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恩返し誓う愛媛FW瀬沼「駒でもピースでも何でもいい」

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[8.23 J2第30節 東京V0-1愛媛 味スタ]

 一瞬、一秒を大事に、ピッチへ立てることを誰よりも尊んでプレーしている。愛媛FCFW瀬沼優司は「一つ一つ試合に出られる喜びを感じながら、出し切ってやろうという気持ちで。倒れるまで戦うという意識で臨んでいます」と並々ならぬ思いを語った。プロ入り後3年間の悔しさが瀬沼を駆り立てている。

 2012シーズンに筑波大から清水エスパルスへ加入。即戦力として期待されたストライカーだったが、ルーキーイヤーは3試合1得点に留まり、続く2013シーズンも9戦0得点だった。当時について瀬沼は「最初にイメージしていたのは、入ってすぐに試合で結果を残して、スタメンを脅かせるようにと思っていたが、思い通りにいかなかった。悔しさしかなかったです」と振り返る。

 2014年には出場機会を求め、栃木へ期限付き移籍。25戦7発と結果を残すと、8月には清水に復帰した。しかし残留争いを戦うチームで戦力にはなれず。わずか2試合の出場となり、スタンドから見守る日々が続いた。

 空虚な日々を過ごした昨季終盤について、瀬沼は「ずっとスタンドからピッチを見ながら、チームへ感謝の気持ちがあるなかで、なんで俺は……なんでチームの力になれないんだろうという思いを噛み締めながら上から見ていました」と話す。

「チームのために全力で走りたいし、戦いたいのに、その力になれない自分がいて。それがすごく歯がゆくて……」

 だからこそ、「自分を必要としてくれて、試合に絡める可能性が高いチームに移籍したい」と、2015シーズンからは愛媛へ期限付き移籍を果たした。そして迎えた今季は試合に出られる喜びを感じながら「足が動かなくなるまでやってやろう」という心意気でプレーすると、開幕から全30試合に出場し、チーム2位タイの5得点を挙げている。

 ピッチ上では得点だけでなく、守備での奮闘も光る。前線から果敢なプレッシングをみせ、必死にボールへ足を伸ばす。この日の東京V戦は不発に終わり、連発はならなかったが「もちろん前の選手なので結果でチームに貢献して、楽な展開に出くればよかったですが、一人ひとりのポジションで守備の役割もありますし、それを全員がつないで責任感をもってやれたことが結果につながったと思います。点を取れなかったことは反省ですが、次につながる試合でした」と語った。

 試合に出られない時間が長かった分、ピッチに立つことの尊さをひしひしと感じている。そして何よりも、その機会を与えてくれた愛媛というクラブへ感謝の思いが強い。

「思い通りにはいかなかったですが、今はこうして試合ができる。愛媛で試合に絡ませていただけるチャンスを与えていただくなかで、しっかり自分の役割を果たしたいという思いもあります」

「恩返しじゃないですが、こういう機会を与えてくれたチームが少しでもいい方向へいけるように、自分は駒でもピースでも何でもいいので役に立てるように。全力でプレーしたい」。丁寧に丁寧に言葉を紡いだ瀬沼は、愛媛への貢献を静かに誓った。

(取材・文 片岡涼)

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