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「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第29回:「J参入」意思表明の刺激(東京武蔵野シティFC U-18)

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“ホットな”「サッカー人」をクローズアップ。写真1枚と1000字のストーリーで紹介するコラム、「千字一景」

 本格的な夏の訪れを前に、日本クラブユース選手権(U-18)大会の予選が各地で開催されている。勝てば全国大会出場が決まる関東予選の2回戦。東京武蔵野シティFC U-18は、強豪のFC東京U-18を相手に先制したが、後半に逆転を許して1-4で敗れた。

 聞き慣れないチーム名だが、胸に「YOKOGAWA」の文字が躍る黄と青のユニフォームは変わっていない。JFL所属のトップチームが昨年11月にJ参入を目指す方針を発表し、今季からは育成組織も含めてチーム名を改称した。今はまだ、横河武蔵野FCユースから名前が変わっただけだが、ヘディングで先制点を奪ったMF成実浩太郎が「練習が終わった後にトップチームを観に行くようになったし、大学を卒業した後、トップの力になれたらいいなという気持ちも出て来た」と話したように、選手の心には小さな変化がある。パワフルな突破でアシストしたMFモリソン健太郎は「名前が変わって1年目で、FC東京に勝って全国に行きたかった。トップの調子が良くないので、オレたちでクラブの雰囲気を変えたい気持ちがあった」と新名称のアピールを狙っていた。

 元々、スクールを中心とした育成に定評のあるクラブだが、アマチュア組織であるため、プロを目指す子どもたちがジュニアユースやユースに上がらず、Jクラブや高校の部活動に進むケースが多い。U-18の選手も大学やプロが希望進路だ。しかし、クラブの中に目指せる場所が出来れば、彼らの視線は変わる。中盤の守備で奮闘したMF岸拓哉は、ジュニアユース昇格を見送られてもセレクションを突破してクラブに残り続けた選手だ。「Jに入ったら、U-18の選手も大学じゃなくてトップを目指すようになると思うし、トップがJリーグで活躍してくれたら嬉しい」と愛着あるクラブの変化に期待を込めた。

 今は一矢報いるのが精一杯。それでも東京勢はFC東京、東京Vだけじゃないと言いたい気持ちは、誰もが秘めている。成実は「町田ゼルビアの活躍は、複雑。5年前まではJではなかったのに、今ではJ2で2位。だから、1回戦のゼルビアユース戦(3-2で勝利)は絶対に負けたくなかった」と台頭する第3勢力に対する嫉妬と意地を垣間見せた。FC東京に勝てば良いアピールになったが、壁は厚かった。しかし、順位決定戦で11位以内に入れば全国の切符を獲得できる。最後までゴールを狙い続けたMF西村悠は「全国への道のりがある限り、諦めない」と言い切った。新名称を引っ提げて東京に武蔵野ありを示せるか。挑戦は、続く。

■執筆者紹介:
平野貴也
「1979年生まれ。東京都出身。専修大卒業後、スポーツナビで編集記者。当初は1か月のアルバイト契約だったが、最終的には社員となり計6年半居座った。2008年に独立し、フリーライターとして育成年代のサッカーを中心に取材。ゲキサカでは、2012年から全国自衛隊サッカーのレポートも始めた。「熱い試合」以外は興味なし」


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