beacon

[SEVENDAYS FOOTBALLDAY]:これからの自分へと続く道(東洋大・仙頭啓矢)

このエントリーをはてなブックマークに追加

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

「去年もハットトリックは1度したんですけど、1、2年生の時は全然できなかったですし、これが年に1回とかなので、それをしっかり増やしていけるようになれたらもっと上のレベルでもやっていけるのかなと思います」。圧巻のハットトリックでチームを勝利に導いた男は花粉症で少し鼻声になりながら、貪欲にさらなる結果を求める姿勢を露わにする。“もっと上のレベル”を目指す男の名は仙頭啓矢。自ら「やっぱり選手権の時のイメージが強いですよね」と語る彼のプレーを覚えている方も少なくないのではないか。

 第91回高校選手権。2度目の全国挑戦となった京都橘高は快進撃を続ける。小屋松知哉(名古屋)と2トップを組んだ仙頭はほぼ1試合に1得点のペースで得点を重ね、準決勝では憧れの国立競技場でゴールを奪い、チームを決勝へ導く。過去に前例のない大雪で5日間の順延を余儀なくされた決勝でも仙頭は勝ち越しゴールを記録したが、終盤に追い付かれて優勝の行方はPK戦に委ねられる。しかし、1人目のキッカーで登場した彼のキックは右のポストを直撃。日本一にはあと一歩の所で届かなかった。試合後にチームメートに抱きかかえられながら号泣する姿も見る者の涙を誘ったが、それ以上に高い技術を生かした小気味よいプレーで多くのフットボールファンに鮮烈な印象を残し、仙頭は選手権の舞台を後にした。

 進学した東洋大では1年生から出場機会を得たものの、古川毅監督は「入ってきた時からゴールに直結するプレーに光るものはありましたが、5回そういうプレー機会があれば5回狙って、通るのはせいぜい1回か良くて2回。残りの60パーセントないし80パーセントはボールを失ってしまうというプレーヤーでした」と当時の仙頭を振り返る。本人も「監督にもそれは良く言われています」と苦笑いを浮かべながら、「それだけを狙って成功しなければチームがしんどくなりますし、時間帯を考えたり『ここは違うな』という時はしっかり“キャンセル”して違うプレーを選択するという部分は、だいぶ自分の中で考えてできるようになってきたのかなと感じています」と続ける。古川監督が「この3年間で“キャンセル”する判断というのが上がってきたので、今ではプレーの確率としては80パーセント以上を維持しつつ、ゴールチャンスに繋げるという所を評価しています」と話していたことを本人に伝えると、「ちょっとは大人になったのかなと思います」と笑顔を見せる。高校時代より少しだけ大人っぽくなった雰囲気も、笑った時は当時のそれとまったく変わらない。

 昨年は大宮アルディージャのトレーニングに参加する機会を得た。「上手さや技術は東洋も含めた大学サッカーとそこまで変わらないと思うんですけど、1つの球際の強さとか個人で打開できる能力とか、そういう1人1人の能力という所でプロとアマでは差があるのかなという風に感じました」と肌でプロのレベルを体感した上で、決意したのは「個人でも決着を付けられる選手になること」。自らのプレーでチームを勝利に導くだけの結果を残さないと、上の舞台では通用しないと再認識した。チームの結果がなかなか付いてこない中で迎えた東京学芸大とのリーグ戦(関東2部)。1点を先制される苦しい立ち上がりを強いられたが、CKを直接ゴールに叩き込む同点弾を奪った仙頭は、その2分後にもGKとの1対1を冷静に制して逆転に成功。後半にも東洋らしいワンツーの形から3点目を流し込み、ハットトリックの活躍で大きな勝ち点3をチームにもたらす。「去年までは先輩がいたので甘えていた部分があったんですけど、今年は最終学年で一番公式戦も経験している自分が引っ張っていかないといけないのかなというのは感じているので、そういう所を意識してチームを引っ張っていければいいのかなと思います」。自分が決着を付けることが、そのままチームの好結果に直結する。仙頭はチームのすべてを背負う覚悟で、1部昇格を目指す大学生活最後の1年を走り出した。

「2部に落ちたりして、『あの選手はどうなっているんだ』と思っている人もたくさんいると思いますし、そういう面では悔しいですけど、逆に言えば選手権のことがあったから常に注目してもらえているというのはありますし、あとは自分がどれだけ結果を残すかという所だと思うので、そういう面ではポジティブに捉えて、“選手権”を良い意味で生かしていきたいですね」と言った直後、「それでも『選手権の時の仙頭』ではなくて、今の自分や将来の自分をちゃんと見てもらえるような活躍をしなくてはいけないのかなと感じています」と少し本音が覗く。進路をプロ1本に絞っているため、“就活”はしていないという。ただ、それはすなわち日々の練習や1つ1つの試合すべてが“就活”という日常に身を置いていることとイコールである。「サッカーを始めた時からサッカー選手になりたいと思っていて、それは僕がずっと小さい時から思っている夢なので、その夢を叶えるためには今しっかり結果を残さないといけないと思っています」と最後に決意を示した仙頭。21歳の青年は『これからの自分』へと続く道を確かなものにするため、『今の自分』と向き合う日々を過ごしている。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務し、Jリーグ中継を担当。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」


▼関連リンク
SEVENDAYS FOOTBALLDAY by 土屋雅史

TOP