[8.4 全国高校総体2回戦 関東一高 3-2 清水桜が丘高 総合グラウンド]

「2人ともメッチャ萎えてました」とキャプテンの鈴木隼平が笑う。初めて全国で2勝目を挙げた関東一高。前半だけで2ゴールを挙げた岡崎仁太朗と、持ち味のテクニックを発揮しつつも後半の終盤まで走り切った道願翼。この日の勝利の立役者と言っていい2人こそが、昨日の試合後に“メッチャ萎えていた”張本人だった。

　東京王者として8年ぶりに全国へ乗り込んできた関東一。前日3日の初戦は山形県代表の羽黒高を相手に、一旦は追い付かれながらも岡崎のゴールなどで2点を追加し、やはり8年ぶりの全国勝利をもぎ取った。ところが、試合後に小野貴裕監督は2人の選手を個別に呼び出す。1人は「自分が1点取ったみたいな顔をしていた」岡崎。もう1人は「自分は頑張っているみたいな顔をしていた」道願。「あの2人が変わらなかったら、このチームの成長はない」と感じている小野監督は、他の選手が取材を受けているタイミングで、喜びの渦中にあった岡崎と道願に強烈なカミナリを落とす。「みんな褒められている中で俺と仁太朗だけ相当怒られました」とは道願。しかも鈴木隼平が明かすには「『道願呼ばれてるぞ』と言われたから、アイツは取材だと思って出てきたのに、実際呼んでいたのは監督で、しかも怒られて帰ってきたので、オレらは大爆笑でした」とのこと。道願の心中は察して余りある。

　小野監督はこの夜、ミーティングに立ち会わなかった。選手たちだけのミーティング。2人は何とか切り替えようと振る舞っていたようだ。「みんなには『問題ないよ。やろう、やろう』と言っていましたけど、2人ともたぶん相当1人で苦しんだんだろうなと思います」と守護神の円谷亮介が話せば、「岡崎とは同じ部屋だったんですけど『愛のむち』ということで受け入れようとしていました」と鈴木隼平。『愛のむち』をどう受け止めるか。2人のメンタルが試される。

　夜が明ける。「自分なりに昨日よく考えて、自分の中で自分の言葉に変えて消化しました」という道願と「『生まれ変わってこい』と昨日言われたので、心を入れ替えました」という岡崎。2人は葛藤を抱えながらも懸命に切り替えてみせた。「本当にダメになるとあの2人は殻にこもっちゃうんですけど、いつも通りみんなとギャグも交えて明るくやっていたので『ああ、もう大丈夫だな』と思いました」と円谷は、その“切り替え”を確信した。

　試合での活躍は冒頭の通りだ。「『なかなか強気になれていない』というのはずっと言われていたので、今日は強気を貫きました」という岡崎は、開始8分で先制弾を叩き出すと、流れが悪くなり掛けた28分にも追加点を奪い、チームに落ち着きをもたらす。ボランチでスタートし、途中からサイドハーフに移った道願は、「自分がああやって守備することでチームの雰囲気も良くなるし、守備もしっかり頑張ってやりました」とディフェンスにも奔走する。後半の終盤にはサイドで相手のクリアを3回続けて体でブロックするなど、いつも以上にピッチで闘い続けた。守備面での奮闘に言及すると、「自分の持ち味はそこじゃないんですけど」と技巧派レフティの矜持を覗かせながら、「そういう風に言われると嬉しいです」と小さく笑った。

「道願と岡崎は殺しましたから(笑)」と物騒な物言いで笑いを誘った小野監督も、「相当昨日の夜は2人とも頑張ったと思いますけど、今日こうやって2人が活躍してくれたから本当に良かったです」と意図的に“殺した”2人のパフォーマンスに納得の表情を浮かべる。3回戦で対峙するのは前回大会準優勝の大津。2人の年代別代表選手を抱えるなど、相手にとって不足はない。「相手にビビったりしないで、個人的にはもっと自分の良いプレーをたくさん出して、チームの勝利に貢献できたらいいなと思います」と話した道願は「明日は燃えるだけだと思うので楽しみです」と静かに闘志を漲らせる。「個人的には2点取れましたし、悪くはなかったかなと思います。心を入れ替えた成果だと思いたいですね」と苦笑いを浮かべた岡崎も、大会屈指のCB野田裕喜との対戦に、「楽しみですし、スピードでビックリさせたいですね」と意欲を見せる。「ビックリさせる自信はあるでしょ?」との問いに、「ビックリさせられ…」と言い掛けながら、「させます!強気で行きます!(笑)」と何とか強気の姿勢を貫いた。「自分たちはもう大津とやりたくてしょうがないんですよ」と言い切ったのは鈴木隼平。同校初のベスト8へ。“メッチャ萎えていた”自分を過去に追いやった2人が、関東一の命運を握っている。

[写真]関東一は“メッチャ萎えていた”1人、岡崎が2得点の活躍。(写真協力『高校サッカー年鑑』)

(取材・文　土屋雅史)

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