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[選手権予選]十条から世界へ。東京朝鮮高FWリャン・ヒョンジュが挑む未知との遭遇

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[9.23 全国高校選手権東京都Bブロック準々決勝 東京朝鮮高 5-1 日野台高 東久留米総合高G]

 自身2点目のゴールについて尋ねると、少し間があって「どんなゴールでしたっけ?」と苦笑いを浮かべる。すぐに思い出せないのは無理もない。この日の彼が相手ゴールに叩き込んだのは、ハットトリックプラスワンの4得点。簡単なゴールへの流れを聞いてからは、淀みなく2点目を振り返ってくれた彼の名はリャン・ヒョンジュ。来月にU-17W杯チリ2015の出場を控えている東京朝鮮高のエースストライカーである。

 Aブロック、Bブロック共にベスト8が出揃った東京の高校選手権予選。7試合の準々決勝は10月に開催される中で、9月23日に1試合だけ行われたのが東京朝鮮と都立勢の日野台高が激突するカード。前述したように東京朝鮮の2年生ストライカーであるリャン・ヒョンジュは、チリで行われるU-17W杯チリ2015に臨む北朝鮮代表に選出されており、その大会期間と準々決勝の日程が重なってしまうため、異例の1試合前倒しという措置が認められたのだ。

 初戦の駿台学園戦でも1ゴールを決めてチームの勝利に貢献したリャン・ヒョンジュは、東京高校サッカー界の聖地として知られる西が丘を懸けたこの日の準々決勝でも大爆発。開始5分でGKとの1対1を確実に沈めると、35分にはリ・キョンチョルの好アシストで2点目を記録。さらに圧巻は後半25分。左サイドでボールを受けると、マーカーをハンドオフで弾き飛ばしながら、中に少し潜って右足一閃。綺麗な弧を描いたシュートはゴール右スミに突き刺さる。「カットインからのシュートが結構入らなくて、夏休みからずっと蹴り込んでいたので、練習の成果が出て良かったと思います」というゴラッソには場内からも大きなどよめきが。32分にもダメ押しの自身4点目を奪い、5-1という快勝を呼び込んだ。

 一気に自らのレベルを一段階押し上げた感のあるリャン・ヒョンジュは、6月に2つの転機を迎えていた。1つは総体予選準決勝。結果的に全国4強まで駆け上がる関東一高とのゲームは、時には3人がかりでマークに来る相手を引き剥がせずに1-2で惜敗。「そこで何もできなかった自分が悔しくて、3人でも突破できる強さを磨かないといけないというのを意識しながらやってきました」と意識の変化を口にする。もう1つは総体予選敗退後に行われた在日朝鮮青年学生サッカー代表団の平壌遠征。ここで現地チームと対戦した4つの親善試合すべてでゴールを記録し、年代別代表チームとの合同練習にも参加。「『自分がどれだけできるかな』という気持ちで行ったら、自分のストロングポイントであるドリブルや決定力というのは通じたので、それが自信になりました」と振り返ったように確かな手応えを掴み、そこでの活躍が結果的にU-17W杯の代表選出へと繋がった。

 東京朝鮮のキャプテンを務めるキム・ファンジも「ゴールを決めても浮かれない所が凄いと思います。アイツは向上心をずっと持って努力するヤツなので、そういう所は後輩ですけど尊敬できます」と認めた通り、この日の活躍について問われても「4得点決められたことは嬉しいですけど、まだまだたくさん課題があると思いますし、これから自分はチリに代表として行くので、そこで今日出せた強さや技術の部分をもっと出していきたいと思います」と気を引き締めながら、視線の先にはさらなる上のステージを見据える。「チームを代表していくことになりますし、国を背負うということは凄く大切なことなので、国のために戦うということを意識しながらプレーしたいと思います。自分が今、世界でどれくらいのポジションにいるのかを確かめたいですし、ブラジルやアルゼンチンには自分よりもっと凄いヤツがいると思うので、そういう人たちを見ながら『自分はまだまだだな』と思えることを楽しみにしています」と未知との遭遇に対する期待を語るリャン・ヒョンジュ。十条から世界へ。東京朝鮮と同じ赤きユニフォームを纏ってチリに乗り込む17歳は、世界を驚かせる自信を胸に抱きながら、今はその日の到来を静かに待っている。

[写真]U-17W杯に臨む東京朝鮮FWリャン・ヒョンジュ。(※写真は5月)

(取材・文 土屋雅史)
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