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「初心」で新天地へ…酒井高徳インタビュー「篤人くんはお兄さんみたいな存在」

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 今シーズン、シュツットガルトからハンブルガーSVへ完全移籍した日本代表DF酒井高徳。昨季は最終節まで熾烈な残留争いに巻き込まれ、自分自身も出場機会を失うなど、苦しい1年となった。アルベルト・ザッケローニからハビエル・アギーレ、そしてバヒド・ハリルホジッチへとバトンをつなぐ日本代表においても、サイドバックの競争は激化の一途をたどっている。ドイツでの5シーズン目を前にした酒井高徳の胸中は――? ゲキサカが直撃インタビューした。

苦しんだシーズン
立ち返った初心


―昨季は厳しい残留争いでしたが、ラスト3試合に3連勝して劇的な1部残留を決めました。
「チームとしては良かったり悪かったりの繰り返しで、最後の最後まで安定しなかったですね。ここで勝ち点を取れたらというところで取れなかったり、勝ち切らないといけないところで引き分けたり、そういう試合が多かった印象が強いです。勝ち切ることの大事さは今回の経験であらためて感じました」

―第3者から見ていると、奇跡的な残留のようにも思えました。
「奇跡でしたよね。終盤の対戦相手にも恵まれましたし、一方で残留を争うライバルの対戦相手は強敵が多かったという点でも恵まれていました。最後の3試合で3連勝しましたが、連勝はこのときが初めてでした。終盤は直接対決で勝てば順位が逆転できる相手が続いたので、本当に恵まれた奇跡だったかなと思います」

―酒井選手自身、シーズン最後の9試合は出場機会がありませんでした。しかし、チームには勝ってほしい。複雑な心境だったのではないですか?
「試合に出たいというのはもちろんありました。でも、僕が出なくてチームの結果が出たわけでもなかったので、本当にチームとして難しい状況なんだなと思いましたね。そういうときに選手がふてくされるというのはよくある話ですが、いかにそうならずに、チームの和を乱すことなく、しっかり練習するか。交代で入ったらどういうプレーでチームに貢献するか。常にそういうことを考えていました。

 残留争いでは一体感やチーム力が大事になりますが、そういうチームのまとまりをラスト3試合から5試合は選手全員が感じていたと思います。チームをしっかり支えるというか、サブの選手もちゃんと準備ができているんだぞという状況をつくれたことが、チームにも良い影響を与えていたのかなと思います」

―結果的に最後の出場となったレバークーゼン戦で酒井選手は失点に絡み、後半途中で交代。チームも0-4で敗れました。
「ディフェンダーとして、失点に絡んでしまったら良い印象を与えられないのは確かです。1点ならともかく、2点、3点と絡んでしまったので……。(試合途中で)代えられるかなというのは、自分でも覚悟していました。ただ、自分をかばうわけではないですけど、『(失点に絡むような大きなミスは)あの1試合だけだった』と自分では思っています。

 残留争いをしているとき、チームに一番必要なのは良い流れ、良い空気を入れることです。あの時点で言えば、少し自分が悪い流れをつくっていたのかなと思いますし、そこを変えることでチームが良くなるという監督の判断だったと思います。これは僕に限らず、その後もいろんな選手が同じようなことを経験しました。チームが苦しいときは、選手をとっかえひっかえしないといけない時期もあります。そういう意味では、自分なりに受け入れていましたし、またチャンスが戻ってくる可能性も高いと思っていました。そのための準備をしっかりしておこうと思っていましたし、(先発落ちの)きっかけをつくったのは自分の責任なので、もう一度信頼を取り戻せるように練習からがんばっていこうと考えていました」

―ドイツに渡って4シーズン目でしたが、最も苦しいシーズンだったのではないですか?
「本当にそうだと思いますよ。チームが不調の中で、自分自身もどこか乗り切れないな、乗ってこないなというのを感じることもありました。どんなチーム状況であっても、自分のプレーをしっかり出すというのは昨シーズンで出た新たな課題だと思います。これまであまりそういう経験をしてこなかったので、自分では良い経験になったかなと思っています」

―新シーズンに向けての思いはいかがでしょうか?
「まずは同じ失敗を繰り返さないということですね。初心に戻るといいますか、試合に出場するために自分がどういう行動を取るべきか。日頃の生活やトレーニング態度、試合に対する準備。そういうことに重点を置いてやっていこうと思っています。それができてなかったわけではないですが、自分がこういう状況に陥ったということはいろいろなことを変えないといけないと思いますし、初心に帰って自分自身の考え方、プレーを変えていきたいと思っています」

ハリルホジッチ監督は
「当たり前の規律しか言わない」


―昨年のブラジルW杯では出番がありませんでしたが、アギーレ監督の下では全試合に出場し、今年1月のアジア杯にもフルタイム出場しました。日本代表のレギュラーとしてプレーした半年間にはどんな意味がありましたか?
「日本代表で自分のプレーを出すという部分では、徐々に慣れも出てきて、自分らしさを表現できるようになったと思っています。そういうプレーを代表で出すことによって、周りからも『よくなったな』とか、いろんな声をもらって、代表に対する自信も付きました。でも結局、その時期しか代表では試合に出られていないという現状もあります。たくさんのライバルがいますが、ずっと代表で試合に出続けるということを意識したいですね。あの半年間は通過点であって、自分の中では大した成績にもなっていないと思うので、もっともっとというのが正直な気持ちです」

―アギーレ監督のあとを継いだハリルホジッチ監督はどんな監督ですか?
「規律に厳しい監督ですが、それは決して悪い意味ではないです。サッカーの部分でも、サッカー以外の部分でも、チームが勝つために必要な規律しかありません。一般的に規律に厳しいとされる監督の話を聞くと、理不尽なことが多かったりしますが、ハリルホジッチ監督にはまったくそういうことはないですね。チームに必要なこと、当たり前の規律しか言わないので、納得できるというか、素直に受け入れられます。

 メディアの方もよく聞いていると思いますが、『試合に出てない選手が100%のコンディションになるわけがない』という言葉も、本当にそのとおりだと思います。日本の力になれる選手が試合に出るという優先順位には僕も納得しています。6月の試合に出られず、周りからは『残念だったね』と言われましたが、自分はクラブで試合に出ていなかったですし、そういう選手が代表の試合に出る資格はないのかなとも思っていました。もちろん、試合に出るための準備は100%やっていましたが、そういう意味でハリルホジッチ監督は全員に平等というか、チーム全体をうまくまとめてくれる人かなと感じています」

―ミーティングの回数も多く、話も長いそうですね。
「本人はいつも『話し過ぎないから』『すぐ終わるから』と言ってますけど、僕らは『全然、すぐじゃないじゃん』って(笑)。最近は毎度のことなので、『すぐ終わるから』と言われても『どうせすぐじゃないんだろうな』と思って聞いています。もう慣れましたね(笑)」

―サイドバックの争いも熾烈ですね。
「それぞれ個性のあるサイドバックばかりだと思います。一人ひとりが良いものを持っていますが、自分にも代表で長くやってきた自信があります。自分はこういう選手だというものも持っているつもりですし、それを代表で出せる自信もあります。だれにも負けないという気持ちでやっています。同時に各選手が良いものを持っているので、それは見て盗みたいとも思っています。いろんなサイドバックの選手から『こういうのも必要なんだな』というヒントや材料をもらっているので、ライバルでもありますが、それぞれが先生みたいなところもありますね。いずれにしても、良い競争ができていると思います」

―だれのどんなところを見て盗もうと思うのですか?
「先日の代表戦で言えば、(酒井)宏樹はクロスの精度が高いですし、対人の強さもあります。(太田)宏介くんも良いクロスを持っているので、練習中からどういうふうに蹴っているのか聞いたりしますし、クロスを上げるタイミングや位置、どういう質のボールを上げているのかを見ると、本当にすごく参考になります。(長友)佑都くんはずっと一緒にやってきていますし、オーバーラップのタイミングや、後ろでどういうふうにサポートしているかといった守備のポジショニングは注意深く見ています」

「篤人くんは良い手本、
お兄さんみたいな存在」


―最近はケガで代表に呼ばれていませんが、内田篤人選手は酒井選手にとってどんな存在ですか? 内田選手は酒井選手のことをとても可愛がっているようですね。
「気に入ってもらえているのかなと思いますね(笑)。大好きな先輩です。もちろんサッカーの部分もそうですが、私生活でも代表合宿でも、一緒にいる時間が長いですね。(日本代表の食事会場で)ご飯を食べるときも隣りに座ることが多いですし、仲良くしてもらっています。

 今、思い返してみると、サイドバックのことで気になったことは毎回、篤人くんに聞いていましたね。聞きやすいというか、ああ見えて意外にお兄さん肌みたいなところがあるんですよ(笑)。『こういうときはどうしているんですか?』と聞くと、それこそ言葉足らずですけど、『そんなの感覚だよ』とか、『お前、できてるじゃん、それ』とか、さらっと言ってくれるんです。細かく言われ過ぎると、逆に伝わりにくかったりする中、受け取りやすいというか……。篤人くんはサッカーでも私生活でも、良い手本、お兄さんみたいな存在ですね。本人がどう思っているかは分からないですけど、僕は慕っていますよ、すごく」

―とはいえ、結婚では先輩ですね。
「そうですね。それに関しては自分に聞いてくれと(笑)。でも、篤人くんは自分の形はこれだっていうのをしっかり持っている人なので、僕に何かを聞くとか、そういうことはないと思いますね。『それはお前だろ。俺はこうだから』っていう感じですから(笑)」

―2010年の南アフリカW杯はサポートメンバー。昨年のブラジルW杯はメンバーに入りながら出場機会がありませんでした。ロシアW杯こそは、という気持ちも強いのではないですか?
「今後どうなっていくか、まだまだ分からないと思いますが、常に自分というものをしっかり持ちながら、代表に残っていきたいですし、所属チームでしっかり試合に出ることで代表でも出られるようになれば、ロシアへの道は自然と開けてくるのかなと思います。ロシアのころには僕らの年代が中心になっていないといけないと思っていますし、下の世代からの突き上げもどんどん出てきて、それはそれで日本にとっては良いことですが、僕らには僕らなりのプライドがあります。僕らの世代が代表の中心になっていかないといけないという気持ちは強いですし、それに向かって、まずは目の前の1年1年を勝負していきたいと思います」

―ところでアディダスの新しいスパイク「X」の履き心地はいかがですか?
「すごく良いですよ。非常に軽いですし、足に吸い付く感じが好きですね。軽さは自分も必要としているので。履き口部分がしっかり足首を包み込んでくれて、フィット感があります。素材も柔らかいので、足の負担にならず、かつしっかりサポートしてくれている感覚がありますね」

(取材・文 西山紘平)

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