、納得のアシストを回想した。

 武藤は、このアシストがF東京の来シーズンにつながると信じている。「得点が一番欲しかったですけど、遼一さんにアシストできたのは、非常に嬉しかったです。遼一さん自身、結果が出なくて悩んだ時期もあったと思います。自分も、FC東京に入った序盤、点が取れなくてすごく苦しい想いをしていたので。今日、ああやって2点取って、FC東京のFWとして、遼一さんが今後も活躍してくれると思う。今日はその始まりになるアシストができて良かったな、嬉しいなと思います」。

 試合後のセレモニーには、『泣かない』と決めて臨んでいたという。しかし、オーロラビジョンに映し出されたムービーを見て、涙腺は決壊した。「あまり人前で泣いたことはないのですが、今日に関してはちょっと」と苦笑した武藤は、「やっぱり、ユースのときの映像だったりを見て、本当にFC東京にお世話になったので。その感謝の気持ちを考えていたら、涙が止まらなくなってしまいました」と、その理由を説明した。

 トップチームで過ごした期間は、わずか1年半だった。その期間を武藤は「あっという間でした」と話す。

「あっという間でした。でも、この1年半があったからこそ、今の自分があると思います。そこに携わってくれた人、応援してくれた方々のおかげだと思うので、その人たちのためにも、ドイツ、日本代表で活躍している姿、元気な姿を見せていきたいと思います」

 感謝の気持ちと強い決意を胸に、武藤はドイツで新たな挑戦に出る。

(取材・文 河合拓)

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