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大宮の未来を信じるMF家長「将来的に日本のトップ5に入れる」

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[11.14 J2第41節 大宮3-2大分 NACK]

 やはり最後は、この男だった。2-2で迎えた後半42分、大宮アルディージャはFWムルジャがボックス内で倒され、PKを獲得した。PKのキッカーを務めたのは、2ゴールを挙げていたムルジャではなく、誰もが認めるチームの大黒柱であるFW家長昭博だった。

 天皇杯のPK戦を含め、今季3度PKを失敗していたムルジャは、試合後のロッカールームで冗談交じりに、「自分は蹴りたくなかったんだ」と家長に明かしたという。家長はペナルティーエリア内で倒れたムルジャが起き上がらないことで、『蹴りたくないんだろうな』と感じ取り、チームメイトからボールを託され、重圧のかかる場面でのキッカーを引き受けた。

 家長が左足で蹴ったボールに対し、大分トリニータのGK武田洋平も反応していた。しかし、ボールはその手の先を抜けてゴールネットを揺らす。「緊張はしていましたし、蹴る前にいろんなことを考えました。自分が蹴らせてもらったので感謝しています」と、重圧を制してJ2優勝を決めるゴールを挙げた41番は振り返った。

 一度はJ2を独走しながら、終盤には失速。ホーム最終戦までJ2優勝だけでなく、自動昇格も決められていなかった。ドラマチックな結末を喜んだ家長だが、その一方で浮かれすぎることはない。

「冷静に考えたら、あれだけ夏に勝ち点差が離れていたところを、これだけ詰められたのは僕たちの弱さだと思う。優勝できて思うのは、独走して優勝すると、僕らも過大評価をしてしまうということ。今の順位表の(2位以下との)勝ち点差が、本当の実力だと思う。僕たちはまだまだ強くないですし、それをあらためて感じられたのはよかったと思う。力の差が僅差の中でも優勝できたのは、よかったと思います」

 今季開幕前、家長はJ2に降格した大宮から移籍するのではないかと言われていた。しかし、最終的にはチームに残留。「良いプレーをしながら、チームを勝たせることを目標に」掲げてシーズンを戦った。そして、J2で格の違いを見せつけ、6月と7月には2カ月連続でJ2の月間MVPにも輝き、チームの初タイトルに大きく貢献した。

 このクラブの良さを問われた家長は、「親会社のデカさですかね。それが一番の強みだと思います」と言うと、続けて大宮に感じている大きな可能性について言及した。

「あとはサポーターの温かさ。浦和の横にいることもそうですね。サッカーが根付いている浦和の横の大宮なので、もっともっと強いチームになれると思います。急にビッグクラブになれるとは思いませんが、将来的に日本のトップ5に入れるクラブのキャパはあると思うので、将来、10年後、15年後に、そうなれればいいんじゃないですか」

 ここ数年、J2を制したクラブはJ1でも好成績を残している。しかし、1年で戻るJ1の舞台が、決して簡単ではないと家長は釘を刺す。たとえばこの試合でも、前半から家長は最終ラインの選手たちに急ぎ過ぎるなと声をかけていた。

「攻め合いになっていましたし、何回か攻められたあとに、簡単にボールを奪われて、また攻められることもありました。そこは後ろの選手に『速攻と遅攻を使い分けて』と注文していました。ゲームのコントロールとか、読む力が、うちはまだまだ甘いと思います。J1の上位の試合も見ますが、レベルはまだ2つ、3つくらい違うと思うので、謙虚にまた成長しないといけないと思います」

 もっともっと高い舞台で、もっともっと大きな喜びを味わえるはず。ミックスゾーンで冷静に語る家長は、誰よりも大宮のポテンシャルを感じ取っているのかもしれない。

(取材・文 河合拓)

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