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[新春特別インタビュー]「世界は甘くない」香川真司が抱く手応えと危機感、日本代表の現在地

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 クラブでも、日本代表でも、監督が交代する激動の1年だった。恩師であるユルゲン・クロップが昨季限りでドルトムントを去り、トーマス・トゥヘル新監督の下、2015-16シーズンのスタートを切ったMF香川真司。日本代表でも、準々決勝敗退に終わったアジア杯後、ハビエル・アギーレ前監督が退任し、バヒド・ハリルホジッチ新監督が就任した。香川真司がクラブで感じる手応え、代表で覚える危機感とは――? 日本の背番号10が2015年を振り返り、2016年の展望を描く独占インタビュー。

―2015年はクラブでも日本代表でも監督交代という大きな変化があった1年でした。
「2015年を振り返ってみると、アジア杯から始まって、すごく悔しい思いをしましたが、自分の中では手応えも感じながらスタートを切れた1年でした。ブンデスリーガでは昨シーズンの後半戦からチームとして良くなってきている手応えがありましたし、そのフィーリングを持ったまま、今シーズン、新たな監督の下でスタートしました。毎日の練習からすごく意欲的に取り組めていますし、日々、考えながらトレーニングができています。それがしっかり結果にも表れているのかなと思っています」

―具体的にどのあたりに手応えを感じていますか?
「サッカーの考え方など、新しい監督とすごく共感できる部分があって、練習から得るものもたくさんあります。自分自身がしっかり目標を持って日々のトレーニングができているので、だからこそ良い結果が出たり、良いコンディションで試合に臨めたりしているのかなと思います」

―トゥヘル監督と共感する部分というのは?
「ポゼッション志向であることもそうですし、攻撃のところでどうやって崩すのかというアイデアをたくさん持っている監督です。トレーニングもすごく楽しいですし、自分自身、ポゼッション志向のスタイルが好きなので、毎日が刺激的で、楽しいですね」

―チームとして前半戦17試合で47ゴール。これは昨季の全34試合で記録した数字と同じです。香川選手、オーバメヤン選手、マルコ・ロイス選手、ムヒタリアン選手の攻撃陣4人は『ファンタスティック4』とも呼ばれていますね。
「すごくバランスが取れていると思いますね。みんなが自分の役割を把握してプレーできていますし、クオリティーの高い選手が周りを尊重しながら、周りを生かして自分も生きるという意識を共有できています。それは昨シーズンよりも強く感じますね」

―ポジションや役割も変わった中での数字ですが、香川選手自身の4ゴール7アシストという結果についてはいかがですか?
「ポジションが変わって、役割も多少変わった部分はありますが、数字としてはもっと残せたと思います。それぐらいの手応えも、感覚もありました。得点数はこの2倍ぐらいチャンスがあったので、決定力にはもっとこだわらないといけません。アシストの部分でも、よりゴールに近い位置に素晴らしいボールをもっと味方に出していきたいですね。数字に対して満足することはないですし、もっともっと上を目指していきたいと思っています」

―オーバメヤン選手は18ゴールで得点ランキング1位ですね。チームに絶好調のストライカーがいることはどんな意味がありますか?
「自分がそういう選手になることが理想ですが、現時点でそれは難しいですね(笑)。前半戦だけで20ゴール近く取るストライカーがいるというのはチームにとって非常に大きいです。苦しい展開や、ここぞという場面で結果を残してくれるストライカーは強いチームに必要不可欠な存在ですし、そういう選手がいるチームが本当に強いチームだと思います」

―ドルトムントも好調ですが、それでも首位のバイエルンには勝ち点8差を付けられています。
「本当に隙がないというか、毎年毎年、隙のないチームになっている気がします。グアルディオラ監督も今季が最後ということで、よりチームは団結するのではないでしょうか。ほとんどのポジションにワールドクラスの選手がいますし、彼らが勝ち点を取りこぼすことはほとんどありません。自分たちも必死に食らいついていこうと1試合1試合戦っていますが、それでも彼らは勝ち続けてくるので、そのあたりの強さは、やはり今のブンデスリーガでは飛び抜けているのかなと思います」

―ヨーロッパリーグでも決勝トーナメント進出を決めましたが、リバプールやマンチェスター・ユナイテッドなど楽しみなチームが数多く出てきますね。
「よくヨーロッパリーグはそのレベルや質のことを言われますが、今シーズンはチャンピオンズリーグからヨーロッパリーグに下りてきたチームを含め、非常にレベルの高い大会になると感じています。チャンピオンズリーグ同様、高レベルのゲームがたくさんあるのかなと思いますし、そういうレベルの高い試合を経験しながら、少しでも上に行きたいですね。国外のトップクラブの実力を肌で感じながら、来シーズン、今度はチャンピオンズリーグの舞台でどこまで戦えるのか。その物差しにもなると思うので、本当に楽しみです」

―ヨーロッパリーグでプレミアリーグのチームと対戦して、もう一度自分の力を証明したいという気持ちはありますか?
「プレミアリーグはレベルの高い、世界一のリーグと言われていますし、それぐらいポテンシャルの高いチームがたくさんあります。そういうチームと対戦して、自分の力を証明できれば、さらに自信が付くと思いますし、良い経験を得られるとも思っています」

―クロップ監督の就任したリバプールについてはいかがですか?
「監督が替わってから劇的にチームが変わっているというのは結果として表れていますし、彼のドルトムントでのスタイルを選手や環境の異なるリバプールでどうやって構築していくのか、非常に興味深いですね。監督に就任して、まだ2、3か月しか経っていないですし、監督もチームを作るうえではまだまだ時間がかかると思いますが、だからこそこれからが楽しみですね」

―もしもリバプールとヨーロッパリーグで対戦することになったら、どんなプレーを見せたいですか?
「対戦するには、まず勝ち上がらないといけないですが、素晴らしいサッカーをしたうえで勝つことができれば、これ以上ない勝利になると思いますし、これ以上ない監督への恩返しというか、自分というものを証明できると思います。良い試合をして、なおかつ勝ち切ることができれば、最高の勝利だと思います」

―もし対戦が実現したら、香川選手だけでなく、チーム全体にとっても特別な試合になりますね。
「ドルトムントという街自体にとっても特別な監督だと思います。僕だけでなく、チーム、街、ドルトムントというクラブにとって、クロップ監督というのは本当に大きな意味を持った監督なので、もし対戦することになれば、チームとしても街としても素晴らしいことだと思います」

―古巣のマンチェスター・ユナイテッドもヨーロッパリーグに回ってきます。
「チャンピオンズリーグで敗退が決まって、プレミアリーグでもここ数試合は上手くいっていないようですが、僕は何かを言える立場でもないですし、チームのことは何も言うつもりはありません。ただ、ポテンシャルのあるチームですし、ワールドクラスの選手がたくさんいるチームだと思います。オールド・トラフォードという歴史のあるスタジアムもあります。あのスタジアムを持っているというだけで大きな意味がありますし、対戦相手に大きな脅威を与えるスタジアムだと思っています。僕自身、もう一度、あのスタジアムで戦うことが一つの目標でもあります」

―日本代表は2015年、アジア杯を含めて17試合戦いましたが、うち16試合がアジア相手の試合でした。世界との差を見極めるには難しい1年だったと思いますが、2018年のロシアW杯に向けて日本代表の歩みは順調なのでしょうか。
「親善試合であれ、なかなかアジア以外の国と試合ができる環境ではなかったのは事実で、世界とどう戦っていくのかということを計るうえでは、なかなかその経験を得ることはできませんでした。ただ、それは仕方のないことで、僕たちはそれを受け入れたうえで、世界を見据えて戦っていかなければなりません。その意味では日頃、個人個人の戦う場所がすごく大事になってきますし、ヨーロッパ(のクラブ)でプレーし続けるというのは、代表においても大きな意味を持ってくると思います。もちろん、日本代表として集まったときには結果を求めていかないといけないですし、この1年間の内容にはまったく満足していません。確かにアジアのレベルも上がってきていますが、それでも僕たちはもっともっと自分たちの力を証明する1年にしなければならなかったと思っていますし、特にアジア2次予選の相手に対して、攻撃という部分ではすごく課題の残る1年だったと思います」

―アギーレ監督からハリルホジッチ監督に代わりましたが、縦に速い攻撃というコンセプトには共通している部分もあります。相手のレベルが上がったときに、今のサッカーがもっと生きてくるという将来への期待感もあるのではないですか?
「そうですね。実際、2014年のブラジルW杯ではコートジボワール戦もコロンビア戦も自分たちが押し込まれる時間帯のほうが長かったと思います。僕たちは支配したかったけど、できなかった。それが現実です。W杯という舞台で自分たちがポゼッションしてサッカーができるほど、世界は甘くない。ポゼッションだけではなくて、自分たちはこういう戦いもできるんだということを示す必要がありますし、そういうサッカーに順応していく必要があります。今後、世界レベルの国、ヨーロッパや南米のチームと対戦したときに、ハリルホジッチ監督のサッカーであり、今の世界のトレンドでもある“裏への速い攻撃”というのがどこまでできるのか。その真価が試されてくると思っています。そういう意識は代表期間中だけでなく、常に持ち続けてやらないといけないですし、世界で勝っていくには、普段の取り組みから高い意識を持ってやっていかないといけないと思っています」

―最後に香川選手のスパイクへのこだわりを教えていただけますか。
「フィット感や軽さということを重視している中で、この『X(エックス)』というスパイクにはすごく満足しています。海外というプレッシャーの激しい舞台でスパイクの重要性はすごく実感していますし、そういう中でこのスパイクが僕のプレーに安定感をもたらしてくれていると感じています」

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(取材・文 西山紘平)

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